9話 最下層
ダンジョンに出る魔物の強さは階層で予想することが出来る。
150階層の魔物ならレベル150の冒険者が6人で倒すことが出来るくらいの強さ。
もちろん装備や仲間達との連携も重要になるのだが。
オルス
年齢70
レベル149
職業→剣士
僕はボス部屋の中へと入る。
ちょっと調子に乗り過ぎたのかな。
そろそろダンジョンを脱出した方がいいのだと分かっていたのだが、問題なく魔物を倒せていたので、この階層まで、ボス部屋の中にまで入ってしまった。
150階層のボス部屋の中にいた魔物は4メートル程の黒竜。
S級の冒険者だった僕でも初めて見る魔物。
勇者の物語で描かれているだけで、実際に目撃されたことはない伝説の魔物だ。
高い位置から僕を見下ろす黒竜。
ジッとしていると、恐怖で動けなくなりそうだった僕は剣を構えて前に出た。
先手必勝。
僕は黒竜の胸目掛けて横斬り。
予想外にサクっと斬れた黒竜の胸。
勇者の物語では黒竜の鱗は刃も魔法も通さないと書かれていたのだが。
イケると踏んだ僕はすぐに追撃を。
剣を振り上げ、思いっきり黒竜目掛けて振り下ろす。
ザックリと斬りつけることが出来た。
手応えもあった。
しかし……僕は飛んでいた?
僕は壁に激突して止まる。
攻撃されたようだ。僕が攻撃した瞬間を狙って。おそらく尻尾。
僕は追撃されないように、すぐに立ち上がり、空間収納の中から上級ポーションを取出し、一気に飲み干す。
『ほう。今の攻撃に耐えたのか。か弱き人族にしてはヤルな』
「え? 喋った?」
『当たり前であろう。人族に言葉を与えたのが我々竜なのだからな』
「竜が人に?」
『何も知らぬのだな。神は邪神の軍から、この世界を守るために、竜を作ったのだ』
「神? 神様? 神様って本当にいるの?」
『いるかだと? 無知なる者よ。神がいなければ誰が世界を作ったというのだ』
「え~っと……そうなのですか。人も神様が?」
『そうだ。我々のサポートをするためにな』
「サポート……。邪神は?」
『我々は勝利した。だが邪神を倒すまでには至らなかった』
そんな話は聞いたことがない。嘘? 嘘を言っているようにはかんじないのだが。
「何年前の話ですか?」
『さて。あれからどれくらい……。5千年? 6千年……。もっとか』
え? 5千年以上前?
「黒竜さんは……なぜダンジョンの魔物に? 転生ですか?」
『我は魔物ではない。我らには寿命はない。魔素の濃いダンジョン最下層で力を回復させ、邪神の侵攻に備えているのだ』
「邪神の侵攻? 邪神は再び攻めてくると?」
『ああ。必ず来る』
来るんだ~。邪神。強いんだろうな。
「もうすぐですか?」
『ああ。間違いない。最後の赤竜が復活したのだ。後2~3千年の内に来るであろう』
ん? 2~3千年? 僕が生きている間には来ない。っていうか、そんな先の話なら人族が生存してるのかも分からないよね。
「他のダンジョンの最下層にも竜が?」
『ああ。邪神との大戦を生き抜いた金竜、紫竜、黄竜、緑竜。そして我だ。死した青竜と赤竜も復活したことで、7竜が揃った』
「7竜? ダンジョンは沢山あるのに、7竜しかいないってことですか?」
『神が作ったダンジョンは7つ。他のダンジョンは別の神が作ったのであろう』
「別の神? 邪神ってことですか?」
『邪神はこの世界の神ではない。他の神とは神竜様以外の神。魔族の神に獅子族の神。犬族の神に猫族の神に狼族の神。種族の数だけ神がいる』
「あれ? 人族は竜神様が作ったのですよね?」
『人族の神はいないのでな。邪神に滅ぼされたのか、元々いないのか』
いない? 人族の神様だけが? いや、いるはずだ。
「僕達に、人族に特殊スキルを授けてくれているのが、人族の神様じゃないのですか?」
『特殊スキル? 特殊スキルとは何だ?』
「え? 特殊スキルを知らない?」
『だから特殊スキルとは何だ?』
「え~っと……スキルの上位版かな? 人族は特殊スキルを持っているおかげで、他種族より強いですからね」
『強い? 人族が? 最弱の種族が他種族を凌駕した?』
何だか凄く驚いている黒竜さん。
「もしかして昔は違った?」
『ああ。人族は弱かった。我らに仕えることで身を守っていたのだからな。そもそもスキルとは魂の力。魂を鍛えるには我らのように長き時を生きるか、もしくは転生を繰り返すしかないのだがな』
「魂の力? あっ。そう言えば……誰かが転生とか話していたような……。神様とか……。あれが夢でなければ、神様に転生に特殊スキル」
『人族は転生出来るようになっていたのか。人族の神とはどこで会った? 神殿か?』
「え? 会った? 夢の中……かな?」
『夢? 我を謀るつもりか。神とて万能ではないことは周知の事実。直接会わねば力を授かることが出来ぬであろう』
「え? そうなのですか? いや、僕が会った場所は現実世界じゃないはず。あれ? 竜の神様とは会ったことがあるのですか?」
『あたり前であろう。我は神より作られたのだからな』
「実際にいると?」
『ああ。北にあるダンジョン最下層で力を蓄えているはずだ』
「神様がダンジョンに……。もしかして他の種族の神様も?」
『ああ。人族以外の神は存在しておる』
人族の神様だけがいない? まあ、5千年以上も前の話なら。
「それは昔の話で、現在は違う可能性があるのですね。あっ。人族を作ったのは本当に竜神様ですか?」
『我を疑うか。人族の神がおらぬなら、人族は生まれぬは』
「いたなら。神竜様から聞いた話なのですか?」
『違うが……。あの媚びるだけの人族が、守らるだけの人族が……。人族は本当に我ら竜族なしで生活出来ておるのだな?』
「はい。僕は今まで最強種族が人族だと思っていましたから」
『最強……。他の種族は?』
「人族に敗れた他の種族達は辺境へと移り住んだと言われていますよ」
『人族の神……。特殊スキル……。人族が他種族を凌駕するとは……。あの人族が……』
人族って、そんなに弱かったのかな? 確かに特殊スキルなしでは他の種族には勝てないかも。
僕は何度か他の種族と戦ったことがあった。同レベルの相手だと身体能力に優れた獣族には勝てない。そして魔法を駆使して戦う魔族には格下の相手であっても勝てなかった。
無言で何かを考えていた黒竜さんが口を開く。
『良かろう。最下層まで辿り着いた貴様の実力を認め、宝を授けよう』
部屋の中央に宝箱が出現する。
宝箱の色は……七色?
初めて見る色だ。
何だか……黒竜さんも驚いているように感じるのだが……気のせいだろうか?
僕を凝視している黒竜さんの前で僕は緊張しながら宝箱を開けた。
宝箱の中には剣が入っていた。
飾り気もない普通の剣のように見えたのだが。
手に取るとすぐに分かった。
この剣は凄い剣なのだと。
剣から力を感じる。
いや、剣からだけではなく、身体中からも。
身体能力を上げてくれる武具なら沢山持っているのだが、この剣は桁が違う。
僕が剣をジッと見ていると黒竜さんが口を開く。
『まさか、LR級なのか』
僕に与えてくれた黒竜さんがめちゃくちゃ驚いているのだが……返せなんて言わないでよね。
もちろん黒竜さんはそんなこと言わなかったのだが、僕は気まずくなり、すぐにダンジョンを脱出することにした。
ダンジョン脱出アイテムを使用すると
目の前にイリスとレイラが。
僕にいきなり抱きついて来たイリス。
なぜかレイラまでも。
「遅いわよ。心配したんだからね」
「すぐに脱出アイテムを使用しなかったのですね」
「ゴメン。あの冒険者が心配でね」
「人の心配ばかりして。アルスはもっと自分自身の心配をするべきよ」
「そうですよ。冒険者とは常に命がけなのですからね」
「ゴメン、イリス、レイラ」
僕は微笑み、イリスとレイラの頭を撫でた。
無事に街まで辿り着いた僕達は3人で食事を。3人で宿に。
僕は気づいていなかった。
もちろんイリスもレイラも。
黒竜さんだって全く気づいていなかった。
人族に特殊スキルを与えてくれた神様の正体。
僕に特殊スキルを与えてくれた大神様の正体。
大神様が邪神と呼ばれていたなんて。
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