第9話 好奇心の獣 後編

 ――数日後。


「……それで、魔法は各々が生まれもった素質から、火・風・水・土の大きく4つの性質に分かれていて……」

「なるほど……。ちなみにセルヴァンくんはどれですか?」

「僕は、風系ですね。持ち得る魔力全部使えば町ひとつ簡単に吹き飛ばせます」

「魔力の量を考えればできそうですね……」


 あれからセルヴァンくんの時間が空いている時に、供給室でいろいろと教えてもらっている。供給を受けにくる生徒もいるので、その度に話が止まってしまうのは申し訳ないが、供給している間も興味深そうにセルヴァンくんが見つめるので、少し気恥ずかしい。

 たくさん供給してきたけど、するのも見られるのもいまだに慣れないなぁ……。


「一番多いのは火の性質で……」

「先生! こんにち……!」

「あ、レオくん、こんにちは! ……どうかされましたか?」


 セルヴァンくんの話を遮るように扉が開いた。同時に聞き慣れた声が耳に届く。けれど、声の主はどこか驚いた様子で扉の前で固まってしまった。


「……だ、」

「だ?」

「誰ですか!」

「へっ? ……ああ! セルヴァンくんのことですか?」

「セルヴァン……、ヒューゴ・セルヴァン先輩!?」

「僕になにか文句でも?」

「以前レオくんが純度について説明してくれましたよね。それで、もっと自分の魔力のことを知っておかなければ、と思って、理事長に相談したんです。そうして紹介してもらったのがセルヴァンくんです」

「言ってくれれば、俺が……!」

「僕ひとりで十分かと」

「ぐっ……確かに先輩はとても頭がいいって噂ですけど……!」


 何に対して悔しがっているのかは分からないけど、レオくんとセルヴァンくんが楽しそうに話しているのを眺めていると、セルヴァンくんの目がこちらに向いた。そういえば、レオくんの紹介をしていなかった。


「えっと、彼は、2年のレオポルド・カースタインくんです。初めて供給を受けてくれた生徒です。その時からずっとここに来てくれていて」

「レオポルドだからレオ、ですか?」

「はい、レオくんの友達もそう呼んでいるそうなので」

「……なら僕も、ヒューゴって呼んでください。セルヴァン、なんてよそよそしいです」

「そう、ですね! ヒューゴくん」

「はい」

「ふふ」

「……先生との時間が……俺だけの……、」

「レオくん?」

「、いえ! なんでもないです」


 レオくんは小さく独り言を呟くことが多い。何かを言っていることは分かるけど内容までは分からないから、毎回聞き返しては「なんでもないです」とはぐらかされてしまう。本当にわたしには関係のないことなのかもしれないけど、何かを誤魔化されているようで少しだけ寂しい。


「先生、勉強を続けてもよろしいですか?」

「えっと、ちょっと待ってください。……レオくんは供給しますか?」

「! あまり減ってないと思うんですけど、いいですか」

「ふふ、構いませんよ」


 嬉しそうな顔をするレオくんに供給を施す。彼の言った通り、魔力がすぐに返ってきた。


「っ……。ありがとうございます!」

「いえいえ」

「……そういえば、僕はまだ供給されたことないですね」

「たしかに……! しますか?」

「実技の後、魔石で補給してほとんど余地がないと思うので、また今度にします」

「そうですか……」

「……やった、」


 小さくガッツポーズをするレオくんに首を傾げながら、勉強を再開した。供給以外の目的でここに来てくれるのは、レオくんと理事長くらいしかいなかったけど、これからはヒューゴくんも来てくれる。供給室がさらに賑やかになりそうです。

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