24-10 瓦礫を回収する?
「次は、イチノスさんからの依頼の話で良いかしら」
改めて応接に座して、タチアナさんの淹れてくれた紅茶を皆で味わったところで、キャンディスさんが口を開いた。
「イチノスさんからの用件は、古代遺跡の調査隊への依頼ですよね?」
「はい、そうですね」
俺の返事を聞いた途端に、カミラさんがペンを取り出し、用箋挟の紙を捲った。
それを真似るように、タチアナさんも束ねたメモ用紙とペンを取り出した。
「皆さんは、私が先月の古代遺跡調査隊に参加したことはご存じですよね?」
「はい、そう伺っております」
「イチノスさんを含めて4人で行かれた案件ですよね」
「うんうん」
カミラさんが応えて、タチアナさんが掘り下げ、キャンディスさんが頷く。
「実は、調査隊として古代遺跡へ行った際に、とある物を持ち帰ったんです」
「「えっ?」」
「!!!」
応接机を挟んだ対面に座るカミラさんとキャンディスさんが驚きの声を出し、俺の隣に座るタチアナさんが驚きの混ざった視線を向けてきた。
何でキャンディスさんとカミラさんが驚くんだ?
何でタチアナさんが俺を見ているんだ?
皆の驚きと視線は気になるが、話を続けよう。
「それでですね⋯」
「ちょ、ちょっと待ってください、イチノスさん」
話を続けようとする俺を、キャンディスさんが遮ってきた。
「もしかして、古代遺跡から何かを持って帰ったんですか?」
「えぇ、瓦礫を持って帰りましたけど?」
俺の言葉で、カミラさんとキャンディスさんが互いの顔を見合った。
何か変な感じだな。
俺は瓦礫を持って帰っただけだぞ。
「イチノスさん、古代遺跡から何かを持って帰った報告は受けていないですよ」
キャンディスさんが若干詰め寄ってくる。
確かに古代遺跡調査隊としての報告では、『黒っぽい石』を含んだ瓦礫を持ち帰った報告はしていない。
「イチノスさん、改めて確認しますが、古代遺跡から何かを持ち帰るのは禁止されているのはご存じですよね?」
今度はカミラさんだ。
俺が持ち帰ったのは、所詮は『黒っぽい石』を含んだ古代コンクリート製の瓦礫なんだが⋯
「いやいや、金銀財宝とかじゃあなくて、このぐらいの大きさの瓦礫を⋯」
「イチノスさん、例え瓦礫だとしても、古代遺跡から何かを持ち帰るのは禁止されてるんです」
手振りで説明する俺を、再びキャンディスさんが遮ってきた。
「うんうん」
「⋯⋯」
そしてカミラさんが頷くが、タチアナさんは黙ったままだ。
あの『黒っぽい石』に惹かれて、あの重たい瓦礫を背負って持って帰ったことが、そんなに問題視されることなのか?
たかが、古代コンクリート製の瓦礫だぞ?
まあ、『黒っぽい石』が含まれた瓦礫だが⋯
「キャンディスさん、それにカミラさん」
そう思った時に、それまで黙っていたタチアナさんが二人を制してきた。
「まずは、イチノスさんの話を詳しく聞きませんか?」
「そ、そうね⋯」
「そうですね⋯」
うん、タチアナさん、これは素晴らしい援護だぞ。
キャンディスさんとカミラさんの二人が、タチアナさんの制止で乗り出していた体を応接へ戻してくれた。
「ではイチノスさん、古代遺跡から持ち帰ったという瓦礫の様子を詳しく聞かせていただけますか?(ニッコリ」
タチアナさん、何で『ニッコリ』を添えた顔を見せてくるの?
◆
それから俺は、古代遺跡から持ち帰った瓦礫の説明を3人へしていった。
持ち帰った瓦礫の数や大きさ、そして重さを手振りを織り交ぜて説明していった。
もちろん、瓦礫を背負って藪漕ぎをした様子に絡め、その重さが伝わるように、そして何よりも苦労して持ち帰ったことが伝わるように説明をしていった。
ひととおりの説明を終えたところで、やおらキャンディスさんが立ち上がり、自身の執務机から束ねた紙を手に戻ってきた。
「イチノスさん、その持ち帰った瓦礫はどこで得たものかを正確に教えてもらえますか?」
そう告げながら、束ねた紙を捲っていき、俺へ向けて広げてきた。
その広げた頁には、古代遺跡の内部らしき絵図が描かれていた。
「キャンディスさん、これは?」
「それはウィリアム様への報告の際に使用した資料です」
「うんうん」
「⋯⋯」
キャンディスさんの答えに、カミラさんが頷いている。
一方、タチアナさんは相変わらず黙って皆の様子を眺めつつ、所々でペンを走らせている。
キャンディスさんに見せられた資料に描かれているのは、古代遺跡内部の様子をざっくりと描いた平面図だ。
そう言えば、調査隊から帰ってきてギルマスのベンジャミンへ報告した際に、ブライアンが古代遺跡内部の図を頼まれていたのを思い出した。
ブライアンは、こうした図を描くのがかなり上手いんだな。
そんなことを思いながら、持ち帰った瓦礫の出所が、奥の部屋に空いていたダンジョンの入口といえる穴の周辺だったことを伝えて行った。
そうこうして、キャンディスさんが見せてきた資料を織り交ぜて一連の説明を終えたところで、カミラさんが問い掛けてきた。
「イチノスさん、その持ち帰った瓦礫というのは、今はどちらにあるんですか?」
「今は私の書斎で保管していますよ」
こうした問い掛けになると、瓦礫に含まれていた『黒っぽい石』の説明を求められそうだ。
あの『黒っぽい石』の説明になると、かなり厄介だぞ。
俺が『黒っぽい石』に興味を抱いた、あの『何かを越える』感覚を3人へ伝えるのは難しいだろう。
現地でワイアットに試してもらったが、何も感じないと言っていた。
そんな俺以外は感じられなかった感覚を、俺からの言葉だけでキャンディスさんやカミラさん、それにタチアナさんに伝えられるとは思えない。
そうしたことを思いながら、俺は応接机に置かれた古代遺跡の平面図に心が惹かれて行く。
(これはやっぱり⋯)
(そうね、物を持って⋯)
(今日中に報告を⋯)
(これから⋯)
(早めにしないと⋯)
キャンディスさんとカミラさん、それにタチアナさんの三人がボソボソ声で会話を始めてしまった。
はっきりと口にせず、小声での会話なので、ギルド内部の話で俺が口出しする話じゃあないだろう。
それよりも、この平面図だ。
丸い大広間とその奥に丸い部屋か⋯
何だろう?
不思議なことに、この平面図には何かの引っ掛かりのような魅力のような既視感のような何かを感じるな。
確かに、古代遺跡の中はこの平面図な感じだったのだが⋯
う~ん 何でこの平面図が気になるんだろう?
「イチノスさん」
「⋯ はい?」
「その持ち帰った瓦礫を、今日これからか明日中に回収することは可能ですか」
平面図に魅せられていた俺は、カミラさんに生返事をしてしまった。
今カミラさんは、回収するとかそんなことを口にしたよな?
「何でしょう? すいませんが、もう一度お願いします」
「持ち帰られた瓦礫が、まだイチノスさんのご自宅で保管されているのなら、今日これからか明日の朝、もしくは明日の夕刻までに回収することは可能ですか」
回収する?
カミラさんは何を言い出すんだ?
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