25-14 再会と懐かしの宴
「「「「かんぱ~い!」」」
本日、3回目の乾杯な気がする。
幾分、酔いが回ったのか、陽気なシンシアの合図と共に、4人がエールの入ったジョッキを掲げた。
その勢いに釣られて、俺もジョッキを合わせたのだが、自分でやっておきながら、何に乾杯しているのだろうかと問いたくなってくる。
リリアとシンシア姉妹、それにロレンツの兄弟、そして俺を含めた5人での宴は、席替えをしたことでさらに加速した気がする。
俺は席を移動しなかったが、リリアとシンシア姉妹の希望を受けて、席替えが行われた。
俺のとなりにロレンツ兄が座り、その向こう側に弟が座った。
そしてリリアとシンシアの姉妹は、ロレンツ兄弟の向かい側に座ることになった。
「こうして4人で座ると、初等教室の頃を思い出すな(笑」
ロレンツ兄が懐かしむように微笑みながら言った。
「そうだね、こんな感じで座ってたよね(笑」
「「うんうん」」
シンシアが答えると、弟と妹が頷いている。
そうした4人の会話から、俺はこの4人が初等教室からの幼馴染みだと察した。
昔の仲間たちと再び集まることができて、4人は懐かしい思いが湧いているのだろう。
俺もシーラと再会できた時には、近い感情が湧いていた気がするな。
そして、兄弟姉妹の近況を語り合う会話から、彼等彼女は半年ぶりの再会だと伺い知れた。
半年前と言うと、このリアルデイルの街に俺が店を開く前の話で、今年の初め頃か?
その半年の間に、俺が店を開き、リリアが店を訪れ、ロレンツ兄弟も店を訪れたということだ。
この4人は、俺の店を訪れた際にでも、このリアルデイルで会うことも出来ただろうと思える。
だが、リリアとシンシアは西街道の先のサカキシルが拠点で、ロレンツ兄弟はリアルデイルから東方の街への護衛が主体では、そうやすやすと会う機会も得られないのだろう。
そして、4人が近況をかわす会話の中で、ロレンツ兄弟の名前がわかった。
兄が「ハンス」で、弟が「カール」だ。
父親に連れられて二人が店へ来た際に聞いていたのだろうが、俺は覚えていなかった。
なるほどと思ったのは、二人の父親のロレンツが騎士の爵位持ちで、フルネームを「ルドルフ・ロレンツ」と言うそうだ。
明日にでも売上帳簿を見直すか、サノスに聞いて確認しよう。
「そうそう、せっかく皆の顔を見れたから、話したいことがあるの」
そうした名前の知れる近況報告が一段落したところで、リリアがウィリアム叔父さんの公表資料を机の上に出して、そんなことを告げて来た。
「ハンス、もうこれを見てるよね」
「それなら、ギルドで貼り出されているのを見たよ。それに、親父が一部購入しているな」
リリアが公表資料を指差しながらハンスへ問い掛けたが、当のハンスはそう答えて俺へ視線を向けて来た。
リリアも当然のように俺へ視線を向けているのがわかるが、俺は二人には目線を合わせない。
これは俺から何かの反応を待っているのだろう。
うん、ここは素知らぬふりが正解だなと心の中で決めた。
「リリア、それはギルドで手に入れたのか?」
「そうよ。父さんと母さんに言われて買って来たの」
「冒険者ギルドで手に入れたなら、ニコラスさんに禁止だって言われなかったか?」
ん? 何が禁止なんだ?
「言われたわよ。この公表資料の件でイチノスさんに直接の質問をしちゃダメだって言われたわよ」
リリアの言葉で、俺からの願いが冒険者ギルドに理解されていることが知れた。
どうやら冒険者ギルドから各冒険者へ申し送りがされているようだ。
「やっぱりリリアもニコラスさんに言われたんだな(笑」
「けど、少しぐらいなら良いわよね~。イチノスさん」
リリアはハンスの問い掛けには応えず、豊満な胸元を強調する姿勢で俺へ向かって問い掛けてきた。
その仕草は何なんだ?
色香で俺を迷わせたいのか?(笑
それとも、少しぐらいなら大丈夫。
私なら大丈夫だと思っているのか?
「イチノスさん、ヴァスコやアベルが言ってたのはこれのことですよね」
あらあら、笑顔で問い掛けるハンスも、少しぐらいなら大丈夫と思っていないか?
何をどう話すべきか考えながら、俺はハンスに問い掛け直した。
「ハンスは久しぶりに戻って来たんだよな?」
「そうですね。今回は長かったんです。しかも途中、ランドルの商工会ギルドで親父が伝令を受け取って、そこで足留めですよ」
「じゃあ、その足留めされた時にダンジョンへ行ったのか?」
「なになに、ランドルのダンジョンの話がききたいのかな~」
陽気な声でカールが割り込んできた。
俺は「ランドルの」と言うハンスの言葉で思わず「ダンジョン」の話を返してしまったのだが、弟のカールが聞き耳を立てているとは思わなかった。
と言うか、少しカールの呂律が怪しいが、飲み過ぎじゃないのか?
「ほら、ダンジョンの話は私にするんでしょ」
シンシアがそう言ってカールを引き戻しながら、リリアに目線を送ると、リリアが軽く頷いた気がする。
まあ、兄弟と姉妹での連携の一つなんだろうと、その場は納得することにした。
「どうする? 俺から話せることは少ないけど?」
「ハイハイ、イチノスさん教えてください」
そう手を上げて来たのはリリアだ。
「リリアさん、どうぞ」
「『株式会社』って何ですか? 父と母から調べてこいと言われて困ってるんです」
リリアがそう問い掛けながら、公表資料の馬車軌道の敷設の頁を見せてきた。
「それは商工会ギルドへの質問だな」
どうやらリリアやその両親は、西街道に敷設される馬車軌道の件が気になるようだ。
確かに、西街道に馬車軌道が敷設されるとなれば、サカキシルとの定期便の護衛をするリリアは気になるだろう。
「イチノスさん、それって商工会ギルドで質問状を出すとか、問い合わせろってことですか?」
「すまないが、馬車軌道の敷設に関しては商工会ギルドが担当になってるだろ?」
俺は開かれた頁を指差しながら言葉を続けた。
「株式会社の仕組みだとか、詳しいことについては俺よりも商工会ギルドで話を聞いた方が良いと思うんだ」
「ま、まあ、そうですね⋯」
リリアはそう応えると、公表資料の馬車軌道の頁を見直した。
「イチノスからそういう話が出るのは、やっぱり相談役に就いたからかい?」
「ん?」
気が付けば、給仕頭の婆さんが俺達の長机の脇に立って問い掛けてきた。
「いや、関係無いんじゃないか?」
俺はそう答えたが、婆さんの表情には納得がいかないようなものを感じた。
「そうかい。どうする? エールのお代わりと串肉を焼くかい?」
「そうだな、夕食を⋯」
「夕食より串肉がおすすめだね」
婆さんの言葉に少し驚いた。
夕食より串肉?
どこか煮え切らない返事だな?
もしかして今日は夕食が無いのか?
「夕食がパン粥しか出せないんだよ」
「パン粥?」
「昨日イチノスが持って帰ったパンがあるだろ? あれにオークベーコンのスープをかけたのしか出せないんだよ」
その話を聞いて、俺は婆さんからもらい受けたパンが店に残っているのを思い出した。
「わかった。じゃあ、串肉とお代わりをくれるか」
そう告げて代金を出したところで、ハンスが公表資料の相談役就任の頁を見せながら聞いてきた。
「イチノスさん、このシーラ魔導師ってお知り合いですか?」
「そうそう、それも聞きたかったの。『シーラ』って女性の名前よね?」
ハンスの言葉に、リリアが乗っかって聞いてきた。
「シーラか? そうだな、魔法学校時代の同級生だよ」
「そう言えば、そんなことを言ってたね」
木札を机に置いた婆さんが割り込んできた。
「じゃあ、キャンディスさんと同い年ぐらい?」
「いや、もっと若い娘さんだよ。リリアやシンシアと同じぐらいじゃないか」
「「えっ?!」」
婆さんが答えると、リリアとハンスが驚きの声を出しながら俺へ視線を向けてきた。
何か変だな。
冒険者ギルドのキャンディスさんと、俺やシーラが同い年なわけがないだろ。
こいつらは何を考えてるんだ?
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