23-13 シーラと大事なお話し
馬車の動きに落ち着きが戻り、外の景色も南北を走る大通りの景色へと切り替わった。
南町の市場の側にある製氷業者の氷室へと向かう貸出馬車の個室の中で、俺は冒険者ギルドでの話をシーラに振ってみた。
「シーラ、昼前に冒険者ギルドでキャンディスさんから聞いたんだが、相談役の業務内容と待遇に合意したんだって?」
「そうだ。イチノス君に伝え忘れてた。昨日話した『月に6回のギルドへの顔出しで月に金貨15枚』、これで問題ありませんってキャンディスさんに伝えたよ」
「そうか。実は俺もその内容で良いと返事をしてきたよ」
「待遇の金貨15枚を半分にすると金貨7枚と半分だけど、イチノス君は大丈夫だよね?」
ん? 月々の収入という面で言えば、俺の心配よりはシーラの方が受け入れられるかどうかだったよな?
まあ、シーラが良いと言うのならば、俺から何か言う必要もないな。
「俺は問題ないぞ。何だったらシーラが多めに取っても良いぞ。但し、俺はギルドへ行く回数を減らすけどな(笑」
「フフフ。それは毎月末にでも、相談役として何件に解答したかで話し合いにする?(笑」
「そうだな。それが良いな(笑」
良い感じだな。
金銭に関わることで、こうしてシーラと気さくに話ができるのはありがたいことだ。
そうした話ができるシーラとは、きちんと意見や考えを擦り合わせて置くべきだな。
「それと、シーラと意見を合わせておきたい大事なことがあるんだが、聞いてくれるか?」
「ん? なに?」
「相談役の業務の範囲は、あくまでも相談役に限定したいんだ」
「??」
何の事だと言わん顔をシーラが見せて来た。ちょっと言葉が足りなかったな。
「相談事を実際に解決するのに、魔法を行使したり、魔法円を提供する場合があるよな? そうした魔導師としての労力は別料金にしたいんだよ」
「あぁ、なるほどね。それは私も同じ意見だよ。相談すれば解決してくれるとか、私達がやってくれると勘違いされると困るよね」
ますます良い感じだ。シーラも俺と同じ考えをしてくれているようだ。
「俺が考える魔法技術支援相談役の業務は、あくまでも相談役として相談事を聞いて解決策を示すことだと考えているんだ」
「うんうん」
「その解決策は、多分だが、さっきも言ったように魔法の行使になるだろうし、場合によっては魔法円を描いて提供することもあるだろう」
「うん、あり得るよね」
「けれども、そうした魔法の行使や魔法円の提供はあくまでも別料金にしたいんだよ」
「うん。イチノス君の言いたいこと、わかるよ」
「そうした線引きをしないと、月に金貨15枚で、何でもかんでもやらされそうだろ?」
「うんうん」
シーラも頷いている。これなら大丈夫そうだ。
「魔法技術支援の相談役としては、相談事へ魔導師としての知識で解決策を答えるまで。実際に実行するのは別料金、そんな感じだな」
「うん、私もイチノス君の考えと同じだよ」
シーラも俺と同じ考えを持っていると口にしてくれた。
それでも俺は、更に念押しをするように今日これからのことを例に話を続けた。
「今日これから観に行く、製氷業者の氷室の魔道具だか魔法円も同じだろ?」
「うん。実際に魔道具や魔法円を修理するまでは、今回の指名依頼には入っていないからね。今日はあくまでも観に行くだけ」
ここまでシーラと意見や考えが合っているなら、昨日の草案について感じたことも伝わるだろうか?
「少し話を戻すが、昨日の草案だと、
〉魔法技術支援相談役への
〉相談事項が完遂された場合とする
と書かれてただろ?」
「あぁ、あれね」
「『完遂』の言葉の範囲が広すぎるし、『完遂』の定義が曖昧だったと、シーラは思わないか?」
「そうよね、私も寝る前に考えたけど、こうしてイチノス君に改めて言われると、私もそこが気になっていたのに気付くね」
どうやらシーラも俺と同じ事を感じていたようだ。
これなら実際にギルドから契約の書類が来ても、シーラと同じ視点で判断が出来そうだな。
「だから、そうした契約書がギルドから来ないことを祈る感じなんだよ(笑」
「そうだね。じゃあ、ギルドから契約書が届いたら、私もそうした目線で読んどく」
「もしも気になる点があれば、またこうして一緒に考えないか?」
「そうだね、その時にはお店で話をする?」
なんかシーラが店に来たがっている言葉に聞こえるのは、気のせいだよな?
俺としては店で話をするのは避けたいな。
サノスやロザンナに聞かせるには、まだ早い気もする。
それに、今度はあの『完遂』という言葉を付けて条件を差し込もうとした者へ釘を刺す意味でも、関係者の同席が良い感じがする。
「いや、キャンディさんやメリッサさん、それに文官を交えた場で、今度はハッキリとこちらの姿勢や考えを伝えた方が良いと俺は思うんだ」
「うん、わかった。それにしても、誰があの条件を付けたんだろうね?」
シーラが再び犯人捜しの意見を出してきたな。
「シーラはその付近が気になるか?」
「気になるというか、ああして私やイチノス君に条件を付けると、誰が得をするのかが気になるかな?」
「確かに、そうした部分に犯人が見え隠れするよな(笑」
「イチノス君もそう思う?」
「まあ、犯人捜しを本気でするなら、文官のカミラさんやレオナさんに個別に問い掛ければ炙り出せると思うんだ」
「もしかして、イチノス君は文官の誰かだと思ってるの? カミラさんやレオナさんとか?」
「いや、俺はあの二人は違う気がする」
「じゃあ、やっぱりメリッサさん? 商工会ギルドとしての草案とか言ってたよね?」
なんだろう、シーラの犯人捜しへの意欲が強い気がする。
興味本位からなのだろうか?
俺の考える可能性を答えるのは簡単だが、そのことでシーラに思い込みが生じるのも怖いな。
「イチノス君は、犯人捜しをする気は無いの?」
俺がシーラの考えを思案しているのを察したのか、シーラが突っ込んできた。
「今は無いな」
「今は無い?」
俺は敢えて犯人捜しの話から遠ざける返事をした。
「今回の件、あの草案の件で素直に犯人が手を引けば、それでよいと思わないか?」
「まあそうだね」
「次に契約書を揃えたところで、似たことをしてきたら、その時点で犯人捜しになるかもな?」
「なるほどね~」
「シーラはどうなんだ?」
「どうなんだ? 何が?」
「あの草案には漠然と納得できない感じか?」
「それもあるけど⋯ う~ん⋯ 何て言えばよいかな⋯ こっちを下に見ている感じがするのが気になるかな?」
「なるほどな、それは俺もあるな」
「同じ国家事業に関わる仲間なのに、上下関係を作りたがる感じがするよね?」
「そうだな、確かにそうした感じがするな」
「そうした考えが、なんか気になるんだよね~」
そこまでシーラと話して、ふと、シーラの経験が気になった。
「シーラは文官との交渉は経験はあるか?」
プルプル。
シーラが首をふる。
「イチノス君はあるの?」
「それなりにあるな。研究所時代にあるし辞める時にも、散々、文官とやりあったんだよ」
「へぇ~」
そうした話をしていると、馬車の速度が明らかに落ちてきた。
そろそろ南町の氷室へ着いたのかと、外の景色に目をやると、既に南町市場を抜けて外周通りへ出ていた。
もう直ぐに製氷業者の氷室だなと思っていると、複数人の街兵士が立っているのが見えた。
俺の記憶では、南町の氷室近辺で街兵士を見掛けた記憶が無い。
むしろ歓楽街の南町が近いことから、それなりの風貌をした連中の方が多かった気がする。
何だろう?
何かあったのだろうか?
馬車が止まると、二人の街兵士が駆け寄ってきた。
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