キスで行う魔力供給
青青蒼
第1話 魔力がある
魔法。
この世界では男性のみが持ち得る能力。
アルキュサス王国立魔法学園。
世界でも一二を争う大国にある、魔法を実践で使えるように学ぶための場所。
この魔法学園にもいるのは男性のみである。
ただひとりの例外を除いては――
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「うわ、今日上級の実技あるじゃん」
「魔力消費激しいな」
「終わった後、絶対魔石補給しなきゃ……。最近、魔石補給気持ち悪くなるんだよね」
「あー、よく言われてるやつだ」
「そうそう」
魔石。
魔力を持つ男性に欠かせないもの。魔力を回復する唯一の術だが、魔石には限りがあり、魔石が採れる採石場をめぐる国家間の争いが大小かかわらず常に起きている。
また、魔石に込められている魔力には多少のノイズがあり、過敏な人には不快に感じることもある。
「理事長、そろそろお約束の時間では?」
「おお! そうじゃそうじゃ!」
理事長と呼ばれる恰幅の良い老人が向かった先は、小さな菓子店だった。
「あら、大魔法師さまいらっしゃいませ!」
「久しぶりにきたが、変わらんのう」
「はい、いつものもありますよ」
「そうかそうか!」
カランカラン
菓子店のドアベルが軽快な音を立てて来客を知らせる。
「いらっしゃいませー!」
「あの……予約していた――」
「ああ、グレースさんですね!」
「っ!?」
魔力の気配、そう、確かに感じたのだ。
しかしそこにいたのは妙齢の女性だった。
(あり得ない……! どうして彼女から……)
理事長は、彼女を観察するように隅々まで目を配る。どこからどう見ても女性だ。
魔石からも魔力を感じることはできるが、それとは明らかに別物だった。いや、別格と呼ぶのがふさわしいほどの量と純度が、彼女から溢れている。
「あの……?」
彼の視線に居心地が悪くなった彼女がたまらず声をかける。
「……おお失礼、お嬢さん――グレースさんじゃったか」
「そうですが、」
「なにか、魔力があるもの、魔石でもお持ちで?」
「魔石? いえ、持っていませんが」
「なにも?」
「はい」
おかしい。魔力があるものを何も持っていないとなると、その解答は“彼女から生み出されている”のみになる。そんなことがあるはずがない。この世界で魔法が使えるのは男性だけなのだから。
「王立魔法学園をご存じですかな?」
「もちろんです!」
「わしはそこで理事長をしておるんじゃが、グレースさん、貴女からは何故だか分からんが、魔力を感じる」
「え? でも、魔法を使えるのは男性だけじゃ……」
「世界の理はそうじゃ。じゃが、実際に今ここに貴女が存在しとる」
「魔力があるなんて、生まれてから一度も言われたことがありませんが、」
「もしよろしければ、学園で魔力の検査をさせてくれんかのう? グレースさんの存在が魔力の、魔法の根底を変えることになるかもしれん」
「魔法の……」
グレースは深く悩んでいる様子だった。予約していたという品はとっくに用意ができており、菓子店の店長はいつ声をかけていいか分からず、待てをくらっていた。
「……日ごろから、男性だけが魔法を使えるなんてずるい!と思っていたんです。それに、魔力がない女性は世界的に見ても男性と比べると下の立場というか、人の役に立っているって感覚がなくて」
「わしの妻も似たようなことを言っておった」
「――だから、誰かの役に立てるなら、立ちたいです……!」
グレース・ベネット。
男性しか持ち得ないはずの魔力を持った女性。
――この物語の主人公。
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