レベル9

 ポリスとペイントされたヘリのドアが開いて女が顔を出す。


「はーはっはっは

 逃げられると思ったかナメクジども

 貴様らの墓場にはお似合いだな」


そう、それは女隊長の薇雪だった。


「にゃろうあの女、俺たちをナメクジだと?

 どう見ても立派なカニだろうがっ」


燐が執拗に追いかけてくる薇雪に怒りをあらわにする。


「落ち着け燐、ただの挨拶だ。深い意味はない」


「わーてるよ、ったく」


滝の冷静な言い回しに呆れる燐。

ここまではいつも通りの展開だったが照の顔色がすぐれない。


「どうした?

 さあ、さっきの魔法銃でちゃちゃっとやっつけてやってくれよ」


「・・・無理だ」


「あ?なんだって?」


「無理だと言ったんだっ」


照が珍しく本気で怒る。


「無理ってどういうことなんだよっ」


「照、詳しく教えてくれないか?」


滝が優しく尋ねると、照は観念したように腕を差し出す。

見ると傷口が悪化していたのだった。


「なんだよこれっ

 おい照、何で今まで黙ってたんだ!!」


燐もくってかかるように怒り出す。

だがこれは照の身を案じての怒りだった。


「しょーがないだろっ

 こんなとこじゃ手当てすることも出来ないし、

 わたしにどーしろって言うんだっ」


うっすらと涙を浮かべる照を横目に滝が内ポケットから小さな子袋を取り出す。


「清めの塩をいつも持ち歩いているんだ

 ばあちゃんの言いつけでな」


「そうそう、こいつの知識はばあちゃん譲りなんだぜ」


そう言って照の腕を取ると塩を塗りこむ。


「痛っ」


照が苦悶の表情を浮かべる。


「ああ、だがこれでしばらくは菌の増殖を防げるはずだ

 あとは包帯の代わりになるものがあればいいが・・・」


「やい照、おまえ女の子のくせに救急セットを持ち歩いてないのかよ?

 まったくこのポシェットは何のためにあるのかねえ」


そう言って燐は中身を見ようとする。


「バカッ、見るなっ」


照の訴えにも耳を貸さず中身を見るとなんとそこにはナプキンが入っていたのだった。

観念した照が顔を伏せながら口をとがらせて喋る。


「今日はお、多い日だったんだからしょうがないだろ・・・」


「お、おお・・・そうか」


さすがの燐もこんなときにまで茶化すような下劣な男ではない。


「ふう、乙女の私物を覗き見するとはほとほとデリカシーのない奴だ」


「そ、そんなんじゃねーよ、俺はだなあ・・・

 そ、そうだっ」


言い訳がましく喋っていた燐が突然何かを閃く。


「このナプキンを絆創膏代わりにすりゃいいんじゃねーか?」


「そうか、その手があったか

 そうとなればさっそく包帯を用意しよう」


そう言って滝が自分の服を破り始める。


「あっ」


申し訳なさそうな照に燐と滝が優しく微笑む。


「困ったときはお互いさまだろ?なっ」


「うんっ」


照は二人の温かさに感動して、包帯を巻き終えるまでじっとしているのだった。


「撃てーーー!!」


そこに薇雪の怒号が響くと


バババババババッ


とガトリング砲が撃ちだされる。


ズガガガガガガッ


と、被弾した配管が無残にも崩れ落ちてゆく。


「あの女、本気で俺たちを殺す気だぞっ」


「どけ、わたしがやる」


照が銃を取り出して前に出るが、構えた瞬間手が震えだして狙いが定まらない。


「そんな身体じゃ無理だっ」


「しかし他に方法がないっ」


「二人とも、言い争ってる暇はないぞ

 ヘリが間合いを修正して再びやってくる

 そうなったら今度こそ直撃だ」


燐が拳を握って気合を入れる。


「よし俺がやるっ

 照、銃の撃ち方を教えてくれっ」


「でも・・・」


何か言いたそうな照だったが燐の本気の眼差しに心打たれて

任せることに決めるのだった。


レベル10につづく

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