レベル7

「ダメだ、脱出口までロックされてるぞっ」


「なんだって!?」


燐たちが固く閉ざした脱出口を前に立ち往生する。

透明のガラス壁の向こうからは薇雪が顔を真っ赤にして追いかけてくる姿が。


「ちっきしょー、どうすりゃいいんだ

 完全に閉じ込められちまった」


「落ち着け燐、今焦っても何も解決せんぞ」


「落ち着いて悟りでも開けってか?

 まったく冷静すぎんのも考えもんだぜ」


「・・・離して」


「あ?今立て込んでんだ、あとにしな」


「離せと言ってるっ」


ポカッ。


「痛ってー、なにすんだこいつ」


燐のおぶっていた照が頭を叩いて背中から下りる。


「人の言うことを聞かないからだ」


「うー、なんだか偉そうな女子高生だな

 おっぱいは大きいってのにかわいくねえ」


「女の子は月に一回機嫌が悪くなる日があると聞く

 もしかしたらそのせいかもしれんぞ」


「そうならそうと言えよな

 せっかく命がけで助けてやったってのによ、ったく」


「ちがうわ、バカッ」


照が顔を真っ赤にして否定する。

まったく勝手なことを言いたい放題の男どもである。


「助けてくれたことには礼を言うが、借りを作るのは好みではない

 このダクトから外に出るが来るなら勝手に付いて来い」


排気ダクトの開閉レバーを回してカバーを外した照が

床に背をつけた状態で這いつくばって狭い穴の中へと潜り込んでゆく。


「おいおい、ここは地上76階だぜ?

 まさか飛び降りるつもりじゃねーだろーな」


「おい燐、ほかに方法はなさそうだ

 ここは彼女に付いてゆくしかない」


「わーてるよ、行きゃいいんだろ行きゃ」


3人はエアバッグや配管でぎゅうぎゅうになった狭い穴の中を

這いつくばって進んでゆく。

内部は赤い非常灯でかすかに照らされているだけだった。

入り組んだ迷路をしばらくすすんでゆくと照が動くのをやめて

ゴソゴソし始める。


「外壁に付いたぞ。

 今開けるから待ってるんだ・・・あっ」


腰に巻いた万能ポシェットの中からペンライトを取り出そうとするが

カランカランと音を立てて床に落としてしまう。


「うぐっ、ううんっ」


照は体をよじって何とか拾おうとするが、さっきの感電の痺れが

まだ残ってるせいもありうまく腕を伸ばせないでいた。


「おい何やってんだ、女子高生

 拾ってほしいならそう言えよな

 ったく、こんなときまで強情張られたらかなわねーぜ」


「あ、ありがと・・・」


燐の荒っぽいながらの優しさに照がもじもじしながら感謝の言葉を

口に出すと、

意外な態度に燐も上機嫌になった。


「お、やっぱり女の子だねえ

 なかなかかわいいとこもんじゃねーか

 それで、どこに落としたんだ?」


「えっと、それは・・・」


「何だよ、はっきり言えよな」


「だからその・・・」


「聞こえねーよ、なんだって?」


「だから太ももの間に落としたのっ」


照が顔を真っ赤にして答える。


「な、なんだってー!?」


燐と滝が声をそろえて叫ぶ。


「よ、よーし待ってろよ、お兄ちゃんがすぐ拾ってやるからな」


「おい燐、慎重にやれよ

 乙女の太ももは聖域と隣接しているんだ

 もしペンが進入禁止エリアに入ってしまったら終身刑はまぬがれんぞ」


「だいじょうぶだって

 ほんと滝は心配性で困るぜ」


「ちょ、ちょっと何変なこと言ってるのよっ

 ただライトを拾うだけでしょ?」


2人の会話に怯える照だったが、燐はかまわず手を伸ばす。


「えーとこれかな?それともこれかな?」


「きゃっ、どこ触ってるのよっ

 やだっ、そこはちがうっ

 ああっ、そんなに腕を伸ばさないでっ」


ドカッ、ビシッ、バコッ!!


敏感な太ももに手が触れるたび照は大騒ぎして燐に無数の蹴りを浴びせる。


「痛たたたたたた

 ほら見つかったからおとなしくしろ

 ったく、とんでもねー狂暴女だぜ」


「・・・もう絶対頼まない」


赤面させた照が恨みがましく言いながらライトを受け取ると、

手元の開閉装置を操作してフィルター層のシャッターを開け放つ。


「うわ、まぶしっ」


外の光が排気口から注ぎ込み3人を包み込んだ。

そして、

格子状の金具を外すと、

照はためらいもなくあっさりと外壁を伝う巨大なパイプに飛び乗った。

下を向くと道路は遥か彼方下にあり、

豆粒のような自動車がせわしなく動き回っているのが見えた。


「・・・おいおい道間違ってないか?」


あまりの恐怖に燐は軽口をたたいて気を紛らわすのだった。


レベル8につづく

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