第4.5話 はじめてのきょうきゅう レオポルド視点

 外からの評価がいいのは自覚していた。自分がしたいことをするというよりは、こういうふうに動いた方が円滑になるとか、余計な諍いが生まれないようにとかを考えて行動していた。みんなの先頭に立っているのもそういう理念からだった。

 正直、みんなが思うほどいいやつではない、と思っている。今だって、体のいい実験体にされるのを断りたいと思ってるし。それでも、断らないのがレオポルド・カースタインという人物だ。


「、あの」

「っごめんなさい! 理事長に言われて来てくれた生徒さんですよね?」


 とてもかわいらしい人だ、と思った。顔が美人とかそういうことではなくて、彼女を纏う雰囲気が柔らかくて優しくて、小鳥が囀り小動物が穏やかに暮らしているそよ風が吹く草原のような、そんな感じだった。

 彼女の前ではレオポルド・カースタインを演じなくてもいいんじゃないか、と思わせられた。

 彼女の名はグレース・ベネットだという。名前まで綺麗だ。グレース先生から魔力があること、現状は無尽蔵に生み出されていること、魔力が供給できることを説明される。理事長からも聞いたけど、あり得ない話の連続で俄かには信じ難かったけど、今、目の前から魔力の反応があることが現実であると物語っていた。


「それで、早速魔力の供給を行いたいんですけど、その……」

「?」

「あのですね……供給の方法が少し特殊と言いますか、えっと……」

「痛みを伴うとか意識を失くさなければできないとか、ですか?」

「いえ! そんな供給される側が不利益を被るような方法ではないんですけど……」


 たしかに供給の度に痛かったり意識を失くしていたら、ここに就いていないだろう。複雑な過程でもあったりするのだろうか。伝えるのを躊躇している先生に言葉をかける。


「痛かったり死ぬようなことがなければ、俺はなんでも構いませんよ」

「……そう、ですか……あの、……ス、なんですけど……」

「え?」

「キス、なんですけど……」

「……え?」


 キス? キスって言った?

 口付けということだろうか。それとも専門用語かなにかで……。そんなわけがないのは、先生の表情から見て取れる。


「……キス、ですか」

「あぁ……やっぱり嫌ですよね、今日初めて会った相手と魔力を供給するためとは言え、こんな、」

「いえ、全然」


 嫌じゃない。その気持ちと、これから先生とキスをするのかという逸る感情が、食い気味に言葉を発せさせた。


「先生はとてもお綺麗ですし、供給にかこつけて……じゃなくて、供給のためのキス、嫌じゃないですよ」

「あ、ありがとうございます?」


 つい本心が口をついて出てしまったけど、先生はあまり聞こえてなかったのか気にしてないようだった。よかった。下心がある相手と練習なんていくら先生のような善人でも嫌だろう。

 早速、目を閉じて供給を待つが、何も来ない。やはり聞こえてしまったのだろうか。薄く瞼を開けると、苦悶している先生がいて思わず口角があがる。先生も、この行為を供給以外にも意味を持つものとして考えているってことだから。


「い、いきますねっ!」


 意を決した先生の唇が、俺の唇に触れる。

 その瞬間、身体に高純度の魔力が流れ込んでくる。これが、魔力……?

 今まで経験したことのない事象に身体が反応してしまい、何かあったのかと先生が心配してくれる。女性だから当たり前だが魔力や魔法のことに詳しくないようで、先生の魔力がどれだけすごいかを端的に説明した。


「……もっと貰ってもいいですか?」

「えっと、」

「魔力です。こんなに気持ちいい魔力、そうそうないですから。ああでも、これからも先生から供給されるんですよね?」

「そうですね、何か不備などがなければ、このままこの学園に勤めますので」


 先生が学園にいる。それだけで学園に来るのが、今までの倍、いや、それ以上楽しくなる。ああ、でも、先生がここに勤めて供給をするってことは、俺だけでなく他の生徒にもするってことか。それは嫌だな。というか、こうなるまでに検査で職員にしてきたってことか。もっと嫌だな。俺が最初になりたかった。生徒の中では最初だろうけど。


 その後、意図的に減らしてきた魔力の分を上限まで供給してもらった。高純度の魔力で身体が満たされ、先生との時間で心が満たされた。これを他の生徒も味わうのか……。俺だけにしたい。


「ふふ、」

「なんですか」

「いえ、そんなにいい魔力でしたか?」

「はい、もちろん! まあ、それだけではありませんが……」

「え?」

「なんでもないですよ」


 理事長に報告に行くという先生に手を差し出した。取って立ってください。それを読み取ってくれて、先生の手が俺に触れた。嬉しい。先生とのこれからが楽しみだ。

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