五日目  今日は何の日

「おーい類!今日の仕事終わった?飲みに行かない?」


現世庁人間管理部子供担当課第五死神班のオフィス。同僚の一人に声をかけられた俺は、今担当している奴らの外回り残業に行かなきゃいけないんだと断る。ああ、お前今多忙期だったけか。じゃあがんばれよー、終わったら行こうな。とねぎらいの言葉をかけて、同僚は去る。パソコンのディスプレイに写っている画面を消して、肩に手を置てバキバキと鳴らす。あいつのところに行かなきゃな、と机の端に置いていたコーヒーを飲み干して、下界行のエレベーターに向かう。今日は比較的すいていたようで、空いている座席に座る。外を見ればもう夜明けだったようで、空が白くかすんできたのがわかる。白川少年の寿命まであと二日。前回報告書を書いた時からサボっていたらいつの間にか三日たっていたようで、急に飛んでいる日にち。まあ何とかなるだろう。


「あ、死神さんこんにちは!」


そんな面倒なこと考えていたら浮遊して彼の部屋ついていたようで、時刻も昼に変わっていた。お昼時と言ってもご飯を食べた後らしい少年は、ゲーム機を片手に挨拶してきた。ゲーム機の画面から目は離れない。


「何やってるんだ?ああ、新作のゲームか。昔からのロングセラーだよなそれ。」

「うん。死神さん結構最近に死んだんだね。死ぬ前に終わらせたくて。」


カチャカチャとコントローラーの音が響く。


「ゲームやってて叱られないのか?」

「僕、やることはちゃんとやってるからね。」


めれば、机の端に宿題がある。いろいろな教科が混じっているが、どれも懇切丁寧に解かれているようだ。中身の答えも写したわけでもなく、解答用紙や問題の端に、解こうとした痕跡が大量にある。


「へえ、もう死ぬってのにご苦労なことだな。」

「まあね。僕一様優等生だから?」

「意外だな。賢そうだったのはわかるけど。」

「病気がなきゃ頭いいとこに入ってたからね。

 まあ死ぬってわかってたらもう少し不真面目に生きてたかも。」

「それはご愁傷さまとしか言いようがないな。」


子供らしからぬ相手と会話をしながら、相手の姿を見る。今日はやけに目がらんらんとしている。何かそわそわとしていて待っているような、ゲームで何か進展があったのだろうか。


「僕さ、今日誕生日なんだよね。だから、家族が来てくれるんだ。」

「お前の家族は病気の息子のところに来ないのか?」

「いや、きてくれるよ。でも、忙しいからすぐ帰っちゃう。

 僕余命宣告自体はされてないから。二日後に死ぬなんて誰も思ってないんだよ。

 治るって信じてるんだ。」

「そうかそうか。それにしたってこなさすぎだとは思うけどな。

 そんなに忙しい職業だったか?お前らの家族。」

「いまがはんぼーきなんだって。

 僕ここ最近は死神さんとしか話してないよ。」

「俺なんかが話し相手で悪かったな。」

「うーんん。話し相手がいるとうれしい。」


誕生日、そういえば今日だなとこの間見た資料を思い出す。しかし皮肉なものだ。死ぬ前に誕生日を迎えるとは。一番皮肉なものは死ぬ当日が誕生日だけど。


「じゃあ一様誕生日おめでとうって言ってやるよ。」

「ありがと。死神さん、僕本当に二日後に死ぬの?」

「ああ、神様の言ったことだからな。」

「神様ってひどいね。僕神様に逆らったことないのに、こんなことするんだもん。」

「理不尽なものだぞ、神様なんて。どうしようもない運命だからな。」


ガチャっと病室の横開きのドアが開かれる。誰か来たようなのでおとなしく病室から出る。


「じゃあな少年。また二日後に会おう!」

「あ…ばいばい、また明日。」


少年は家族に囲まれたようで、花束やらケーキやらが大量の宿題が置いてあった机におかれて、どさどさと宿題が回収される。少し戸惑っていた少年の顔も次第に笑顔に変わって恥ずかしそうにはにかむ。あの幸せがいくつとも続かないことを知っているのに、俺には何もできないのだ。まあ仕事だからどうしようもないんだけど。まだ明るい空を背にオレンジ色の光に照らされている病室を一瞥して、今日も仕事を終わらせなきゃと、天界行のエレベーターに乗った。


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