レベル27

「すばらしい活躍だったよ、燐くん。

 きみたちのおかげでローズキャッスルを陥落させることが出来た。

 ありがとう。」


司令と副官が拍手をして燐を讃える。


「こっちこそ礼を言わないと。

 照を助けることが出来たんだ。」


燐と照は幸せそうに抱き合う。


「うむ。

 それではこの区画を我々の制圧下に置き、

 ボーズシティ支配の足掛かりとすることにしよう。」


「いえ司令、このボーズシティは破棄するべきです。

 市民たちを外界に開放して自由の身にすることを提案します。」


「貴重な意見をありがとう燐くん。

 だがこの都市をどうするか決めるのは私だ。

 市民を野に解き放てば再び争いが起こるだろう。

 この街こそ人類にとって理想の住処なのだ。

 手放すつもりはない。」


「なんだって!?」


司令の予想外の答えに燐が驚く。


「それじゃ何のために今まで戦ってきたってんだ。

 管理された人生に幸せなんかあるはずがないっ。」


「やはりわかってはもらえなかったか。

 これ以上きみと無駄な会話をするつもりはない。

 残念だが、反逆者として処刑させてもらおう。

 やるんだ、照。」


司令が言い終えると、照が燐の首にナイフを当てる。


「な、なんの真似だ、照」


「わたしたちは祖国を追われた流浪の民。

 この都市を内部から乗っ取って第二の故郷にするのが

 わたしたちの本当の計画だったの。」


「人間の欲望を巧みに利用して子孫を増殖させてゆく民族がいるという

 噂は聞いていたが、

 まさか実在していたとは・・・。」


滝が恐怖を噛みしめるように呟く。


「そんなアニメみたいなことが・・・」


「いいえ、現実の可能性は無限大よ。

 だからこそ誰かが枠を作ってはめてあげないといけないのよ。」


「それは照の本心なのか?

 俺への想いも嘘だったってのか?」


燐の言葉に、照の目が儚げに陰る。


「さあ照、その男は我々に災いを成す危険な存在だ。

 はやく処刑するのだ。」


照のナイフを握る手に力が込められる。


「わたしも愛してるわ、燐。

 でも人が生きてゆくには祖国が必要なの。

 好きなだけわたしを恨んでちょうだい。」


「恨む?

 俺が照を恨むわけないだろ。

 おまえにも祖国での立場があるんだろうさ。

 さあ、一思いにやってくれ。

 俺のおまえへの愛は永遠に変わらない。

 愛してるぞ、照。」


恨み言を浴びせられると覚悟していた照だったが、

燐の深い愛に胸が熱くなり涙がこぼれ落ちる。

それは殺し屋としての人生を送ってきた照にとって

初めて沸き上がった温かい感情だったかもしれない。

照の動きが止まったことで司令が憤る。


「どうした照。

 そんな男の芝居に騙されるんじゃない。

 我々はこの地を支配する選ばれた民だということを忘れるな。

 その為には愛などという非効率的な感情は捨てるのだ。

 管理された世界こそ究極の美なのだ。」


それでも照のナイフを握る手は動かない。


「ええい、私がやる。」


司令は懐から銃を取り出すと燐の額に狙いをつけて引き金を引こうとする。

その瞬間、


「ぐわああああああっ。」


断末魔をあげたのは燐ではなく、照の投げ放ったナイフが額に刺さった

司令のほうだった。

周囲がどよめく。


「照・・・。」


「わたし、燐を助けたい一心で体が勝手に動いたの。

 わたしはどうかしてしまったの?」


「いいんだ、照。

 それでいいんだ。

 人間の心を取り戻せたってことなんだからな。

 おかげで助かったぜ、ありがとうな照。」


「うん、お兄ちゃんのおかげだね。

 ありがとう。」


二人は再び抱き合うのだった。


レベル28につづく

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