10話 伝説の魔法使い







「アルスくん。せ、責任取ってよね」


真っ赤な顔のレイラ。


ジト目で僕を見つめるイリス。


「僕は何もしてないよね。酔っ払ったレイラとイリスが裸で僕のベッドにダイブして来たから、僕は隣の部屋で寝たんだから」


「え? 何もしてない? でも温もりが……」


「それはイリスだよね」


「でも……あんなこと……」


「だから、イリスだよ、それ。だよね、イリス」


「覚えてない。でも確かにアルスじゃなかったかも」


「まったく。飲み過ぎなんだよ」


「うっ。イリスちゃんだったなんて」


「お、お子ちゃまには、お酒の美味しさが分からないのよ」


真っ赤な顔でうなだれるレイラ。


僕から目をそらすイリス。


「はぁ~。冒険者ギルドに行くんだよね」


「そうよ。レイラさん、私をC級冒険者にしてくれるのよね」


「あれ? E級冒険者じゃなかった?」


僕が首をかしげながら言うと、レイラがため息を。


「はぁ~。あれだけ戦えたんだから、E級冒険者は低過ぎるってイリスちゃんに言ったのよ。でもC級冒険者は無理ね。イリスちゃんはD級冒険者に昇格で、アルスくんが望むなら、アルスくんをA級冒険者に推薦するわよ」


「A級? アルスがA級なら、私をC級にしてくれてもいいでしょ」


「僕は今のままでいいよ」


「アルスくんは魔力刃が使えるんだから、S級冒険者でもいいくらいなのよ。イリスちゃんはまだまだ経験が足りないわ」


「魔力刃? それが使えればA級冒険者。いや、S級冒険者になれるの?」


「ふふふっ。なれるわよ。頑張って、イリスちゃん」


「イリスは魔法使いだよね? 全然魔法使ってないけど。魔法使いは魔力刃よりも、魔法剣の方がいいと思うよ」


「魔法剣なんて、無理に決まってるでしょ。アルスは何にも分かってないんだから」


「ふふふっ。魔法剣の難易度はC。ちなみに魔力刃の難易度はね、Sだよ」


「え? 魔法剣の方が簡単なの?」


「ふふふっ。簡単じゃないけど、難易度は魔法剣の方が低いはね」


「じゃあ、今の私なら」


「イリスは魔法使ってないだろ。剣と魔法の熟練度を上げないと魔法剣は絶対に無理だからね」


「だね」


「むっ。アルスは剣士なのに、魔力刃を使えるんでしょ」


「剣士だから、魔力刃しか、使えないんだよ」


「しか?」


「魔法使いは魔力から魔法を生み出すことが出来るよね。僕はそれが出来ない。だから、魔力そのものを操るしかないんだよ」


「魔力を? どうやって?」


「魔法が使えなくても、剣士にだって魔力はある。魔力はエネルギーだから、剣士だって無意識に活用してるんだよ。身体強化や防御力強化にね」


「え? 身体能力上昇の魔法や防御力上昇魔法を使ってるの? そんな話は聞いたことがないよ?」


「魔法じゃないんだ。魔力そのものを使用してるんだよ」


「意味が分からないよ。それだと魔法を使う意味がなくなるってことだよね?」


「そうじゃないよ。魔法の方が圧倒的に上昇させることが出来るんだ。それに新人剣士だと、ほとんど強化させることが出来ないし、レベルや熟練度が上がっても、少しづつ、少しづつしか強化されていかないんだよ。だから剣士のほとんどが魔力操作をしてることに気づいてないんだ。まあ、僕もS級冒険者になるまでは、まったく気づいてなかったんだけどね」


「S級? アルス、S級冒険者って?」


あっ。やばっ。


喋り過ぎて、ボロが出てしまった僕はイリスから目をそらしてしまう。


「アルス?」


「もしかして……アルスくんは転生前の記憶があるのね。記憶保持者だったのね」


転生? 記憶保持者? 何のことだろ?


「輪廻転生ね。アルスの強さは魂の強さってことなのね」


魂の強さ? 輪廻転生?


「アルスくんは知らないの? 大天使ペプクス様の教えを?」


「大天使? 僕は宗教には詳しくないかな?」


「ペプクス様は有名なのよ。見習い天使や天使や大天使とか、様々な呼ばれ方をしてるわね。ペプクス様こそが、神様だと考えている人達もいるわよ。そして、最近もあったの。ペプクス様から神託が」


「神託?」


「アルスは神託の意味も知らないんだね。で、レイラさん。どんな内容だったの?」


「神様は常に君達を見守っている。神様は君達と共にいる。神様は君達を愛している。ずっとそのような言葉を悲しそうな感じで、仰られていたそうよ」


「悲しそうな感じ? 神託って、天使さんから直接聴くってこと?」


「心に聞こえるって言われてるわね。今回は神官や巫女だけじゃなく、各国の王や冒険者ギルドの各支店のギルドマスター達も聞いたんだってよ。だから、何かがあるんじゃないかって、冒険者ギルド内は大騒ぎになってたんだよ」


「いつもの神託とは違うってこと?」


でも……神様ならダンジョンの中にいるんだよね。邪神の侵攻に備えて、力を蓄えるためにね。


レイラとイリスから、過去の神託について、色々と説得されたのだが、ダンジョンの中に神様がいると知っている僕には、嘘のように感じた。


まあ、神官や権力者達が都合のいいように改竄したのかも知れないんだけどね。


















「F級冒険者がいきなりD級冒険者にだと? 正気なのかレイラ」


「はい。教官の私の判断でイリスさんをD級冒険者にします」


「前例がないこともないが……。よし、俺が実力を見てやろう」


なぜかイリスと冒険者ギルドのギルドマスターが模擬戦をすることに。


「ごめんね、イリスちゃん。本当なら、模擬戦する必要ないのに」


「大丈夫ですよ。私はD級冒険者の実力があるんですから」


「うん。それは間違いないわ。私が保証する」


「ふん。ほんとかどうかは、すぐに分かる」


ギルドマスターはイリスの実力を完全に疑っているようだ。











街中で戦うと事故が起こる可能性があるので、僕達は街の外へ。


ギルドマスターはイリスを見て、眉間にシワを寄せている。


「イリスくんは魔法使いだと聞いていたが?」


「そうよ。私は魔法使いよ」


イリスは僕が貸したSSS級のフル装備。僕が見ても剣士にしか見えない。それに僕はイリスが魔法を使った所を一度も見たことがないんだよね。


「金に物をいわせた、お嬢様ってことですか。冒険者を舐めてもらっては困りますよ」


ギルドマスターはそう言うと、剣を構えた。


「ふふふっ。私の魔法剣を見てもらうわよ」


イリスが笑いながら言うと、ギルドマスターは更に眉間にシワを寄せた。


「魔法剣だと。はったりだな。君の熟練度では魔法剣は無理だ」


魔法剣? ん~。はったり? イリスははったりは言わないけど……魔法剣は使えないよね?


「火の精霊よ。私に力を貸して。攻撃魔法、大爆炎」


イリスが魔法を放った。


イリスとギルドマスターの間で炎が大爆発し、ギルドマスターの姿が炎で見えなくなる。


イリスは? イリスが炎の中へと。炎を無視して、ギルドマスターの方へと走るイリス。


すぐに炎の中からイリスの声が。


「風の精霊よ。私に力を貸して。攻撃魔法、突風」


強い風が吹き、炎がギルドマスターの方へと向かう。その炎の中にはイリス。


炎を纏ったイリスは、そのまま剣でギルドマスターに斬りかかる。


「ちっ。なんて攻撃を」


ギルドマスターはイリスの剣を自分の剣で受けたのだが、炎がギルドマスターを襲う。


「火の精霊よ。私に力を貸して。攻撃魔法、火柱」


「ちっ。無茶しやがる」


イリスとギルドマスターを包み込む火柱が。イリスは炎を気にせずに剣でギルドマスターに斬りかかる。


イリスの装備している鎧も兜も魔法防御力が高い。

更に火耐性の指輪と火属性強化の指輪も装備している。それでも、自ら炎の中に飛び込んで戦うなんて、聞いたことがない。



炎の中から余裕の表情で出て来たイリスがギルドマスターに言い放つ。


「どうかしら? 私の魔法剣の威力は?」


「何が魔法剣だ。危ない自爆技を使いやがって」


「魔法と剣だから魔法剣でしょ。あっ。そうね。他の人が使ってないなら、新魔法剣ってことね」


「あれは、ただの魔法と剣だろ。自らもダメージを負うんだから、自爆技だな」


「ふっ、ふっ、ふ~。私にダメージはないんだな~」


「何? ダメージがない? 一部が幻影の炎だったのか?」


「違うわよ。この装備は魔法防御力が高いのよ。あれくらいの炎じゃ、ダメージは負わないのよね」


「爆炎に炎柱の中でノーダメージだと」


「そうよ。もちろん、合格なのよね」


「うっ。それは……」












ギルドマスターは何も言わなかったのだが、冒険者ギルドに戻るとイリスにD級冒険者のプレートが渡された。




伝説の魔法使いが誕生したのは


この日だった。




爆炎の中のイリス


の物語が始まる。










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