二十四歳
17 桜を愛していた
――形代の本能が、目指すべき場所を視せる。白銀の雪花を降らす
「ようやくお出ましか! 私を何年待たせる気だ! 」
筆頭の
「
「自ら逃げ道を無くすなんて、笑止! 羽衣石家の『蝶』は
男達の
「存じておりますよ。滅び蝶の君」
「その包帯も、『生力由来術式の札』とみた! 命懸けで生力を肌に纏い、妖力を秘すとは小賢しい! 『白虎ノ三節棍』の
「私は薄布の境から、貴方達の
「まさか、耳を潰したのか! 忌々しい女だ! 」
舌打ちした隆元が『白虎ノ三節棍』を強靭な尾の如く振るえば、白柄に銀の虎縞が浮かび輝く。桜木の間を疾走する和に、渉は三節棍の鎖を引き出し遠投した!呼応する
――雪花と駆け抜ける、
『
「おのれ
「いきなり刃を向けるなど、不躾な!
まさか、仕込まれた
「『
「『蝶と術式』を全て滅する
忍び嗤う気配に樹上を煽り見れば、【透明】を解いた和が現れ、『青ノ巫女姫』への疑心暗鬼を肯定するように見下ろした。
「残念ですが……徒人を殺せない妖狩人の掟に従う
和が
「妖を素手で殺せる程に強靭な
「ならば、貴方の強さを証明して下さい。
渉は鵲眼に鋭光を宿し、瞬く間に
「まともに聞いたら駄目! 渉を孤立無援にさせる為の罠よ! 『後継の白虎の三節棍』を、
「頷いたら、俺を守る為に咲雪は奴らに降り……望み叶わぬ時は、再び己の生力を形代に込めてまで、戦いに命を賭けるつもりなんだろ。絶対に許す訳が無い! 咲雪を脅かす盗っ人の首を喰い千切るまで、
「渉は……置いて行かれる残酷さを知らないから、言えるのよ。守られることに甘んじたくないというのは、そんなにいけないこと? 」
「なら、分かってくれるだろ? 俺の守りたい気持ちを。手の内から零れるくらいなら、いっそ檻の中に安寧を閉じ込めたい……咲雪を誰にも奪われたくないんだ」
愛しい残酷さを突き通してでも、私を守る気なのか。だが、私が被る憎悪のせいで
「可愛い嫉妬ですね、咲雪。死の間際まで、泣かせてあげたくなります」
「生憎、天敵の
桜吹雪と疾走を開始した、樹上の和と渉を追う! 跳躍した
「しっかりして、那桜! 和を狩るには、貴方の『蝶』が必要なの! 」
「その声……まさか、咲雪!? 私は『蝶』で、あの女を滅せられなかったのよ。勝算なんて……」
「諦めるのにはまだ早い。
那桜の
「ええ。望む絶佳へ案内するわ」
渉の振るう白尾の鋒に咆哮を伴えば、透ける雪華で緋紅の花弁が散る。
「華ならば、鮮烈な散り際がいいのです。香炉灰を押さえぬ、瑞々しい
藍白と若芽色に
「半妖の
刀身を炙る虹被膜は、疾走した和の
「それでも……っ……半妖の死の
腹を抉られた
「
和が耳を抑えても、血に染まる
「教えてあげません。ですが、私を殺さねば
「兄が死んだ現実逃避に、咲雪へ憎悪を拭いつけるのか。幽霊として、大人しく彷徨っていれば良かったものを! 二度と蘇れぬよう、幽界へ葬ってやる! 」
疾走する渉は鎖を引き戻し、白柄を繋ぐ。上下両刃の槍となった『後継の
「貴方達は、私達に許されない事をした。間者に【感情視】を使った事も、私は後悔なんてしていない。けれど、これだけは伝えさせて。
「やっぱり、そうだったのね……兄様は馬鹿よ……。ならば、この
蝶吹雪が喰らいつき、紫から赤へ解けゆく
「
峡谷へ跳躍した瞬間、【透明】が解けた。
「俺の生力は枯渇した。咲雪はこれ以上、命を削って生力を使ってはいけない。虹鱒の半妖の
烈火に乞う渉が頬に触れ、我に返る。
「絶対に術式を解かないで! 私を『人の世』に結び付けた渉が言ったじゃない、自分の為に生き汚く足掻けって! 私の命は貴方の物よ! 」
「駄目だ。咲雪の儚い命は、俺だけの物ではなくなった。……秋陽さんが、結んでくれた希望がある。俺は咲雪に出会うまで、望まぬ戦いの中でいつ消えてもおかしくなかった。だけど怖いのは消えることじゃなくて、何も残らないことだったんだ。俺が遺す波紋は、 夜の水面に柔く消えたりしない。黒硝子を滑らかに割って、貝殻の成長線に似た同心円状のうねりになる。……咲雪と智太郎の事だ」
「本当の事を言ってよ!渉は、私達の『
柳煤竹色の柔い髪を、緋紅の春風が撫でた。
痛みに耐えて、
渉は少年のように屈託なく笑う。
答えたような物だ。
「やめてぇぇえええっ!!」
「満開の地獄の底でも、君を想う」
青白磁の蝶も、緋紅の桜も、
白銀の雪華も、透明な涙も。
清絶に砕け、明転に散った。
暗転に目覚め、手を伸ばした檻の中……
智太郎を抱く私だけが、
呼気を荒く吸い込んだ。
「白昼夢なんて、信じないから」
体温に焦がれた指先が、
鼓動のうねりに縋る私は、
智太郎の白銀の柔い髪に触れていた。
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