招待状

 学園祭前日、ありすとどこを回ろうかと、学校で配られた案内図を見る。空真達のクラスの出し物は、A組B組と共同でやるお化け屋敷。廊下まで使ってかなり広い空間の出し物となっている。


 すると、急に電話がかかってくる。スマホを見ると悠翔からだった。


「もしもし?」

「聞いてくれ空真、実は学園祭についてなんだが……」

「……うん」


 デジャブを感じるやり取りをしつつ、話を聞く。


「ステージの件なんだが……出させてもらうことになった!」

「良かったじゃないか!」


 先日、歌手を目指す為、学園祭の体育館でやるステージに出たいと、担任である北上きたかみ先生に聞いていたのだ。


 ちょうど残り一枠だったらしく、ギリギリのところで大トリとして入る事が出来たらしい。


「大トリか……だ、大丈夫か?」

「そりゃ……緊張しかしないに決まってるだろ……色んな人が集まるところでやるんだ……」


 声から緊張が伝わってくる、大きなステージも初めてだし、悠翔の事を知らない人も多い。大トリということで期待も高くなるだろう。


「必ず二人で見に行くから」

「余計に緊張させるようなこと言うなよ……」

「そういえば、何やるつもりなんだ?」

「あー……内緒だ、だから絶対来いよ?」


 普段から物事を特に隠さない悠翔が、内緒なんて言葉を使うのは珍しかった。


「なんだよ、新曲でも練習したのか?」

「だーかーらー、内緒だっていってんだろ!」


 その後も事あるごとに聞こうとしたが、そのたびにはぐらかされるのだった。



◇◇◇



 そして当日、学園祭の準備終え、ありすのクラスへと向かう。互いに準備の方で仕事を任されていたので、本番の仕事はなかった。


「ありす、おまたせ」

「空真君!」


 クラスを覗き込むと、こちらもお化け屋敷の準備を行っていた。


「こっちは今終わったところだよ。空真君の方は?」

「こっちも終わり、あとの準備は任せてきた」


 ほかの生徒からの視線が痛い、半ば強引にありすの手を取り、教室を離れる。


「ひゃ……ひゃい……?」

「見られてたから少し恥ずかしくて……」


 すると今度はありすのほうから、指と指を絡めるように手を握って来た。


「今日はよろしくお願いします……ね?」



◇◇◇



 まず訪れたのは会議室、その名の通り先生達が会議をするのに使うスペースなのだが、ここでとある出し物が行われていた。


「おう、来たか佐々木。待ってたぞ?」

「北上先生……」


 ここでは、校内スタンプラリーが行われている。各出し物を巡ってスタンプを集めることが目的の出し物だ。


「これでお客さん方もあちこち回っていただけるからな、その分金も入る」

「生徒の前でそういうことは言わない方がいいですよ、北上先生」


 隣でスタンプ用紙を配っていた大井先生が小声で話しかけてくる。


「……それもそうだな、悪かった。デート楽しめよ? あと物陰でこそこそしたりするのは厳禁だからな」


 ひらひらとさせている手から用紙を二枚受け取った。


「な、何もしませんよ!」

「あの、そういうことも言わない方が……」



◇◇◇



 まず初めに寄ったのは、三年生のフロア。A組が的当てゲーム、B組が演劇、C組がカフェをやっていた。


「カフェ……気になります」

「行ってみようか」


 C組に入ったとたん、珈琲の香りがふわっと漂ってきた。なんでも担任の間宮まみや先生が、大の珈琲好きらしく、家にある様々な機械を持ち込んでの挑戦とのことだった。


「いらっしゃいませ、二名様ですか?」

「はい、二名です」

「二名様ご案内ー!」


 席に着き、一息つく。周りを見るとほぼ女子生徒のため、なんだか視線が向いているような気がする。


「ご注文は何にしますか?」

「えっと……珈琲一つ」

「じゃあ僕は……カフェオレでお願いします」

「かしこまりましたー」


 そう言って店員の先輩が教室の後方へと戻っていく。その先にいたのは、即席の厨房をあっちこっち移動して作業をする間宮先生だった。


「せ、先生が一番気合い入ってるね……」

「……うん」


 数分後、注文の二品が届いた。


「……おいしい、お店のにも引けを取らないおいしさ……!」


 珈琲を飲んだありすの目が変わった。カフェ巡りが趣味らしく、付き合ってから色んな所のカフェに行っていた。


「カフェオレも美味しい……」

「飲みたい!」


 珍しくグイグイと来るありす。そっとカップを手渡し、代わりにと珈琲を受け取った。間接キス……と思う邪な気持ちを押し込み、珈琲を一口飲む。


「ホントだ、美味しい……」

「カフェオレも美味しい、適度な甘さ……わかってますね!」


 珈琲をしばらく堪能し、満足げなありすと共に教室を出た。



◇◇◇



 その後もいろんな出し物を回り、最後に自分たちの出し物であるお化け屋敷まで来ていた。


「こ、怖かった……」

「うん……」


 ありすが終始腕にしがみついていてかわいかった……なんてことを口に出すことは許されざる行為なので、そっと胸の奥に秘める。それはそれとして、スタンプラリーも最後のスタンプを貰う。


「会議室……戻ろうか」

「うん」



 会議室の扉を開けると、北上先生が大井先生にまたしても怒られていた。


「これで何回目でしょうか……」

「知らん、気にし過ぎだよ大井先生」


 何も聞かなかったことにしようとして、埋まったスタンプ用紙を渡す。


「おぉ佐々木、デートは楽しかったか?」

「いちいち聞かないでくださいよ!」


 相変わらず手癖が悪そうにひらひらさせている手から、景品のお菓子詰め合わせの袋を二つ受け取る。


「これより隣の空き教室の使用権の方がよかったか?」

「あのですね北上先生……?」


 このままでは大井先生の胃に穴が開いてしまいようだと思い、北上先生を無視して会議室を出ようとする。


「おい佐々木、時間気にした方がいいんじゃないか?」

「はい?」


 壁にかかっている時計の時間は五時半、学園祭ももう少しで終わりの時間だ。


「はい? じゃあないだろ、聞いてないのか? 三浦のステージ……」

「……悠翔のステージ……そういえば時間聞いてませんでした」


 はぁ……とため息をつく北上先生、何してんだかとぼやいた後に呟いた一言は、


「五時半からだよ」


 空真はありすの手を取り、急いで体育館へと駆け出した。

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