レベル15

「いやああああああっ」


「いいぞ、もっと悲鳴を上げろ

 ああ、体の奥がジンジンとうずいてくる」


相変わらずの照への電撃責めに薇雪は恍惚とした面持ちで

酔いしれる。

完全に燐たちに対する警戒心はなさそうだった。

燐と滝は風爺が行動を起こすのを今か今かと待ち受ける。

早く照を助けたい。

その一心で燐の心がはやり脂汗が噴き出してくる。

しかし、今は我慢しなければすべてが水の泡だ。

滝も苦しそうな表情で燐に自重を呼びかける。

まだか?

まだか?

薇雪が高笑いしたそのときだった。


「フルパワーじゃ!!」


ドゴオオオオオオオオオオオオオオオ


風爺のかけ声と同時にタクシーが急加速する。


「きゃっ、な、なんだというのだっ」


急激なGの変化に薇雪がよろめく。


「今だ!!」


低くかがんで影響を最小限に留めていた燐と滝が

一斉に薇雪に向かって飛びかかる。

燐がタックルを決めて薇雪を床に倒すとすかさず滝が背中から抱きついて

態勢を仰向けにさせる。


「は、離せ、下層市民が触れる体ではないっ」


「レディに荒っぽい真似をするのは好きじゃないんだが・・・」


そう言って

薇雪の両足首を掴むと一気に顔のほうへ引き上げてプロレス技のように

体を固定する。


「きゃあっ、な、何をするつもりだっ

 やめろ、離せ、

 私に恥をかかせてただでは済まさんぞっ」


「けっ

 そんな無様な格好で言っても説得力ないぜ、SM女王さま」


燐が悪態をつくと、薇雪の体をまさぐり始める。


「さあ、俺たちの銃を返してもらうぜ

 えーと、ここだったかな?」


「きゃあっ、バ、バカモノ

 どこを触っているっ」


「あっれれ?違ったかな?

 じゃあここはどうかな?」


「いやっ、やめろ

 汚らわしい手で触るなっ

 ああんっ」


薇雪が燐の責めに敏感に反応する。

どうやらSM女王は責められるのには慣れていないらしい。


「おい燐、いい加減にしないかっ

 こっちの体力ももう限界だ」


「悪りい、悪りい

 ついつい調子に乗っちまったぜ

 よし、

 これが銃だな、あらよっと、受け取れ照」


燐は銃を取り上げると照に渡す。


「恩に着る」


照が銃を受け取ると念を込め始める。

こうなると薇雪も黙っていない。


「ええい、離せと言っているっ」


「うわあ」


薇雪は足をばたつかせると抑えていた滝の手からするりと抜けると

そのまま蹴り倒して立ち上がる。


「げっ、復活しやがった」


燐が警戒して身構える。

だが、

薇雪の狙いは照ただ一人。

燐には目もくれず、すかさず照の銃を取り上げようとする。

照は持ち前のすばしっこっさを活かして飛びかかってくる薇雪の脇を

すり抜ける。

その間も念を込めるのを決してやめはしない。

捕まえるのは無理だと悟った薇雪は床に転がっていた鞭を拾い上げる。

また高圧電流を放電されたらひとたまりもない。

これはスピードの勝負だった。

時間をかければかけるほど照に不利に働いてしまう。

意を決すると照は薇雪の懐に飛び込む。


「至近距離で私に勝てると思ったかっ」


血相を変えた薇雪が電磁鞭から電撃をほとばしらせようとする。

それでも照はひるむことなく念を込めた魔弾ガンの銃口を

薇雪に向けて近寄ってゆく。

そしてついに鞭より速く銃口が薇雪の胸の位置に達する。


その差0.1秒。

距離に至っては0。


「これで決めるっ」


照がためらいもなくトリガーを押し込むと銃口から魔弾が発射される。


ドゴオオオオオオ!!


氷の槍が薇雪の体を直撃する。


「ぐはあっ」


薇雪の赤い唇から血が吐き出される。

その姿にかつての傲慢さはかけらもなかった。

そしてその勢いのままドアを破って外に放り出された。


「やったか!?」


燐たちは喜び安堵し、照がへなへなと床にしゃがみ込もうとした


その瞬間!!


照の首に鞭が巻き付く。


「うぐっ」


「照!!」


「お、お兄ちゃん!!」


照は咄嗟に手を伸ばして助けを求めるも、

無情にも同じく手を伸ばした燐の手をすり抜け、照までもがドアの外へと

放り出されてしまうのだった。


「はーはっはっはっ

 この女の命は預かった

 助けたくばその銃を持ってキャッスルへと来い

 わが居城ローズキャッスルで待っているぞっ」


そう告げると、

薇雪と照の姿は遠い彼方の霧の中へと消えてゆくのだった。

照の燐に助けを求める声と共に・・・。


床には寂しく銃が転がっていた。

どうやら奴らはこの銃が欲しくて欲しくてたまらないようだ。

この銃がある限りは照の命は安全とも言えた。

燐はそっと銃を拾い上げると、まるで照を抱きしめるように

愛おしくグリップを握りしめる。

そしてドアの外に体を向けると、

ドアから吹き込んでくる風を一身に受けながら決意を固めるのだった。


レベル16につづく

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