第58話 卒業
――1年後。
「……オ、レーオ?」
「! なんだよ、カナタ」
「なんだよーはこっちの台詞やで。はよ講堂行かへんと、式始まってまう」
「もうそんな時間か……」
「教室残っとるんもおれらくらいやし、急ごか」
「ああ」
「はー、終わった終わった。卒業してもほとんど軍行きやし、あないに長くせんでもええやんな」
「……」
「レオ?」
「え? ……ああ、そうだな」
「聞いてへんやろ。なんや、今日のレオはボーっとしとるなぁ。……あ、今日やからか」
「……悪い」
「まだ最後のHRあるんやから、しゃっきりしぃや」
「早く終わってくれないかな」
「最後やから長引くやろなぁ。……なあ、おれも行ってもええ?」
「絶対嫌だ」
「はは、予想通りの答えやわ! そんな野暮なことせぇへんって!」
「……どうせ、後になったら全部知ってるくせに」
「まあ、それはしゃーないところあるやん?」
「はぁ……」
「HR始めるぞー、教室入れー」
「……というわけで、そろそろ終わるか。気を付けて帰るように。あと、この後残って学園で何かする人はちゃんと申請しておけよ」
「先生、最後まで細かいなー」
「当たり前――」
ガタッ!
「……っと、レオポルドか。どうし、っておい! ……もう行きやがった」
「先生、許したってください。今日はレオにとって、大事な、めっちゃ大事な日なんで」
「? まあ、卒業だからな」
「それだけとちゃいますけどね」
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「……まだ5分しか経ってない……」
今日は起きてから数えきれないくらい時計を見た。少ししか進んでいない時計の針を見る度に、ため息をひとつ吐く。
昨日はまったく眠れなかった。ヒューゴくんから継続して貸してもらっている文献を読んでいたから、頭を使って疲れているはずなのに、眠気が訪れなかった。正確に言えば、眠気よりも緊張が勝ってしまっていた。意識が落ちたのは部屋の中がもう明るくなった頃だった。
「……卒業式って、どのくらいの時間やるんだろう……」
もし夕方頃に終わるなら、この調子がそれまで続くのだろうか。緊張で今にも倒れそうなのに。朝ご飯もろくに喉を通らなかった。お昼も食べられる気がしない。
早く来てこの緊張から解放されたい。けれど、来たら来たで限界を超えてしまうかもしれない。それに。
「来ない、かもしれないのに……」
何を期待しているんだろうか。絶対に来る保証なんてどこにもない。口約束と指切りをしただけ。
「……浮かれすぎたかな」
わたしが退職を告げたあの日から一度も家に来なかった。たまにカナタくんが来ては、「連れてこよ思ったんですけど、梃子でも動かなさそうやったので」と申し訳なさそうに言っていた。どうして来ないんだろうと考えていたのがカナタくんにバレていたようで、「……あいつなりのけじめ、なんちゃいます?」と彼なりに気遣って言ってくれた。
「けじめかぁ……」
卒業の日に迎えに行くとは言っていたけど、それまで一切会わないとは言っていなかった。だから、会いに来てもよかったのに。だって。
「……わたしも……」
ふるふると首を振って、また時計に目を遣ると、もうすぐで正午になろうとしていた。
しっかりとした物を食べる気分ではないから、なにか温かくて甘い物でも飲もうかな。お湯を用意して飲み物を選んでいると、玄関のドアを叩く音が聞こえた。
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