❄『過去夢現交差』編❄
18 琥珀に微睡む、金花の魂
春に捧げた、私の祈りは届いただろうか。桜に忘れ去られた不香の私は、斑の
「私に出来るのは、過ぎた夢の中で『後悔を辿る私』として生きる事だけなのか……確かめたいの。選択肢の破壊者として抗えば、咲雪の
金木犀の花香が解ければ、小さな両手は私の頬に触れていた。暖かい陽に、身体にはしる花緑青色の
「……おかえりなさい、渉」
目覚めればいいのに、と
私を癒した、陽光。『生力を操る力』は、
「待って、
若葉色の着物の袖へ金の翼を
「礼なんて必要ないよ。咲雪への償いにはならないからね。
私は星の喪失を告げた占い師……
「貴方も、千里じゃないの? 」
「千里だよ。咲雪が知る私とは、少し違うだけで。咲雪にとっては現実でも、私にとっては夢だけど……夢の中に居続けたいと思ったのは、初めてなの」
振り向いた千里の無垢な笑みに、未知の怖気が迫り上がる。私を捉えた
「待ってて。私が咲雪の運命を変えてみせるから」
問う間も無く、生力由来術式の翼を翻した千里は小鳥のように消えてしまった。伝う涙が、頬に残されてしまう。
秋陽の遺した希望の針が、好奇心の鍵になった時……僅かな衣擦れの音さえ、張り詰めた透明へ吸い込まれた。
「時を越え、
境の水鏡に触れるは、青い木彫の鬼面を被る巫女。花弁を模した瞼の下に、大きな一つ目。二本角と牙が隆々と、畏れを授ける。黒髪を彩る左右の花簪には、瑠璃色の牡丹と銀の札飾り。繋ぐ
「何故貴方が、
嘲笑う
「僕を映す対価に、
視界の端で『人魚』の洗い朱の尾鰭が翻り、『
「まぁ、そんな事はどうでもいい。君に告げたい本題は、星の喪失を告げた僕の【未来視】が、まだ有効という事だ。このままでは、渉は
私は思わず、眠る渉をもう一度確かめた。やはり鼓動は温かく、息もしている。
「その男に絡む『千里の可能性』を、僕と千里で綱引きしている状態だから、生死を棚上げ出来ているのさ。『時』に関する妖の僕は、千里の眷属でね。母なる創造主に、遅れてきた反抗期の真っ最中なんだ」
「貴方が引いている綱は、渉の『死』に繋がっているんじゃないの? 宮本家に属する、羽衣石家の『蝶』の滅絶を望み、『蝶狩り』を乱したのは貴方の巫女姫でしょ。生死が証明出来ない『首謀者』に、踊らされていないと言えるの? 」
ふいに、青ノ鬼は笑みを解く。重く禍々しい陰影がのしかかった。青い蛍火の中……己の胎を撫でていた青ノ鬼の姿と、桜吹雪の中……
「君になら分かるはずだ。己の胎で育み、
重々しい
「疑うのは構わないが……手放す引き際を間違えば、『生』ではなく『死』に直結するのは、千里の綱だって同じさ。未来や過去の改変は、『可能性』を【異能】にて消費し成し得るものだが……千里の為でなければ、触れたくない程に『可能性』は恐ろしく危うい。この時間には『可能性』に触れられる異能者がまだ
「貴方は、『千里の罪』について知っているのね」
「僕より君の方が、余程詳しいだろ?
答えは己の中に探れ、という事か。私は、既に
「僕は『最悪な未来』の気配を感じて、『妖の千里』と同じ、十五年後の現代から君を視ている。千里が『願い』を叶えてしまえば、彼女の『可能性』は零を下回る。創造主の危機に、僕は自分が存在した時間に己を
「『最悪な
「本来の僕の【未来視】は、確定した未来を視る異能だ。確定していない未来は……朧な断片だけどね。僕の
【彼女が
「時を
「それで。私に、雛鳥の翼を狩る
蠱惑的に微笑めば、青ノ鬼は清い微笑を返す。彼の想いは、鎖骨の木札に示された『
「察しが早くて助かるよ。けどね、君の決断は本来の過去でも変わらない。君が己の意志を貫けば、千里の『人の心』は失われない。対価は、渉の救済だ。千里の【過去夢】が醒める時、渉もまた目覚めるだろう」
眠る渉の前髪を、私は優しく払う。渉が命を賭す覚悟で私を選んだように、私は渉を選ぼう。花筏の峡谷へ墜ちる渉を恨んだくせに、今の私は清い
「条件を呑むわ。千里と私……『真の救済』を相手に齎した方に、勝利の冠が授けられるのね。互いへの純粋な善が刃になるなんて、皮肉な決闘」
「君の敗北は、
青ノ鬼は仄かな慈愛の微笑を、瞬きで
「
縋るような躊躇いに、鼓動が高鳴る。渉が繋いだ波紋は、硬質な
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