レベル19

小さい小部屋に入ると寧紗が服を脱ぎ始める。


「わわわっ、寧紗さんって大胆

 まさか本当にそんな関係に!?」


「ふふっ、坊やたちも早く服を脱ぎなさい」


「よ、よーし、寧紗さんがそういうつもりなら

 やるしかないぜ、なあ滝」


「百聞は一見に及ばず

 何事も経験は大事だからな、お相手願うとしよう」


寧紗にならって二人もいそいそと服を脱ぎ始める。


「ちょっと二人とも、何パンツまで脱ごうとしてるのかしら?

 ふふっ、早くこのボディスーツに着替えてちょうだい」


「か、からかわれた?

 寧紗さん、そりゃないっすよー」


二人は失意の棒立ちになるのだった。


金属の重々しい扉が開くと寧紗を先頭に3人はほら穴のような地下通路に

足を踏み入れる。

寧紗が歩みを進めながら説明を始めた。


「ここはかつて資源開発のために発掘が行われていたときに

 作られた地下道よ。

 でも有毒ガスが発生したために今では閉鎖されてしまってるわ」


「なるほど、それでこんなものものしいスーツが必要なのか」


「このマスクは普段は外気を取り入れるけど、

 有毒ガスを検知すると自動で浄化フィルターが作動するのよ。」


「よかった、それなら安心だ」


「いいえ、フィルターには最大浄化量が決まってるのよ

 岩の隙間から噴き出す毒ガスに当たりすぎると目的地にたどり着く前に

 力尽きることになってしまうわ」


「げげっ、そんな命がけの冒険だったなんて」


「でも、毒ガスが発生する場所は決まってるのでは?」


「それもいいえね。

 毒ガスが噴き出す場所はランダムで変わるのよ。

 長さも量もそのときどき。

 だから常に最適なルートを割り出して進んでゆく必要があるわ」


「どしぇー、そいつは大変だぜっ」


「ルートの割り出しはどうやって?」


「それはこのAIレーダーが過去のデータを参照して

 安全の可能性が高いルートを提示してくれるのよ」


そう言ってるとマスクのランプが赤く点灯して、

浄化フィルターが作動する。


「さっそく毒ガスが噴き出してきたようね

 さあ、早くここを抜けましょう」


3人は足早に進むと通路が二手に分かれた場所にさしかかり、

毒ガスを示すランプも赤から緑に戻った。

寧紗がエコビューワのAIレーダーを覗くと

左右の安全度はそれぞれ左が85%、右が72%だった。


「なんか際どいけどやっぱ左っすかね?」


「そうね」


AIの予想確立に従って左側の通路を進む。

順調に進んでいると


「うあっ」


滝がデコボコの足場につまづいて転んでしまう。


「だいじょうぶかっ滝、ほら俺に掴まれ」


「すまない、燐」


「早く急いで、毒ガスが噴き出すわ」


「わーてるって」


「ふふっ、ほんといいコンビね。」


3人は何とかその場を抜け出すのだった。


次の分かれ道は左87%、右69%だった。


「これは左一択っすね」


「いいえ、左は道が険しくて初心者には難しいかもしれないわ

 ここは右にしましょう」


寧紗の言うとおり3人は右に進む。


プシュープシュープシュー


と勢いよくガスが噴き出している。


「直撃を受けると危険よ

 タイミングを見計らってうまくくぐり抜けていきましょう」


3人は慎重に、しかし素早くガスをよけながら進む。

順調に進んでいた3人だったが、

そこへ突然地響きが襲う。


「うわっ」


「きゃあっ」


よろめいた燐が思わず寧紗にしがみつく。

寧紗もちょうど踏み出そうとしてた所だったので見事に体勢を崩され

2人は逆さ同士で絡み合い、

燐の顔が寧紗の太ももにめり込んでしまった。


「うわっ寧紗さん、そんなに頭を挟み込まないでっ」


「何言ってるのよ、燐くんが押し付けてるんでしょっ

 早くどけてちょうだい、息苦しくなってきたわ」


「燐、何をふざけてるんだっ、早く立てっ

 さあ、寧紗さんも」


「あら、滝くんは紳士なのね」


今度は滝に助けられて3人はこのピンチから脱出するのだった。


「ここが山場ね

 左が50%、右が50%」


「げげっ、まったくの同率じゃないっすか

 どうすりゃいいんだ?

 もうフィルター残量は残り少ないのに

 もしまた何かトラブルに遭ってしまったら・・・」


「ふふっ、わたしは霊媒師なのよ?

 この地下道に住み着く精霊に安全な道を教えてもらいましょう」


「精霊?

 寧紗さん毒ガスで頭がやられちゃったんじゃ・・・」


「精霊とはまた非科学的なことを言うものだ」


あまりに現実離れしたことを言う寧紗に二人は思わず毒づく。


「ふふっ、霊はわたしたちの身近にいるのよ

 素直な心になれば誰でも声を聴きとれるようになるわ

 精霊さま、安全な道を教えてくださいませ」


寧紗がそう祈ると、天井にとまっていたコウモリが右の道の奥へと

飛んでゆく。


「さあ二人とも、右に行きましょう」


「だ、だいじょうぶかな?」


「ふう、やれやれだ」


燐と滝はぶつぶつ文句を言いながらも寧紗に従って進んでゆく。

最初は安全かと思えたが猛烈な勢いでガスが噴き出す。


「うわっ、ほら言わんこっちゃない」


「みんな全力で走るのよっ」


3人は全速力で走る。

もしここで、こければもうフィルターはもたなかった。


「ハアハアッ、ゼイゼイッ」


3人は何とか通路を抜けて助かる。


「いやあまったく大した精霊さまだぜっ」


「おい燐言いすぎだぞ、助かったんだからいいじゃないか」


「・・・・・・」


燐のつらい当たりに寧紗も黙るしかなかった。

その瞬間、

反対側の通路からガラガラガラと轟音が響き土砂崩れが起こる。


「さっきの地震で崩れかかってたんだ」


「ほらっ、精霊さまのお導き通りだったでしょ」


「マ、マジ・・・?」


喜ぶ寧紗の姿を見ながら、燐と滝は唖然とするしかないのだった。


そして、ゴール地点に辿りつくとやはり金属製の扉から中に入る。

同じようにボディスーツを脱いで元の服装に戻ると

エレベーターに乗って更に地下に降りる。

長いエレベーターの先に現れたのは、

大勢の人間がせわしなく働く巨大な地下基地だった。


レベル20につづく


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