映画『NOPE』を見た
ジョーダンピール監督の長編第4作『NOPE』が先週だかに公開されて、今日見ることが出来た。
都部京樹が変な映画だと言っていた気がする本作は実際妙な映画で、ホラー映画ともSF映画ともいわゆる芸術映画とも、あるいはそれらのごった煮とも言える造りをしている。どのように分類することもできるだろう。ただ本作が映画一般の歴史の新たな一ページたらんとしていることは確かなようである。
最序盤に映される、多分同じ短い映像のループ再生だろうもの――馬に乗るカウボーイ姿のアフリカンアメリカン――は、OJの妹のエム曰く「世界で最初の映画(モーションピクチャー)」らしい。バハマ出身の人物らしいというところまではこれを書いているときも覚えているのだが、二回出てきた名前を忘れてしまっている。この「馬に乗って駆けるアフリカンアメリカン」という絵面はクライマックスの活劇シーンでOJとその愛馬ラッキーによって再現される。始まりの映画のカットが最新の映画で再現される。そして本作で終わりではない。アフリカンアメリカンの映画はこれからも続く――東アジアの東アジア人には関わりのない、北米のアフリカ人の誇りに関わることであるから、これ以上多くは述べられそうもない。
クリーチャーデザインが大変に良い。ふたりを追うのは不気味な轟音と共に飛来し人を食らう巨大な飛行物体”Gジャン”……はじめはオーソドックスな「空飛ぶ円盤」の姿をしていたが、終盤に至って変態。銀色の孔雀と海月を併せて肉抜きを設けたようなシルエットに口吻部には緑色の正方形状に広がる無数の帯という異形を見せつける。CGで描画される巨大な怪物の姿は現実の生物から一部を取り入れながらも圧倒的な想像力の下に描き出されており、エヴァ序の第六使徒が見せた奇怪な挙動を彷彿させる。
このGジャンは名前が付けられるのがだいぶ遅い。謎の飛行物体として登場するこいつは、初めは見るからに「UFO」、空飛ぶ円盤だが、出現すると一帯の電気機器を使えなくしてから竜巻を生み出してヒトやモノを吸い込み、「食べカス」を空から吐き散らす。一応主人公を務めるOJの父親が冒頭で謎の死を遂げたのも、こいつの吐き落した食べカスの直撃を受けたからだった。
この「食事」が最も恐ろしいかたちで描かれるのは中盤、OJが馬を売りに顔を出したテーマパークの支配人と観客が食われ、吐きだされる一連のシーンだ。空から唸りをあげて下りてきた20~30メートルほどはありそうな円盤がその場の人間を野外劇場の設備の一部を巻き込んで吸い尽し、OJらの住む家に飛んで行く(家にいたエムと(監視カメラの整備に来た)電気屋のエンジェルも食事の標的だったようだ)。そして土砂降りの雨の中、家の真上で陣取り夜が更けた頃、円盤は角材や金属片、そして大量の血を、円盤中央の「口」から吐き出す。爆音で鳴きながら血の雨を降らせる巨大な円盤というイメージがエンジェルを、エムを、観客を恐怖させる。非常に怖いシーンで良かった。
この恐ろしい円盤をどうにかしよう、自分たちの家を守ろうとするOJたちは、円盤を撮影すること、円盤と協定を結ぶかあわよくば退治するかと知恵を絞り、大規模な作戦を決行する。あまり長くなるので詳細は省くが、その場に集まった人間全員が一丸となって対Gジャン作戦に臨む健闘に、また最後も最後の大詰めでエムがとる行動のための導線が既に前半で引かれている情報整理の手際にグッとくる。
今一つ意義がよくわからなかったのは、東アジア人のパーク支配人――名前が何というんだったか思い出せない――の子役時代の記憶である、チンパンジーによる暴行の一幕。冒頭で既にこれが映され、中盤にもまた出てくるのだが、空飛ぶ円盤とどうかかわってくるのか、一度見ただけでは判然としない。
このパーク支配人がGジャンを飼いならして新たな見世物にしようとしたことが、今度の事件の発端ではないか……と誰かが分析していたが、中盤で支配人はGジャンに食われるので、本人の口から答えが聴けることはない。順当に考えるなら幼少期にチンパンジーと心を通わせられたかもしれなかったという思いが、人間以外のものとの交流を求める動機として機能したということになるのだろう。しかし今一つはっきりしない。同じく冒頭近くに上で言及した最初の映画のカットも出てくるのだが、そちらに集中した方が一本の映画としてのまとまりは良かったのではないか、とも思う。
小ネタについて……終盤、エムが電動バイクでテーマパークまでGジャンをおびきよせるくだりで、停車するとき思いっきりAKIRAの金田のバイクのアレをパロディしており、「ここでふざける力を!?」と爆笑してしまった。馬鹿野郎。
Gジャンのデザインについて言えば、「劇中の“謎の飛行物体”は「新世紀エヴァンゲリオン」に見られるハイパー・ミニマリズムとその「バイオメカニカルなデザイン性」に影響されたことをピール監督が公言」しているらしい。(下記事参照)
話題沸騰!「NOPE ノープ」ジョーダン・ピール監督インタビュー “あの物体”の制作プロセスも解説
https://eiga.com/news/20220902/9/
上記事の参照元と思しきシネマトゥデイ記事はこちら。
「使徒に見られるハイパー・ミニマリズムは、本作に登場する飛行物体に大きな影響を与えました」
鬼才ジョーダン・ピール監督、エヴァンゲリオンが大好き!最新作『NOPE/ノープ』に使徒の影響
https://www.cinematoday.jp/news/N0131952
追記:20220905:長編第3作と書いていたが第4作だった。修正。
第一作 GET OUT
第二作 Us
第三作 CANDYMAN
第四作 NOPE
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