レベル26

 燐と滝に銃を向ける兵士たち。

職務を遂行することしか考えてない者たちにとっては

燐のうめき声は到底聞こえてくるよしもなかった。


「どけよザコども。

 命の保証は出来ねえぞ。」


「かまわん。

 射殺しろ。」


無数の銃口に臆することもなく歩みを止めない燐に

射殺命令が下る。

火花と共に降り注ぐ銃弾の嵐。


「り、燐!!」


大声で叫ぶ滝の意に反して燐は倒れることもなく尚も

進み続ける。

足元に無数の弾丸が転がり落ちてゆくのが誰の目にも明らかだった。


「ひいい。

 ば、化け物だっ。

 撃てえっ。

 撃て撃て撃てえっ。」


恐怖にかられた隊長が状況判断とは無縁のただ自分が助かりたい一心で

叫び続ける。

銃弾を浴びて薇時な人間などいるものか。

そうだ、防弾装備で身を守ったのだ。

合理的な解釈で自分を納得させた兵士たちが己が唯一信じてきた

銃での解決を図るべく再び射撃体勢を取る。


「みじめなオモチャで俺の手を煩わせんじゃねえっ。」


「な、なんだ、俺の体が・・・、うわああああっ」


燐の目が金色に光ると悲鳴と共に兵士たちの体がドロドロに溶けてゆき、

銃だけが残される。


「う、おえええええええっ。」


その光景を目の当たりにした滝が思わず口から胃液を逆流させる。


「り、燐。

 いったいどうしてしまったんだ。」


「頭が痛てえ。

 階段を下りるのも面倒だ。

 俺が道を作ってやるっ。」


そういうと燐の足元の床が崩れ落ちてゆき、燐も金色のオーラを身にまとったまま

地下に向かって一直線に落下してゆく。


「ま、待て燐っ。」


滝は崩れてゆく建物にしがみつきながらも、懸命に燐のあとを追って

地下へと下ってゆく。

建物の崩壊と共に火の手が上がってゆき、ローズキャッスルは炎に包まれた。


「司令、ローズシールドが消失しましたっ」


「燐くんたちがやってくれたのか!?

 よし総員、ローズキャッスルへと突入せよっ。

 燐くんたちを援護するんだっ。」


「やりましたね、司令。

 ローズキャッスルが手に入ればボーズシティの制圧も可能かもしれません。」


「ああ。

 その為にも英雄を死なせるわけには絶対にゆかんのだ。

 燐くんたちには生きて皆を鼓舞してもらわねばな。」


龍王号はローズキャッスルの外壁に取りつくと、

兵士たちが内部へとなだれ込んでゆくのだった。


「いや、放してっ。」


「おとなしくしろ、小娘がっ。」


地下牢で薇雪が照を人質に取ろうと揉み合っているところへ

燐が豪快に降り立ってくる。


「よお、SM女。

 約束通り照は返してもらうぜ。」


「はーはっはっはっはっはっ。

 ついに人間を捨てたかい、坊や。

 だが私にも意地がある。

 ひとつ取引といこうじゃないか。

 私をこの城から逃がすならこの娘は開放してやる。

 いやだというなら、

 この小娘もろとも心中してやるまでさっ。」


そう言うと、薇雪は照の首を鞭で締め上げる。


「痛えんだよ、頭が痛くてしょうがねえんだよ。

 醜い欲望をさらけ出して俺の手を煩わせんじゃねえ。

 まったく人間って奴は救いがたい生き物だなっ。」


燐の目が金色に光ると、薇雪の体が宙に浮き壁に叩きつけられる。


「うぎゃあっ。」


薇雪は痛みで悲鳴を上げ、自慢のSMスーツもズタズタに引き裂かれる。


「さあ照。おいで。お兄ちゃんが助けに来たよ。」


「お、お兄ちゃん・・・?」


体が自由になった照だが、燐の変貌ぶりに戸惑いを覚える。


「どうした照。会いたかったよ。」


燐が照に近づいて抱きしめようとするも、


「い、いやっ」


思わず照が燐からあとずさってしまう。


「どうした、燐?

 おまえも俺の手を煩わせようというのか?」


「うぐぐぐぐ、うあああああああああっ。」


燐の目と体が金色のオーラに包まれると、宙に向かって

苦しそうな呻き声をあげ始めた。


「燐っ。」


滝がようやく追いつくと、そこへ司令官たちも合流する。


「やはり、VR訓練が燐くんの頭に過度な影響を与えてしまったようだな。」


「ど、どういうことなんですかっ。」


滝が司令の発言に食ってかかる。


「私から説明するわ。

 燐の照を助けたいという気持ちと

 照にひどい目に合わせた人間を憎む気持ちという

 相反する心が、

 VR訓練によって殺意を帯びるようになってしまったのね。」


「で、でも俺はなんともないのに・・・」


「滝よりも燐のほうが純粋すぎたのね。

 そこへ神聖エネルギーとのシンクロが重なり、

 肉体とオーラの融合を果たそうとしてるんだわ。」


「な、なんだって!?

 そ、それじゃ燐は・・・」


「燐であって燐でない存在、

 人であって人でない存在、

 我々は今、神の奇跡を目の当たりにしようとしてるのかもしれんな・・・。」


「うがああああああああああああっ。」


燐から発するオーラの輝きがさらに増すと、周囲の兵士たちの体が溶けて

消えてゆく。


「そうか、それが燐くんの願いか。

 この汚れた世界を浄化しようというのだな。

 ・・・だが、それは私の願いとは違うようだ。」


司令が副官に目で合図すると、副官が龍王号と連絡を取る。


「そこから照準を合わせられるわね?

 ええ、そうよ、ターゲットは燐よ。

 まちがいないわ、燐がターゲットよ。」


上空に浮かぶ龍王号の砲身が燐に向けられる。

そのとき、照が泣き叫びながら燐に抱きつく。


「やめて、お兄ちゃん。お願い、優しいお兄ちゃんに戻って。」


金色の輝きが燐と照を包むと、二人の心が通い合う。

そしてオーラが消えると、

口づけを交わす二人の姿が現れるのだった。


レベル27につづく

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