■07: 黒い薔薇(仮)

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エピソード「黒い薔薇」の断片・プロット

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2月


彩乃が何者かに攫われる。

連れていかれた場所は、とある山中の古びた洋館。

小さめのダンスホールに彩乃は、下着姿で椅子に拘束されている。部屋の窓は塞がれ、壊れたピアノがそのまま放置されている。

室内には自動小銃ACE31を携えた男が三人。彼らは古い灯油ストーブで暖を取りながら彩乃を監視しつつ、下卑た視線を送っている。


そこに、仮面を着けた女と、サングラスを着けた男が入室してくる。

女はベージュのコートと臙脂色のタートルネックセーター、チェック柄のロングスカート、スエードのブーツといった装い。仮面は真っ白で、目の部分に穴が開き、口のラインが描かれているだけの、顔を隠す以上の意味のないシンプルな物。およそ山中の廃墟にいるような恰好ではない。

男のほうは、ポーチ類のついたプレートキャリアを身に着け、上からフライトジャケットを羽織っている。自動小銃BREN2を提げ、腰にもピストルを帯びている。


男が監視の三人へ退室するように命令する。退室を見届けると、サングラスの男はドアの前へ立った。

仮面の女は、彩乃の前に立ち、彩乃の前で素顔を見せる。

彩乃とよく似た顔立ち。

死んだはずの妹「鞠乃」だった。


「……鞠乃」

「覚えててくれたんだ、お姉ちゃん」

「ずっと死んだかと思ってた」

「死ぬわけないでしょ、あなたの妹なんだから。でも、お姉ちゃんみたいに無傷でとはいかなかったけど」

そう言い、鞠乃はタートルネックのセーターを捲り上げる。古い火傷と裂傷の痕が残っている。綺麗な肌の部分のほうが少ない。

「まあ、積もる話もあるけれど、こんなところではちょっと雰囲気はないね」


「……お姉ちゃんが訊きたいだろうことに答えてあげる」

鞠乃は、最近の事件の関係者へ支援していたのは自分だと、告げる。


「彼らは、この国が灰塵や激浪の底から蘇る幻影を再現したいと考えている。悪くはないけど、少し夢を見すぎだと思うし、暴力にそれらしい理由をつけたいだけとも思うわ。まったく、グロテスクよね。……それに、彼らが夢見る“あの頃”とはシステムが異なるということを意識的に見ないようにしている。子供が『戦争はよくないです』『差別はよくないです』って言っているのと大差ない。――だから彼らは失敗するでしょうね」

「それなら、なぜ支援するの?」

「わたしはただ花火と流れ星が見たいだけ。そのために愛国者を騙るくだらない三文役者たちのお遊戯に付き合ってあげてるの」


「どうせ焚きつけるなら、ゴミのほうが胸が痛まないから。それにお姉ちゃんたちの仕事の助けにもなるでしょ?」


「この部屋の外にいる人たちはお姉ちゃんたちへのプレゼント。わたしが支援してる集まりの中でも問題児らしくてね、計画の不安要素になりそうなんだって。ふふ、かわいそうよね」


「じゃあね、また会いましょう」

鞠乃はサングラスの男を引き連れて部屋を出ていく。その際、入れ違いの監視三人へ「彼女のことは好きにしていい」と言う。「できるのならね」と小さく言い添えて。



一人が自動小銃を置くと彩乃に近づき、もう一人はスマートフォンを取り出す。三人目は自動小銃の銃口を彩乃へ向け、威圧している。

男が彩乃に触れようとした瞬間、突然突き飛ばされたようによろめき、倒れる。何が起こったのか飲み込めず、あたりを見回す残り二人。窓を塞ぐ木板に指ほどの大きさの穴が開いているのに気付く。いままでなかった穴だった。

銃撃を受けたと理解し、逃げようとする。そこへ二発目の弾丸が飛来し、男の頭を吹き飛ばした。残る一人は彩乃を盾にしようとしたが、いつの間にか拘束から逃れていた彩乃に絞め落とされる。

彩乃は、絞め落とした男からジャケットを奪い、自動小銃を拾う。

ドアに耳を近づけ、ドアの向こうの様子を窺う。

なにやら騒がしい。銃声も聞こえる。




――

彩乃を監視していた男たちを撃ったのは猫澄だった。

.50口径のライフルHTIによる壁抜き狙撃。

レーダーで建物の構造と生体の位置を把握し、心拍センサーや通信端末の電波でその精度を高める。

ライフルスコープの前にマウントされたフルスペックの戦術装備に映し出されるリアルタイムの透視映像と対象の移動予測。加えて、貫通後の弾道予測。


貫通後の弾道変化の少ない壁の部分を狙って、撃つ。

サーモグラフ様にオーバーレイされた人影が一つ消える。まるでビデオゲームのよう。




――

洋館の正面から突入するパトリシア。

ドラム弾倉を挿した半自動式散弾銃ORIGIN‐12を携え、館内を制圧していく。

さながら幽鬼のような異様なプレッシャーを放っている。

弾倉交換の隙に襲いかかろうとする男がいるが、猫澄の射撃で倒される。

洋館内部の武装集団は、パトリシアという目に見える脅威のほかに、見えない謎の存在にも気付き、混乱し、恐怖する。

「『彼女』はどうした」と、鞠乃と彼女の私兵に助けを求めるが、鞠乃は既に裏口から洋館を去っていた。

人質を盾にすれば、襲撃は収まると考え、ホールへ向かう者たちもいるが、彩乃と鉢合わせ、返り討ちにされる。



間もなく館内は完全制圧され、彩乃とパトリシアは再会する。

パトリシアは涙を浮かべ、抱き着く。彩乃はパトリシアを抱き締める。

「そんなキャラだったっけ、パトちゃん」

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