レベル13

 外に出た燐は小さくせり出した柵付きの踊り場に立ち

銃を構える。

そして先ほどしたように銃に念を込めると光の弾が装填される。

燐はイメージしてイメージしてイメージする。

あのヘリの大群に撃ち勝てる魔弾を。

先ほどはファイアーバードだった。

今度は何か?

トリガーを引いて撃ち出された弾は細い光の束、つまりレーザーだった。

常時放出され続けているレーザーだから遠くのヘリにも容易に狙いが

付けられた。


「こいつはいいぜっ」


適材適所の攻撃に大喜びした燐は調子に乗って撃ち続ける。

魔弾レーザーはヘリの装甲を容易に貫き次々と撃墜してゆく。

滝のアドバイスも忘れない。

燐は定期的に体を動かし敵に狙いを付けさせない。

ときには寝ころび、ときには屋根にぶら下がり、まるでVRゲームを

楽しむような感じでスコアを稼いでゆく。


 しかしである。

何か様子がおかしい。

しばらくたってから燐は言いようのない不安がこみ上げてくる。

何が不安なのか?

漠然とした想いがだんだんと形となって現れる。

それは何か?

それは敵のヘリを撃墜するスピードである。

敵の減ってゆく数が明らかに少なくなっている。

ボーズポリスがさらに増員をかけて武装ヘリを増やしたのか?

いやヘリもタクシーも全速力で走り続けている。

追いつけるとしたら軍隊の戦闘機くらいだろう。

ではなぜ減らないのか?

そう、減らないのは増えているからではない。

実際はその逆で1機のヘリを撃墜する時間が増えているのだ。


「はあはあはあっ」


燐は肩で息をする。

体を流れる汗も増えていた。


「くそっ、撃っても撃っても減りやがらねえ

 レーザーは出てるのになんでだ?

 なんで落ちてくれねえんだ」


射撃の感触が変わったことに嘆く燐だったが、それもそのはずだった。

レーザーがヘリの装甲を貫くのにかかる時間が増えているのだ。

明らかにレーザーの出力が減っていた。


「うっ」


先程から疲労をのぞかせていた燐がついに膝をつく。

銃口から飛び出るレーザーもかすれたように先細っていた。


「まさか!?」


そこでついに燐は気づいた。

そう、この魔弾ガンは射ち手の精神力と体力を奪うのである。


「ちきしょー、そんなのありかよ」


前方のヘリを見ると確かに最初よりは減ったがまだまだ勢いよく弾を撃ち続けて

いる。

まだとても安全と言えるような状態えではない。


「俺の体力はこの程度なのかっ

 まだまだいけるはずだ、あっ」


燐が無理に銃を構えると手を滑らし床に落としてしまう。

かろうじて柵の底の支柱に当たって落ちずに済んだ。


「あっぶねえ」


燐はヒヤッとしながら銃を拾い上げて、両手で握りしめる。


「こいつがねえと希望の灯すら消えてしまう」


命拾いしたことで燐は落ち着きを取り戻した。


「落ち着け、考えろ、考えるんだ

 どうしたらこの窮地を抜け出せるかを

 一旦中に入って体を休めるか?

 いや、こんな気が気じゃない状態じゃとても休まりゃしねえ

 むしろ逆効果だ

 じゃあどうする?」


燐は目をつぶって深く瞑想する。額から鼻にかけて汗が流れ落ちる。

そうしてると

目の前の闇がパッと光る。


「そうか、その手があったか

 ほんとにうまくいくのかわからねえが、もうこれに

 賭けるしかねえ」


燐は銃のグリップを持ち直し両手でしっかりと握る。

そして両足も体を安定させるように広げると前方から迫ってくるヘリに向かって

銃口を向ける。

そして狙いをつけて発射する・・・かと思えば

燐は何を思ったか両目をつぶってしまうのだった。


 燐は諦めてしまったのか?

いや違った。

深く呼吸をして瞑想状態に入っていたのだ。

もう先ほどのように動き回ることもしない。

雑念を消して体力を温存し精神を極限までに高める。

そうして

集中させて集中させて集中させて練りに練った気合は

黄色から白へ、白からさらにまばゆい黄金の光となって

魔弾ガンへと注ぎ込まれてゆく。

そうして光輝く中から弾が産まれると

燐はカッと両眼を見開き、ありったけの願いをトリガーに込めて

弾を発射させる。


「いっけええええええええええ!!」


燐の雄叫びと共に放たれたのは金色の竜だった。

ヘリに向かって解き放たれた竜は荒れ狂うように暴れまわり

次から次へと撃墜してゆく。


ゴオオオオオオオオオオオオオオオ!!


爆破されたヘリのあまりの多さに爆発の連鎖反応を起こし

熱波の衝撃が燐に襲いかかる。


「うぐぐぐぐっ」


燐は咄嗟に両手で顔を覆い熱波から身を守り耐える。

そこに車輛に戻るという選択肢はなかった。

燐には目の前で起こっている凄惨な光景から目をそむけることはしたくなかった。

たとえ敵とはいえ命を奪うというのはそういうことなのだという

言い知れぬ使命感が実戦を通じて燐の中に芽生えていたのだった。


レベル14につづく

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