レベル11

 やってきたのは鉄板の箱に6本足が付いた乗り物だった。


「おやおや?今日は大所帯で賑やかだ」


風爺かぜじいっ」


照が名前を呼ぶと運転席の男がにっこりと骨ばった手を振って挨拶を交わす。

どう贔屓目に見てもみすぼらしい風体で、運転席で悟りを開いてる風すらあった。


「なんだ照、この爺さんと知り合いか?」


「ああ、この配管界隈を根城にしてる流しのタクシーだ

 乗せて行ってもらおう」


「まさかこんな場所で営業してるタクシーがあったとは・・・

 世の中は広いものだ」


「こんなオンボロに乗って大丈夫か?」


「文句を言うなら置いてくぞ」


「ここは俺たちの常識が通用しない世界だ

 言うことを聞いた方が賢明だぞ、燐」


「へいへい」


3人が乗り込むと、折りたたんでいた6本足がすっと伸び

配管の上を走りはじめる。


「照や、今日はどこまで行く気じゃ?」


「竜京駅まで行きたいの」


「竜京駅とはまた物騒じゃのう」


「ちょっとヘンテコな二人組を拾っちゃってね

 連れてかなきゃいけないのよ」


「なんだと?どっちがヘンテコだどっちが」


「わたしにエッチなことしたじゃないの

 ヘンテコよヘンテコ」


「あれはおまえが勝手に敏感に反応しただけだろっ」


「な、何よその言い方はっ、燐の触り方がエッチすぎるのよ

 ふつうのお兄ちゃんならあんなにはならないんだから」


「ほっほっほ、息の合ったコンビじゃのう」


燐と照のやり取りを見ていた風爺がにこやかに笑う。


「もう風爺までやめてよ」


「そうかい?

 照のそんなに楽しそうな姿は初めて見るやもしれんのう」


「そ、そんな・・・」


唐突に思いもしなかったことを言われた照は気恥ずかしくなって下を向いてしまう。


「な、なんだよ、おまえやっぱり寂しかったんじゃねーか

 そりゃ親がいないんだもんな

 俺たちのことをお兄ちゃんと思っていいんだからな」


「おまえたちのようなヘンテコなお兄ちゃんなんかいらない」


「ったく素直じゃねーんだからな」


「どうやら彼女は今ジレンマの状態にあるようだ」


「ジレンマ?なんだそりゃ、新しい必殺技か?」


「まったく教養のない奴だ

 ジレンマというのは

 好きな男を想って花占いをする乙女のもどかしい想いのことを言うのだ」


「てーことは・・・まさか照、俺に惚れたんじゃ・・・」


「ちがうちがう絶対ちがうっ

 花占いってなによ、ジレンマってそういう話じゃないでしょ?」


「まあそれは燐にわかりやすいようにした例え話のような

 ものだからな

 しかし、

 今まで一人で生きてきた照が俺たちの存在に戸惑ってるのは

 間違いないんじゃないかな?」


「そ、それは・・・」


「なんだかよくわかんねーが、

 ようするに俺たちと仲良くしたいってことなんだろ?

 もっと素直になれよな

 あ、そーだ

 お互いのことをもっと知れば仲良くなれんじゃねーか?

 おーい爺さん、

 照の小さかったころの話をしてくれよ」


「ほーほっほ、照の小さい頃とな?

 よーく覚えとるよ

 そりゃもうわんぱくでケンカっ早くて髪も短くて

 まるで男の子のようじゃったのう」


「だーーーはっはっはっはっはっ

 今とまんま変わんねーじゃん」


「もう風爺っ、なんてこと言うのよっ」


「照が照れてやんのー、だーはっはっはっ」


「ちょっとヘンテコなフレーズ作らないでっ」


「照が照れる、燐にしちゃ気の利いた言い回しじゃないか」


「照が照れるか、若いっていいのう

 ほーほっほっほ」


男三人の笑い声がサラウンドのように響き合い車内を包み込む。


「いじめか!?

 この空間はわたしをいじめるために存在してるのか!?」


ドガがガガーン!!


和気あいあいと旅を楽しんでいたそのとき、タクシーのそとが

爆風で包まれる。


「なんだなんだなんだ!?」


全員が慌てて窓から外を見るとそこには黒い群れが飛んでいたのだった。


レベル12につづく

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