レベル16
燐と滝は竜京駅に降り立つと風爺のタクシーに別れを告げた。
ただならぬ殺気を放つ群れの中へと恐る恐る入ってゆく。
燐はキョロキョロと駅内の客を見回していると、滝がたしなめる。
「おい燐、そんなにキョロキョロしてると怪しまれるぞ」
「そうは言ってもよお、こんなに人が多い中から探さなきゃいけない
わけだからさあ」
そう言いながらゴーグル型のエコビューワにメモ帳を表示させる。
そこには、
照の組織に関するヒントじゃ。
竜京駅の中に案内人が客として紛れ込んでおるので
探しだすのじゃ。
誰が案内人かはわしにもわからん。
ヒントはただ一つ、コーヒー牛乳のみ。
健闘を祈っておるぞ。
と書かれていて、音声が読み上げる。
別れ際に風爺が教えてくれたアドバイスだった。
「あーもう、これだけでどうやって探し出せって言うんだっ」
燐がイライラして髪をかきむしる。
「やはりコーヒー牛乳が大事なヒントになってるようだな」
「コーヒー牛乳ねえ
喫茶店のウェイトレスとか?」
「コーヒー牛乳は定番メニューだからな
それだけで特定するのは困難だろう」
「んーと、それじゃミルクということで
おっぱいがボインボインの美女とか?」
「こんな場所でそんな女がいれば目立ちそうなものだが」
「なんだよ否定ばっかして、疲れる奴だぜ
コーヒー牛乳の話してたら喉が渇いてきちまったな
そんじゃ適当な店入ってコーヒー牛乳でも飲むか」
「そればかりは否定する理由はなさそうだ
付き合うとしよう」
カランコロン。
暗めの落ち着いた雰囲気の喫茶店に入るとコーヒー牛乳を注文すると
淹れたてのコーヒーとフレッシュミルクが運ばれてくる。
さっそく飲もうとミルクを入れてかき混ぜる。
ゴクッ。
と一口飲んだところで
「苦っげーっ」
とむせてしまった。
「まったくおまえは子どもみたいなやつだな
ほら、砂糖ならここにある
好きなだけ入れるといい」
そう言って滝がテーブルに置かれた砂糖の瓶を燐のそばに置く。
「そういうことは早く言えっつーの」
そう言って砂糖をすくって入れようとしたところで燐の
スプーンの動きがスローになった。
「なあ滝」
コーヒーに砂糖を入れながら燐が呟くように語りかける。
「なんだ?」
「コーヒー牛乳って砂糖が入ってないんだな」
「まあ、店で飲む場合はそうなるだろうな
砂糖入りがいいならコンビニに行って買い直すか?」
「いや、そういうことじゃないんだけどさ
今探してる案内人だけどよ、当然名前があるよな?」
「まあ、そりゃ名前ぐらいあるだろうな
本名とは限らんだろうが」
「何て名前だと思う?」
「名前か・・・考えたこともなかったな」
「だから何て名前だと思う?」
そこで燐が大げさに音を立ててスプーンをかき混ぜ始める。
それを見た滝の眉毛がピクッと動く。
「ヒントはコーヒー牛乳だから・・・」
「だから?」
「おい燐、俺に何を言わせようとしてるんだ?」
「いいから思ったことを素直に言ってみろよ
コーヒー牛乳と言えば?」
「コーヒー牛乳の構成要素はコーヒーと牛乳とそれに・・・
砂糖だ
その中で人の名前に近いものをあえて挙げるなら・・・」
「佐藤!!」
2人が同時に叫ぶ。
お互いに顔を見合わせたあと、滝が深々とイスにもたれる。
「ふうー、バカバカしい
そんな、なぞなぞみたいな答えがあってたまるものか」
「でもよお、他に手がかりはないんだし
確かめてみる価値はあると思うぜ」
「まさか放送で駅にいる佐藤さん全員を呼び出すつもりじゃ
ないだろうな?
何人いると思ってるんだ?」
「何人いるんだ?」
「そりゃ何人といるに決まってるさ」
「だから何人だよ?」
「さあ・・・何人だろう?」
ついに滝も燐の案に興味を持ち
駅内の佐藤さんを呼び出すことにしたのだった。
レベル17につづく
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