22-6 何でそんなことが知りたいんだ?
冒険者ギルドへのお使いと昼食の買い物からサノスが戻り、ロザンナを含めた3人で早目の昼食となった。
その後、食後のお茶の時間になり、サノスがシーラの名を口にし、俺の同級生かと問いかけて来た。
その話にロザンナも加わり、シーラの容姿について尋ね始め、ますますシーラについて二人へ話すしかない状況へ俺は追い込まれた。
チュンチュン。
店の外から聞こえる鳥の鳴き声が、穏やかな静寂をもたらしている。
うん、この静寂が俺の心の動揺を静めて行くな。
それに、トリッパの後の御茶は格別な美味さで、これも俺の心を落ち着かせてくれるな。
静寂な中での食後のお茶の余韻を破ったのは俺だった。
「それで、サノスとロザンナはシーラの何を知りたいんだ?」
「はい! 師匠はシーラさんとは魔法学校で同級生だったんですか?」
俺の返事を聞いた途端に、意気揚々と手を上げたサノスが聞いて来た。
そんなサノスの隣では少し嬉しそう⋯
いや、違うな。ロザンナの顔は興味本位な顔だな。
うん、サノスも似たような顔だ。
「サノス、何でそんなことが知りたいんだ?」
「「えっ?!」」
おいおい、どうしてそこで二人で顔を見合わせるんだ?
そういえば、どうしてロザンナはシーラを⋯
「そうか、シーラがローズマリー先生の治療を受けに行った際に、ロザンナはシーラを見掛けてるんだな?」
「こくこく」
「じゃあ、サノスはどうなんだ? サノスはシーラと会ったのか?」
「はい、ギルドからここまで馬車に乗せてもらいました」
「馬車?」
あぁ、さっきの馬車が停まったのは俺の勘違いじゃなかったんだ。
「ギルドで鑑定結果をタチアナさんからもらって、食堂へ行ったんです」
「「うんうん」」
「そしたら食堂でキャンディスさんから、シーラさんを紹介されたんです」
「食堂で?」
「えぇ、キャンディスさんとシーラさんが早目の昼食を食べてました」
いやいや、そんなことはどうでも良いから、どうしてサノスが馬車に乗ったんだ?
「そしたら、食事が終わったら東町のどこかと商工会ギルドへ行くから、送って行くって言われて、馬車に乗せてもらったんです」
「じゃあ、サノスは馬車で帰ってきたのか?」
「はい⋯ ダメでしたか⋯」
「いや、サノスは悪くないぞ」
そうか、キャンディスが、シーラをサノスに紹介したのか。
ここまで、サノスを責める部分は、どこにも見当たらない。
むしろ、サノスも俺も、お礼を言う立場だ。
特にサノスをお使いに出した俺からは、キャンディスとシーラにお礼を伝えるべきだな。
それにしても、サノスとロザンナは、どうしてシーラに興味があるんだ?
もしかして、女性魔導師という点に二人は興味があるのか?
まあ、二人が面識のある魔導師は俺だけだから、興味を持つのも致し方ない。
将来、魔導師を目指すサノスには、女性同士ということで気にもなるのだろう。
ふとロザンナを見れば、サノスの話の続きを待っている感じだ。
ロザンナも同じか⋯
「わかった、機会があれば正式にシーラを紹介するよ」
「えっ?」
「良いんですか?」
「あぁ、別に問題ないぞ」
そこまで言って、時計を見ると12時を回っていた。
「すまんな、そろそろ着替えて商工会ギルドへ行く時間だ」
「あっ!」
「もう、こんな時間」
「すまんが、後は頼むな」
俺は、二人へ言い残すように伝えて席を立ち、着替えのために2階の寝室へ向かった。
俺は後片付けを二人に任せて、商工会ギルドでの打合せに向けて、2階の寝室で着替え始めた。
外出着に着替えようとして、少し迷う。
今日の商工会ギルドでの打合せは、相談役に就任した魔導師として参加するから、魔導師としての正装が正解なのか?
いや、今日の打合せで、そこまで装いにこだわる必要も無い気がするな。
サノスに聞けば良かったのか?
シーラがどんな衣装で、商工会ギルドへ向かったのか、サノスに聞けば良かったのか?
いやいや、ここは、相談役に就いた俺の考えを示すべきだな。
今後の魔法技術支援相談役として、俺がどの様に臨む考えかを知らせるためにも、衣装には気遣うべきだ。
そこで俺が選んだのは、普段の外出での装いだ。
しかし、衣替えを迎えた季節を考えて、半袖のシャツを選んだ。
カーテンを通して昼の光が差し込む中、俺は着替えを終えて書斎へと足を運んだ。
忘れずにサノスから渡された教本『初歩の回復魔法』を手に取り、書斎の鍵をしっかりと掛けた。
階下に降りると、作業場ではロザンナが集中して魔法円を描いており、サノスは静かに何かの本を読み耽っていた。
近づいてみると、サノスの読んでいるその本もまた『初歩の回復魔法』だった。
「サノス、借りてた本だ」
「は、はい」
慌てて俺からの本を受け取るサノスは、この後も教本に没頭するのだろう。
壁に掛けた外出用のカバンを手に取り、「じゃあ行ってくるな」と言い残して店舗へと向かった。
店のドアを閉める際、サノスとロザンナからの『いってらっしゃ~い』という声が聞こえた。
カランコロンと音を立てながらドアを閉め、外に出ると、俺はそのまま向かいの立番をしている女性街兵士の元へと歩を進める。
二人の女性街兵士に軽く敬礼をし、今日この後は不在になること、そして商工会ギルドへ向かうことを告げた。
それから俺の足は目的の商工会ギルドへと向かった。
◆
現在、魔導師のイチノスは、商工会ギルドの入り口に佇んでおります。
商工会ギルドへ足を運ぶのは、今週に入ってから3度目か?
なんだかんだで、一日おきに足を運んでいる気がする。
そう思いながら、ゆっくりと商工会ギルドの中に入ると、受付カウンターには、鮮やかな色合のベストを着た商人や商店主らしき人々が受付に列をなしていた。
月初の納税は5日までだから、まだ慌ただしさは過ぎ去っていないようだ。
軽くホール内を見渡して、特設掲示板があるかを確かめるが見当たらない。
冒険者ギルドと同じく、ウィリアム叔父さんの公表資料への質問状を貼り出すかと思ったが、どうやら商工会ギルドは、冒険者ギルドとは別の方法を取っているようだ。
受付カウンター奥の時計へ目をやれば、間も無く1時になろうとしている。
無事に約束の時間に間に合ったようだ。
「イチノスさ~ん」
俺の名を呼ぶ主を探せば、メリッサが受付カウンターの中から手振りで合図をしていた。
どうやら受付カウンター脇のスイングドアから入るように、伝えたいようだ。
「こんにちは、メリッサさん」
「イチノスさん、お疲れ様です」
互いに挨拶を交わし、頭を下げ、軽いうなずきで応じ合う。
メリッサの案内に続いて、衝立で作られた通路を進んで行くと、階段の前で足を止めたメリッサが告げてきた。
「今日は、2階の大会議室へ案内させていただきます」
そう告げたメリッサに続いて階段を昇ろうとして、思わず彼女の腰から臀部へ流れる曲線へ目が行ってしまった。
その優雅な曲線は相変わらず整っている感じだ。
これは、商工会ギルドの制服がなせる技なのか、それともメリッサの持つ素質なのか⋯
だが、俺としてはもう少し豊かな造形が好みだな。
おっと、今日はそうした鑑賞をしに商工会ギルドへ来たわけではない。
これから待ち受けるのは、魔法技術支援相談役としての重要な打ち合わせなのだ。
相談役としての業務内容や報酬の調整が、今回の焦点であり、俺は心を引き締めて駆け引きに備える必要がある。
実り豊かな仕事にするためには、慎重で巧妙な交渉が欠かせないのだ。
「イチノスさん、こちらです」
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