レベル14
散ってゆくヘリの残骸を眺めていた燐はスッと背を向けて
車内に戻ろうとする。
散り散りになった残されたヘリが戸惑うようにウロウロしてついに
引き上げようとするさなか、
一筋の轟音が燐の耳へと飛び込んできた。
慌てて振り向くと、
なんと、
ミサイルが一発こちらへと向かってくるではないか。
よくよく目を凝らしてみるとミサイルだけではない。
ミサイルの上に何か影が見える。
ミサイルの上に影?
そんなバカな。
よく目を凝らしてみる。
だんだんと近づいてくるミサイル。
影の形もくっきりとしてきた。
なんとそれは、
「げっ、嘘だろ!?」
「この薇雪様に敗北の華は似合わんのだっ」
先ほど燐が撃墜したはずの薇雪だった。
「生きてやがったのかっ」
「死亡届にサインした覚えはないっ」
ミサイルが十分に近づいたところで薇雪は燐に向かってジャンプする。
途端にパラシュートが開き急減速をしたと思ったらすぐさま外し
空中での姿勢を目まぐるしく制御しながら飛び込んで来る。
「うわあっ」
ガゴーーーーーーン!!
すごい勢いで薇雪の履く鋼鉄製のブーツが車体と衝突する。
柵を捻じ曲げてしまうほどの威力に燐はそのまま車内へと
押し戻された。
「きゃあっ」
「うわあっ」
「なにごとじゃ?」
突然の招かれざる来訪者に車内が騒然とする。
薇雪が目ざとく見つけた照と目が合う。
「見つけたぞテロリスト、反逆罪で逮捕してやる」
「くっ」
照が身構えて臨戦態勢に入る。
それを見た薇雪も鞭を取り出し攻撃を繰り出す。
ヒュンッ
照の頬を鞭が鋭くしなって通り過ぎる。
薇雪の鞭攻撃を紙一重でかわした照はそのまま懐に飛び込み
キックとパンチを混ぜた打撃を叩き込む。
その瞬間、
照は拳をかばうようにして痛がる。
「はーはっはっは」
薇雪が嬉しそうに笑って服を脱ぎ捨てると
艶めかしい柔肌に食い込むSMスーツが姿を現した。
「どうだったかな?
この特注で作らせた軽量交錯合金製SMスーツのお味は」
そう言って薇雪はSMスーツを覆うイボイボに付いた照の血をジュルリと舐める。
その異様な光景と威圧感にその場の全員が息を飲む。
「どうやら私が女王様であると認めてもらえたようだ
さあ先程のショーの続きといこうかっ」
照の苦しそうな顔を見た燐が銃を取り出し、
「照、受け取れっ」
投げようとするも、
「いらないっ」
と断られる。
「この距離じゃ銃のほうが遅い」
「でも、銃なしでどう戦うんだよっ
俺の精神力は使い果たしちまったし・・・」
そのやりとりを見た薇雪が口をはさむ。
「賢明な判断だ
もっとも、みすみす銃を渡す隙を与えるほど私は優しくはないがな」
パチーンと鞭で床を叩くと高圧電流が放電を起こし3人を襲う。
「うがあああああっ」
体に電流が走り痺れが起こるとたまらず銃を落とす。
薇雪は鞭を振って銃を自分の手元へと引き寄せる。
「ほう、これが魔法の銃か
見たこともない型だな
弾も入ってないとは・・・
何とも不思議な銃だ
これは調べがいがありそうだ」
しばらく銃をしげしげとみていた薇雪の顔に悪だくみの笑みが浮かぶ。
「持ち主がそこにいるんだ
使い方は本人から直接聞きだすとしよう」
薇雪の鞭が照の体に巻き付くと上に放り上げて天井の金属バーに
吊し上げられる。
照の体に巻き付いた鞭が重みで食い込んで締め上げる。
「うぐ、ぐ、ぐぐっ」
「さあ、私のかわいい照
この銃について知ってることをすべて教えてもらおうか」
「おまえのような犯罪者に教えることは何もない」
「ほう、おもしろいことを言うな
我々ボーズポリスのどこが犯罪者なのか教えてもらおう」
「・・・おまえたちは警察とは名ばかりで人々から自由を取り上げているだけだっ」
「人々というのは下層市民のことかな?
世の中の正否を判断できぬ頭の悪い者たちが自由を持った結果が
現在の地球の惨状ではないか?」
「違うっ
地球はみんなのものっ
金に目がくらんだ一部の権力者たちのわがままで
自然が滅んでしまっただけっ」
「地球はみんなのものだと?
くっくっく
地球は我々エリートたちのものだ
知恵を持たぬ下層市民はエリートに管理されてこそ
幸せを得られるのだ
そうやって反抗ばかりして下層市民にすらなれないおまえたちこそ
害悪なのだっ」
「わたしたちは自然を滅ぼした罪を裁こうとしてるだけっ
おまえたちはわたしたちを恐れている
エリートの過ちを暴かれることを
だから排除してなかったことにしようとしてるだけ」
「エリートが間違えるだと?バカなことを
エリートに間違いなどあり得ぬ
エリートこそが法であり、正義であり、神の叡智の結晶なのだ」
「自らの過ちを認めぬ人類に進歩は起こらないっ」
「どうやらこれ以上愚鈍な者と話しても無駄のようだ
躾のなってないメス犬にはお仕置きをしてあげるとしよう」
薇雪は血走った眼で電磁鞭から高圧電流を放電させる。
「ぐああああああああああっ」
照の体の奥にまで食い込んだ鞭を通して電気が送られる。
あまりの衝撃に照の服はビリビリに破け、白目をむいた眼からは
涙がこぼれ落ちた。
「くっ」
あまりのむごさに燐が顔をそむけて唇を噛みしめる。
それは滝も同じだった。
このままでは勝ち目はない。
竜京駅に着いてもポリスの増援を呼ばれて本部であるキャッスルタワーに
連れていかれるだけだ。
どうすればいい?
ん?待てよ?
竜京駅だって?
今このタクシーは竜京駅とやらに向かっているのか?
風爺は何を考えてるんだ?
今も運転してるのか?
ふと風爺のことが頭に浮かんだ燐はそっと薇雪に気取られないように
運転席に目をやる。
すると奇妙な偶然か風爺もこちらを見ていた。
なんだ?何か用なのか?
なおも見ていると風爺がこちらにサインを送ってるように感じた。
何が言いたいんだ?
燐は懸命に頭を巡らす。
こういうことは滝のほうが数百倍向いてるが今はそうも言ってられない。
風爺の真剣な眼光が燐を射抜き続ける。
感じろ、風爺の想いを感じ取るんだ。
そうしてると、ふとある違和感に気づく。
なんだろう?
窓の外は今までと変わらない風景が流れ続けている。
ジャンプしては着地してジャンプしては着地する。
老体のタクシーはキイキイ軋む。
いや、違う。
軋み方が、泣き方が違う。
そうか!!
燐は気づいた。
違和感の正体それは・・・ロケットブースターが点火されていないことに!!
燐は興奮気味に風爺と見合う。
お互いドライバー同士、
それはリアルとVRの差はあったけれどもマシンの声を聴いて操ってきた者同士
だからこそ
わかり合えたことだった。
なぜロケットブースターを点火しないのか?
考えるまでもなかった。
風爺の想いを汲み取った燐はすかさず滝にジェスチャーを送る。
燐と滝の付き合いの長さは伊達ではない。
燐の意志をすかさず汲み取った滝が息を合わせる。
こうして今、
静かな反撃の狼煙が上がり始めたのだった。
レベル15につづく
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