レベル12

 黒い群れの正体はポリスの武装ヘリによる追撃隊の増援だった。

10、20、30、数えれば数えるほどきりがないほどだった。


「うっひょー、まじかよ

 よくもまあ俺たちなんか相手にこれだけの数をそろえたもんだぜ」


「正確には俺たちではなく、この照の正体が知りたいためだろうな」


「さすがにこの数では分が悪い

 風爺、逃げられる?」


「任せときんさいっ

 照とそこの若いのを無駄死にさせたらあの世で婆さんに叱られちまうからのう

 このタクシー共々老体に鞭打つとするかいな」


そう言って風爺が特別なレバーを引くとエンジンのリミッターが解除され

天板のサイレンが鳴り始める。

それと同時にロケットエンジンが姿を現した。


「げっ、なんだなんだ?

 タクシーのくせに変形するのかよ!?」


「しっかり掴まっとれよ若いの

 命の保証は出来んぞ」


足底の電磁吸盤で配管にくっつきながら走っていたタクシーのスピードが

上がる。

猛烈なスピードで動く足、そしてジャンプした後のロケット噴射。

これを繰り返してヘリに捕まる前になんとか竜京駅に辿りついて

乗客を無事に降ろさなければならない。

それが風爺の仕事だった。


「おい爺さん、もっと飛び続けるわけにはいかないのか?」


「ざんねんじゃがロケットブースターはエンジンのは熱暴走を引き起こす

 連続で使うには6秒ごとに9秒のクールダウンをはさむ必要があるんじゃ」


風爺の説明に滝が納得する。


「電子機器は熱に弱い。

 こればかりはどうしようもなさそうだ」


「おまえは話が通じそうじゃの

 クールダウンと言ってもそのときどきの環境によって温度は変わってくる

 そのわずかな違いを見極めて適宜時間を加減してやるんじゃ

 それが熟練の腕というものじゃの」


風爺が目を輝かせながら得意げに語る。


「でもよお、このままじゃ追いつかれちまうぜ」


老朽化した車体の錆びた金属がキイキイと泣くように軋む。

ミサイルが直撃すればひとたまりもないのは明らかだった。

燐がしきりに窓の外を見て様子をうかがう。


「すこし落ち着かないか、燐」


照がさとす。


「でもよお、このままじゃ助かるもんも助からねーぜ

 外に出て撃ち返すわけにはいかねーのか?」


「敵の数が多すぎる

 1機2機落とす間に敵の流れ弾に当たってやられるのがオチだ

 それならまだこの中にいたほうがいい

 たとえ棺桶であったとしてもな」


そう照にさとされて目をつぶって座る燐だったが、やはり居ても立ってもいられず

再び立ち上がる。


「やっぱりだめだ

 このままじゃ生きた心地がしやがらねえ」


「燐は昔から頭より行動が先走るタイプだったからな

 この何とも言えない状態はつらいだろう」


「その通りだぜ、滝

 なんというか自分の命を他人に預けるというのが気に入らねえ」


そう言って運転席に座ってせわしなくタクシーを操る風爺の元に駆け寄ると


「おい爺さん、俺が運転代わったほうがいいんじゃねーか?

 俺だってVRレースじゃけっこうなもんなんだぜ」


と口をはさむと思いもかけない罵声が返ってきた。


「若造が簡単に使いこなせるほどこのタクシーはやわじゃねえっ

 こっちは生涯をかけて得たこいつの性能のすべてを

 叩き出しとるんじゃ

 VRなんか及びもせんわ

 黙って座っとれっ」


面食らう燐だったがそのあとに怒りが湧いてくる。

しかし風爺の言うことももっともだから怒りのはけ口が見当たらない。

覚悟を決めたようにこぶしを握ると


「照、魔法銃を貸してくれ」


と要求するのだった。


「燐・・・わかった」


燐の決意を見て取った照は口数少なく銃を手渡す。


「・・・死なないで」


そっとそう呟くのが照の精いっぱいの愛情表現だった。

その照の頭を燐が撫でてやる。


「ったりめーだろ、俺を誰だと思ってんだ?

 VRレースのチャンプ様だぜ?

 おまえは俺が絶対守ってやるからな」


「・・・うん」


照が小さくうなずく。


「おっと俺も忘れるなよ燐、アドバイスだ

 遠くの物を撃つには偏差射撃というテクニックが必要になる

 現在の相手の位置を狙って撃ったのでは弾が届いたころには

 目標はもう別の位置にいることになって当たらない

 だから、

 敵の進行方向を予測して早目に撃っておくんだ

 そしてそれは

 おまえ自身に対しても同じことになるんだぞ

 このタクシーは敵の弾をかわすためランダムに動いている

 さらに小さい人間を狙うとなると敵からしたら厄介だろう

 だからまず当たらないと考えていいだろうが万が一がある

 敵に狙いを定めさせないために

 ある程度の時間感覚で立ち位置や姿勢を変えて撃ち続けるんだ

 そうすれば生還率はぐっと上がる

 わかったな?」


銃の手入れをしながら聞いていた燐がグリップを強く握って質問する。


「その生還率とやらの計算結果は?」


一呼吸置いた滝が口を開く。


「51%だ」


「おうよ、1%もあれば十分だぜ

 なんてったって俺は数々の死線をくぐり抜けてきたレースチャンプだからな」


「ああ

 祝杯を用意して待ってるぜ、相棒」


「いっちょやったるかあ!!」


照と滝に勝利サインを掲げると、燐は後ろに設置されたドアから外の足場へと

飛び出すのだった。


レベル13につづく

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