11話 伝説の剣士








「で、アルスくん。次はどこに行くの?」


「さあ。イリスは行きたい場所ある?」


「もちろんダンジョンよ。私がリーダーならアルスもダンジョンに入れるんだからね」


「だそうですよ。レイラ。今まで、ありがとう」


「レイラさん。楽しかったわ。ありがとう」


「え? 私も一緒に行くわよ。責任取ってって言ったわよね」


「え? レイラはギルド職員だよね?」


「ふふふっ。今は違うわよ。辞めたんだからね」


「辞めた? 僕はいいんだけど……イリスは?」


「もちろん、歓迎するわよ。アルスの収入だと、後20~30人くらいハーレムを作っても問題ないからね」


「ふふふっ。ですね」


「はぁ~。でも本当にいいの? 冒険者ギルド職員を辞めたこと、後悔しない?」


「しないですよ。元々冒険者として生きると決めてましたから」


「ん? じゃあ、どうして冒険者ギルド職員に?」


「限界だったの。私達のパーティは。上を目指したい私に仲間達はついて来れなかった。無理して仲間を失うわけにも、いかないし。別のパーティに移籍するのも違うかな~って思ってたんだよね。そんな時に仲間達を守りながら戦う私の戦闘スタイルを見たギルド職員がギルドマスターに推薦してくれてたの。限界を感じていた私はそれでね」


「私はS級冒険者を目指すわ。最強の魔法使いイリス。爆炎のイリスって呼ばせてみせる。レイラさんは私について来れる?」


レイラさんは微笑んだ。


まだまだずっと格下のイリスにそんなことを言われたのに満面の笑みのレイラ。


「私は足手まといになるつもりはないわよ。私は最強の剣士になる。魔力刃だってマスターしてみせるわ」


「ふふふっ。そう来なくっちゃ。で? アルスは?」


「僕? 僕は楽しく冒険者出来たら、それでいいかな?」


「何よ、それ。もっと向上心を持ちなさいよね」


「ふふふっ。既に魔力刃が使えるアルスくんが、上を目指しなら。アルスくんなら、あのオルス様とだって肩を並べられるようになると私は思うわね」


「無理だよ。僕はあの人より強くはなれないよ」


「何よ。努力する前から諦めるの?」


「僕はただ楽しく冒険がしたいだけ。まあ、仲間と支え合って、強敵と戦いたいとは思ってるかな」


「向上心なさすぎ~」


「ふふふっ。アルスくん、強敵って?」


「う~ん……邪神? かな?」


「何よ、邪神って?」


「アルスくんは神様と戦うつもりだったの?」


「え~っと……イリスとレイラと一緒なら、神様が相手でも勝てるかなってね」


「神様になんか、勝てる訳ないでしょ」


「ふふふっ。イリスちゃんは戦う前から諦めるのね。アルスくんについていくのは大変そうだけど。ふふふっ。望む所だわ」


「ムッ。すぐに追いついてみせるんだから。アルスにも、レイラさんにも」


「ふふふっ。私はいつでも受けて立つわよ。このS級の剣は借りてていいのよね?」


あっ。そうだ。イリスとレイラと一緒だと使いづらいから、どうせなら、レイラに。


「レイラには、こっちの剣の方がいいと思うよ」


「あ~、気に入ってたんだけどな~。さすがにS級の剣をずっとだなんてね」


レイラはそう言うとSSS級の剣を僕に返してくれた。


そしてLR級の剣を手にしたレイラは固まる。


イリスが首をかしげる。


「レイラさん、どうしたの? って、何よ。その、ショボい剣は。アルス、意地悪しないで、A級の剣を貸してあげなさいよ」


「ち、違うの、イリスちゃん。この剣は……この剣は……凄い。凄すぎるの。特殊スキルを使ってないのに、使った時以上に」


「え? S級以上の剣なんて、あるの?」


「アルスくん? この剣は?」


「冒険者をしていた父の形見で、等級は分かりませんよ」


ポカンとしたレイラに、僕をジト目で見つめるイリス。


「アルス。少しは私達のこと信用して、本当のこと話してくれてもいいんじゃないの」


「本当のことか。じゃあ、問題です。その剣の入手方法は? 1、父の形見。2、ダンジョン最下層にいた黒竜さんから貰った。さて、どっちだ」


「何よ、それ。正解はないんでしょ」


「イリスは僕を信用してないの?」


「アルスくん。私は信じる。この剣は凄すぎる。アルスくんの父親がオルス様だとしてもね」


「え? アルスの父親がオルス?」


誰もそんなこと言ってないのに、自信満々のレイラに、それを信じたような感じのイリス。


「はぁ~。2択だよ。それより、レイラ。その剣なら、使えるかもよ」


「使える?」


「レイラの特殊スキルを使用すれば魔力刃が使えるんじゃないかな?」


「え? 魔力刃? 私が?」


「ねぇ、アルス。その剣なら私も?」


「イリスには無理だよ。ある程度の熟練度が必要だからね」


「私もまだまだ。魔力を操るためのレベルにも、熟練度にも達してない」


僕は空間収納の中から剣を取出し、構える。


「ステータスが上昇したことで、魔力の流れを感じることが出来る可能性があると思うよ。攻撃する時も、防御する時も魔力を使って強化してるんだからね」


「出来るか分からないけど、やってみるわ。目覚めよ、我が力。全ての敵を打ち倒す力を。特殊スキル、【一騎当千】」


レイラは特殊スキルを使用すると剣を構えた。


ジッと動かないレイラ。


目を閉じたレイラ。



さすがに、無理か。なら。


僕は目を閉じているレイラに斬りかかった。


「え?」


レイラは目を閉じたまま、僕の剣を受けた。


「何やってるのよ、アルス」


怒ったような声でそう言ったイリスを無視して、僕は更にレイラに攻撃を。


レイラは目を開け、僕の攻撃を受ける。


そして、僕に攻撃を。


LR級の剣の身体能力上昇と特殊スキル一騎当千の効果でレイラの動きは僕の予想以上に。


「凄い。レイラさんの動きが見えない」


「これも、受けるのね。さすが、アルスくん。アルスくんは、やっぱり強かったのね。でも、これなら、どうかしら。剣技、疾風斬り、嵐」


レイラが魔力で身体能力を更に上昇させた。もちろん、無意識で魔力を使用しているのだろうが。素早いレイラの連撃を僕は全て剣で受け流しながら、レイラに接近した。そして、剣を握っていない左手の拳で、レイラの胸を突く。


レイラは驚き、攻撃を中断して、後ろヘと飛ぶ。


「少しは魔力の流れを感じられたかな?」


レイラは首を横に振る。


「今の攻撃は私に魔力の流れを教えるため?」


「うん。攻撃に使用していた魔力を、防御に使用するために、急激に移動させただろ」


「分からない。私は何も……」


まあ、無意識にやってるんだから、すぐには理解出来ないか。


「じゃあ、もっと強く攻撃を意識して、もっと強く防御を意識してみて」


「やってみる。剣技、疾風斬り、嵐」


おっ。更に速くなったな。じゃあ、次は攻撃して来たタイミングで。


僕は右手に持つ剣で、レイラの剣を受けると同時に左手の拳でレイラの胸を突く。


そこまで左手の拳に力を入れていなかったのだが、まったく防御出来なかったレイラは後ろヘと吹き飛んだ。


これなら、分かってくれたかな?


レイラの魔力は防御するために胸へと流れただろう。僕の攻撃より遅れて。だからこそ気づきやすいはずなのだが。


「レイラ、分かったかな?」


地面の上に仰向けに倒れたレイラは僕が攻撃した胸へと手を当てる。


「分からない。でも……」


レイラは立ち上がる。


「アルスくん。もう一度。もう一度、お願いします」


真剣な表情のレイラ。気づきかけているのかも知れない。


「何度でも。行くよ、レイラ」


僕とレイラの剣は火花散る。


真剣な表情のレイラ。


剣と剣が交差し、5度目の火花が散った瞬間に僕はしかけた。


レイラの胸に僕の左手の拳を寸止め。


攻撃に使用していた魔力が防御に使用するために流れただろう。寸止めしたので、レイラには痛みがない分、魔力の流れに気づきやすいはず。


「レイラ。魔力の流れが分かったかな?」


レイラは少し考えた後で、首を横に振った。


まだ早すぎたかな? レイラはB級冒険者。さすがに無理があったか。


「アルスくん。お願い。もう一度」


レイラは諦めなかった。





僕も試行錯誤を繰り返す。







熟練度が足りないなら、上げればいい。






真剣な表情のレイラを見ていると、そう思えた。






無能だった僕にも出来たのだから、レイラなら出来る。





日が傾いて来たが、レイラは諦めない。






レイラが諦めないなら、僕が諦める必要などない。





日が暮れたが、レイラは諦めない。






レイラは。






しかし……。


「疲れたよ。見てるだけだから、暇だし~。また明日でも、明後日でもいいでしょ。それに、お腹空いたよ~~~」


イリスが限界だったようだ。


「ゴメンね、イリスちゃん。アルスくんも疲れたよね。ゴメン。そして、ありがとう」


「僕の教え方が悪かったかも。レイラが良ければ、また明日、続きをやろう」


「うん。お願い。お願いします」











レイラが魔力刃を覚えるまで、僕はいつまででも付き合おうと思っていたのだが。


だが。


だが。


うおっ。危なっ。


翌日、レイラの剣にいきなり力が宿る。


僕の剣はSSS級なのだが、完全に斬られてしまったよ。剣に魔力を纏わせていなければ、僕は本当にヤバかったかも知れない。


「出来たようだね、レイラ。完璧な魔力刃だったよ」


「身体が勝手に……。まだ魔力の流れも掴めてないのに」


「え? 魔力の流れが理解出来てないなら、魔力を剣に纏わせることが出来ないよね?」


「あっ。出来た。魔力の流れも何となく分かったかも?」


は? 天才なのか、レイラは?


魔力の流れが理解出来てから、剣に魔力を纏わせるまでに最低でも半年。更に魔力刃を飛ばせるまでに数ヶ月間はかかると思っていたのに。


これが無能な僕との差なのだろうか。


ちょっと腑に落ちなかったのだが、それは、ただの僕の嫉妬だろう。






伝説の剣士が誕生したのは


この日だった。


若くして魔力刃をマスターしたレイラの物語が始まる。











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