24-11 イチノスの言い訳


 イチノスが言い訳のために饒舌になります。

 時に不愉快に感じられる方がいらっしゃるかもしれません。

 覚悟して読んでください(謎


───


「持ち帰られた瓦礫が、まだイチノスさんのご自宅で保管されているのなら、今日これからか明日の朝、もしくは明日の夕刻までに回収することは可能ですか」


 回収する?

 カミラさんは何を言い出すんだ?


 既に持ち帰った瓦礫は跡形もなくなって『黒っぽい石』と砂化で得られた砂しか残っていないぞ。


 紙袋に入れた砂と『黒っぽい石』の二つを回収すると言うのか?


 う~ん⋯ これは抗うしかないな。


「ちょっと待ってください。あの瓦礫を回収すると言いますが、回収してどうするんですか?」


「もちろん、ウィリアム様へ報告する際にお見せするんです。前回の冒険者ギルドからの報告では、イチノスさんが瓦礫を持ち帰った件が漏れていたことを伝えて⋯」


 キャンディスさんが身を乗り出し、少しきつめの口調と早口で告げてくるが、俺はそれを手で制して応えた。


「キャンディスさん、ウィリアム様へお見せしてどうするんですか? 説明をしてどうするんですか?」


「!!」

「?!」


 キャンディスさんが驚きを顔に見せて言葉を止めたが、隣に座るカミラさんが引き継ぐように口を開いた。


「ですから、キャンディスさんが言わんとしているのは、前回の調査隊としてイチノスさんが瓦礫を持って帰ったこと、それが冒険者ギルドの報告に漏れていたことをウィリアム様へ説明するのに⋯」


 カミラさんの説明は所詮はキャンディスさんの考えをなぞるだけだ。

 そんなカミラさんの言葉も、俺は手で制して自分の考えを伝えて行った。


「お二人の考えはわかりました。ですが、ウィリアム様にとっては随分と迷惑な話ですね」


「「!!」」


 俺の言葉で、キャンディスさんとカミラさんが目を見開いて固まった。


「たかが瓦礫ですよ? この奥の部屋の床に落ちていた瓦礫ですよ? そんな瓦礫をウィリアム様は見せられて『持ち帰っていました』『報告が漏れていました』『それがこの瓦礫です』⋯ そんな事を伝えられるんですか? その為にウィリアム様に時間を割いてもらうのですか?」


「「⋯⋯」」


 固まったままのキャンディスさんとカミラさんは、俺へ返す言葉でも考えているのだろうか?


「何のために『報告が漏れていた』事をウィリアム様へ伝えるんですか? その報告の先に何かの目的があるからですよね?」


「「⋯⋯」」


「キャンディスさんとカミラさんは、報告が漏れていた点をウィリアム様へ伝えることで、得られるであろう何らかの期待があるのではありませんか?」


「「⋯⋯」」


「ウィリアム様へ報告することで、その期待する何かを得ようと思っていませんか? もしくは、得たいと思っているんですよね?」


「「⋯⋯」」


「たかが瓦礫を見せられて、報告が漏れていたと告げられても、ウィリアム様は返事に困るだけですよ」


「それは⋯ まあ⋯」

「確かに⋯」


 良い感じだ。キャンディスさんとカミラさんの思考が、俺の言葉に追い付いてきたぞ。


「そこで私から提案です」


「「提案?」」


「私は近日中というか今週中に領主別邸へ顔を出すように、フェリス様から召喚を受けています」


「「⋯⋯」」

「あぁ⋯」


 キャンディスさんとカミラさんは押し黙ったままだが、タチアナさんが何か言いたげに言葉を漏らした。


 俺はタチアナさんへ向き直り言葉を続けた。


「タチアナさん、先ほどの領主別邸のコンラッド殿への伝令はフェリス様からの召喚に応えるための物です」


「なるほど。そのための伝令だったんですね」


 タチアナさんの答えを聞いて、俺は改めてキャンディスさんとカミラさんへ向き直って話を続けて行く。


「私が勝手に古代遺跡から瓦礫を持ち帰っていた。そのことがウィリアム様への報告から漏れていたという点については、私が領主別邸へ出向いた際に、私自身からウィリアム様へ報告をしましょう」


「「⋯⋯」」


「もちろん、その際には冒険者ギルドからの報告で漏れていた点については、私が原因であることを伝えましょう」


「「⋯⋯」」


「そして報告から漏れていた点について、冒険者ギルドには何らの非が無いこともウィリアム様へ伝えましょう」


「「⋯⋯」」


「勝手に瓦礫を持って帰ったのは私が負うべき責です。冒険者ギルドへ瓦礫を持ち帰ったその事を報告しなかったのも、私が負うべき責です」


「「⋯⋯」」


「更にはギルマスへの報告で、私が瓦礫を持ち帰った事を伝えなかったのも、これらの全てが私の勝手な判断でしたことですから、責めを追うべきは私個人です」


「「⋯⋯」」


「従って冒険者ギルドからウィリアム様への報告に漏れがあった。それが過失だと問われたとしても、それは見当違いな話です。冒険者ギルドが故意に報告を漏らしたわけではないんです」


「「⋯⋯⋯」」


「だってそうでしょ? 冒険者ギルドとしては、聞いていないことをウィリアム様への報告に載せるのは『無理難題(むりなんだい)』ですよね?」


「「⋯⋯⋯」」


 俺は敢えて『無理難題(むりなんだい)』という言葉を使った。


 この言葉は、契約書を預かる際に添えた言葉だ。

 キャンディスさんとカミラさんは気が付くよな?


「それに例えばですが、あの古代遺跡から帰還してからのギルマスへの報告で『何かを持ち帰ったか?』とギルマスが問われたとしても、私は瓦礫を持ち帰った事は報告をしなかったでしょう」


「「⋯⋯⋯」」


「だって、持ち帰ったのは金銀財宝ではなく、床に落ちていた瓦礫ですよ」


「まあ⋯」

「そうですね⋯」


 そこまで言葉を連ねて、ようやくキャンディスさんとカミラさんが返事を返してきた。


「もしも私が勝手に持ち帰ったのが金銀財宝であったならば、私は窃盗の罪で問われるかもしれません」


「「!!」」


「けれども私が持ち帰ったのは、この奥の部屋の床に落ちていた瓦礫ですよ?」


 応接机に広げられた平面図を指差して言葉を続けて行く。


「床に落ちていた瓦礫を持ち帰って窃盗と問うのは誰ですか? ウィリアム様ですか?」


「「⋯⋯」」


「それとも冒険者ギルドですか? それともウィリアム様に仕える文官の方の誰かですか?」


 そこまで伝えて俺がカミラさんの目を見詰めると、考えるような仕草で目線を逸らされた。


「話を戻しますね。もしも床に落ちていたのが金銀財宝ならば、さすがに私でもギルマスに報告しています」


「「⋯⋯」」


「持って帰ったのは瓦礫なんです。ですから、冒険者ギルドにもギルマスにも誰にも非はないんです」


 そこまで話して俺が言葉を止めると、執務室が静寂に支配された。


 そんな静寂を破ったのは、タチアナさんだった。


「イチノスさん、話を戻しますが、調査隊への依頼というのは何ですか?」


 おっと、タチアナさんが上手い具合に本題に戻してくれたぞ。


「あぁ、それですね。調査隊へお願いしたい依頼というのは⋯」


 そこまで口にして、俺は視線を感じて言葉を止めた。


 視線の主は、キャンディスさんとカミラさんだった。

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