Mission 009 始まりの時、その糸車。


 ――とても細い糸。この度のミッションは、まだ始まりに過ぎなかった。



 逃げ惑う男子は、全貌を知るには氷山の一角にもならない程の情報量で、何とか話は聞き出せたにしても、既に事件の進行は大分と言っていい位にまで、進行していたのだ。


「それにしても千歳ちとせ、半端なくやりすぎなんじゃない?」

 と、菜花なのかは言うけど、僕には普通だと思うけど……?


「ロシアンルーレット。僕のマカロフは自動拳銃だから向かないので、菜花からリボルバー式を拝借したけど、喋ってもらうには効果的だしね。それにしても五回目の空砲まで喋らないとは、しぶとく悪運も強いけどね、僕と違って」


「……まったく」と溜息を吐いてから「千歳は目が離せないね、僕がいなきゃ……その男子は恐怖のあまり何も喋れなかったんだよ。上からも下からも泣いちゃってね。それでもって、ほらほらほら、ここ掃除しなきゃいけなくなったじゃないか。それにだよ。りんに大目玉食らうの僕なんだよ。千歳は僕の許可なく勝手に動いちゃ駄目なんだからね」


 と、菜花は何だかキレ気味で……

 ちょっと怖かった。折角の初ミッションだったのに、まるで失敗みたいじゃない。


 と、お互いもお互いプンプンと、

 屋上のドアの前、その踊り場で、懸命にモップで床の掃除をしていた。


 それから……

 この後で理解することになるのだけど、


 その男子のお名前は、十文字じゅうもんじまさるという。僕らと同じ中等部の一年生で、目撃者としか聞いていなかった。とある事件……それが何なのか突き止めるために。彼から聞いたことは取引現場を見かけたということ。塾の帰り道、偶然に。それは宝石らしきもの。しかも僕らと同じ年代の子が取引しているの……彼からすれば、それだけでも衝撃的なこと。


 だからこそ凛は、早急にこの件を僕らに託したと、そう言っていたの。


 凛もまた動いていた。情報集めに、情報屋として。僕にはまだ、その域には遠い……



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