第11話 聖職者だってお金に困れば犯罪に走る
俺は、案件の経過を村長に報告した。
ダメージ床を撤去したこと。エンシェントドラゴンを退治したこと。ダンジョンの出入口で崩落が発生したこと。
ダメージ床を設置した犯人は、神聖魔法の使い手であること。
あとは犯人を逮捕すれば、この案件は終了であると伝えて、報告を終えた。
村長は、エンシェントドラゴンと、神聖魔法の使い手という情報で、ハっとした。
「ダメージ床を設置した犯人は、うちの村で教会を営んでいた、司祭でしょう。彼は神聖魔法も得意でしたから」
いきなり犯人にたどりついたことに、俺は腰を抜かしそうになった。
だがまだ容疑者段階だ。ちゃんとした証拠がそろっていない。
「村長は、なんで教会の司祭だと確信してるんだ? まだ証拠もそろってないのに」
「司祭は、一か月前に亡くなったんです。その死因が、大火傷です。まるでドラゴンのブレスが直撃したみたいな重い火傷でしたから、死者蘇生はできませんでした」
まるでドラゴンのブレスが直撃したみたいな重い火傷。
はじまりの村周辺に、ドラゴンのブレスと同程度の火力を持ったモンスターはいない。
だが、はじまりのダンジョンに、素人がダメージ床を設置したせいで、エンシェントドラゴンが召喚されてしまった。
もし司祭が、ダメージ床を設置した張本人であれば、エンシェントドラゴンのブレスが死因であっても、なんら違和感はない。
違和感がないからこそ、司祭の死亡時期と、案件の時間経過が一致することに俺は気づいた。
「司祭が亡くなったのもの一か月前なら、ダメージ床が設置されたのも一か月前だったよな?」
村長は、まるで井戸の底みたいな重苦しい表情で、うなずいた。
「ちょうど一か月前、彼は邪教に手を出そうとした件で、首都にある教会の本部に呼び出されました。その結果がどうなったのか我々は知りません。なぜなら彼は帰り道に致命傷を負って、村に到着したときに事切れたからです」
「邪教に手を出そうとした? なんだって教会に所属する正統派の司祭が、わざわざ邪教なんかに……」
俺みたいな商人だと、聖職者界隈の事情は、よくわからない。
だが邪教に手を出すやつらが、反社会的な人間の集まりであることは、よく知っている。
悪魔崇拝、違法薬物の売買、暗殺稼業……どれもこれも、裏稼業だ。
まっとうな道を歩んできた司祭であれば、まったく縁がないはず。
だが村長は、司祭の裏事情を話してくれた。
「教会の売上が減っていたんです。そのせいで司祭は焦ってしまい、いろいろな金策に奔走して、最後は邪教に手を出してしまって……」
教会の収入源は様々だ。
死者蘇生・礼拝と寄付・神具の販売……などなど、バリエーション豊かな稼ぎ方があった。
しかも販売の拠点となる教会は、全国各地にあるわけだから、本部に集約される利益は、莫大な額となる。
だがしかし、販売の拠点である末端の教会が、必ずしも儲けられるわけではない。
売上が維持費を下回れば、当然赤字となる。
おそらく赤字になったんだろう、はじまりの村の教会は。
「状況証拠はばっちりだな。あとは物証を集めるだけ。はじまりの村の教会には、司祭の神聖魔法の残留物が染みついてるはずだから、俺の地形調律棒に記録した魔力反応と一致すれば、ほぼ確定だ」
俺たちは、はじまりの村に移動して、教会を調べることになった。
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