26-3「疑惑の魔石入札」
開拓団についての、他の質問は冒険者ギルドと似た感じだ。
馬車軌道の件と古代遺跡の件を見ておくか⋯
■馬車軌道の敷設
株式会社の設立
質問
馬車軌道って何ですか?
回答
ジェイク領の石炭町、サルタン領の石炭町、※※※※※※
そうだよな。
そうした質問が出てくるのは当然だよな。
質問
敷設されるのは西街道ですよね?
回答
現段階では西街道に馬車軌道が敷設される予定です。※※※※※※
ククク、実に素直な質問だな。
だが、こうした質問が出されるのも当然だ。
考えてみれば、俺が西街道に馬車軌道が敷設されるのを知っているのは、大衆食堂でアンドレアから話を聞かされたからだ。
加えて、それを確定したのは冒険者ギルドのキャンディさんの言葉だ。
そうした情報を得ているからこそ、西街道に馬車軌道が敷設されると知っている。
そうした関係者からの言葉や、それを裏付ける情報を得ていない状態で、この公表資料を見せられただけなら、何処に敷設されるかはわからない。
『やっぱり西街道じゃないのか?』
そうした考えは、所詮は資料を読んだ各個人の『予想』でしかないからだ。
質問
株式会社って何ですか?
回答
株式会社とは※※※※※※
これも出てきて当然の質問だ。
俺の場合は研究所に籍を置いていた頃に『株式会社』の仕組みを学んでいたから理解できる。
リリアやその両親、それにロレンツ親子は『株式会社』についての知識が乏しかった。
そうした知識の無い人々にしてみれば、『株式会社』は意味不明な言葉だろう。
だが、アンドレアが商会を『株式会社』に変えたというロレンツの親父さんの話からすれば、同じ商人達は『株式会社』についての知識を深めていると思うのだが⋯
そうか。
ロレンツの親父さんやリリアは商人ではなく、あくまでも商隊を護衛をする冒険者だ。
そうした立場の違いからすれば、『株式会社』という仕組みへの理解を深める機会や動機は乏しくなるよな。
「イチノスさん、お待たせしてすいません」
背後から声をかけてきたのは、メリッサさんだった。
「メリッサさん、こんにちは」
「商工会ギルドへ足をお運びいただきありがとうございます。またお待たせしてしまって本当にすいません」
「いえいえ、私が勝手に早く来ただけですから」
「質問状をご覧になってたんですか?」
「なかなか的確な回答がなされていますね。これなら商人の方々も、自分たちが何をするべきか考える機会が得られると思います」
「イチノスさんに褒めてもらえるなんて、思いもよりませんでした」
「ククク 私は突撃してくる商人の方々が減ってくれれば良いんです(笑」
そこまで言葉を交わすと、メリッサさんが横にずれて、先ほどの年配の男性職員を紹介してきた。
「イチノスさん、商工会ギルドで質問状を担当している『ナログ』を紹介させていただきます」
「ナログと申します。イチノスさんとは、納税の際に2度ほど窓口で担当させていただきました。今月から、西方再開発事業での質問状受付と回答を担当させていただいております。その縁で、今後はイチノスさんとお会いすることも増えると思います。改めてよろしくお願いします」
「丁寧な挨拶をありがとうございます。魔導師のイチノスです。納税ではお世話になりました。今後もよろしくお願いします」
俺としては、メリッサさんが質問状の担当窓口になると思っていたが、別途に専任者を置いたんだな⋯
互いに挨拶を終えたのに納得したのか、メリッサさんが今日の本題の提案をしてきた。
「では、イチノスさん、魔石の入札の件と、ベネディクト・ラインハルト氷商会との打ち合わせですよね? 応接室を確保していますので、ご案内させていただきます」
◆
メリッサさんに連れられ、案内されたのは2階の応接室だった。
魔石の入札の件で応接室とは仰々しい気もするが、俺は素直にメリッサさんと共に応接室へ足を踏み入れ、共に応接へ座ったところで、俺から切り出した。
「メリッサさん、魔石の入札で応接室ですか?」
「えぇ、今回の入札でイチノスさんにお伝えする件が出て来てしまいました。少々、周囲に聞かせられない部分もありまして、こうして応接を準備させていただきました」
ん? 何かあったのか?
「魔石の入札のお話へ進む前に、まずは商工会ギルドの預かりへ大量の入金をいただき、ありがとうございました。つきましては、まずはこちらをご確認ください」
そこまで告げたメリッサさんが頭を下げると、手にした書類の束から商工会ギルドの記しが入った封筒を、応接机の上で俺に向けて差し出してきた。
俺はそれを手に取り、封を開けて中身を取り出すと、商工会ギルドの記しがなされた紙と、冒険者ギルドの記しがなされた紙が出てきた。
まずは冒険者ギルドの記しがなされた紙を開くと、そこには冒険者ギルドで預かりの移動を願った金額を示す数字が見て取れた。
もう一枚の紙を開くと、それは商工会ギルドの預かりへの入金の知らせだった。
俺はカバンから、冒険者ギルドのオバサン職員が渡してくれた預かりの移動を記した半切れを取り出す。
・オバサン職員から渡された預かり移動の半切れ
・冒険者ギルドからの預かり移動の書類
・商工会ギルドの預かりへの入金の知らせ
それら3つを並べて、全ての金額に間違いが無いことを確認して行く。
「間違いないですね。これで魔石の入札に必要な資金に不足がないことになりますね(笑」
「⋯⋯」
俺は軽く冗談を添えて伝えたのだが、メリッサさんの反応が薄いな。
これは何かあるのか?
先ほどメリッサさんが口にした
〉イチノスさんにお伝えする件
に関わりがあることか?
「イチノスさん⋯ 実はですね⋯」
メリッサさんが、どこか話し辛そうに口を開く。
「とある方面から、苦情と言いますか⋯ 提言が届いたのです⋯」
とある方面から苦情? 提言?
「その苦情というか提言がですね⋯ 『魔導師のイチノスは魔石の転売に手を貸している。だから今回の魔石の入札では気を付けろ』と⋯」
な、何を言ってるんだ?!
「さらには『魔石の転売に関わっているような奴を商工会ギルドの入札に参加させるな』と言うものなのです」
はい?
俺はメリッサさんの言葉の意味が直ぐに理解できなかった。
「メリッサさん、もう一度お願いできますか? 急な話でメリッサさんが何を言わんとしているかを理解できません」
「そうですよね、こんなくだらない話にギルドが耳を貸すべきじゃないと私は思うのですが⋯」
やはりメリッサさんの言葉に切れがないな。
メリッサさんも何かのわだかまりを感じていると思いたい。
ここはまずは俺が落ち着いてメリッサさんから話を聞き出そう。
そう思い直して俺は軽く深呼吸をしてから問い掛け直した。
「では、改めてその『苦情』と『提言』を詳しく聞かせて貰えますか?」
「はい、実はですね⋯」
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