22-4 指導教育する側の適性
回復魔法の教本である『初歩の回復魔法』を読みながら考えた。
今の俺には、サノスとロザンナを指導する教育者としての適性が、あるのだろうか?
考えはするが、考えても解決しない問題だと割り切って、考えるのをやめた。
そもそも俺は、教育者のあり方など、今の今まで微塵も気にしたことがない。
そこでその付近を知っていそうなのは誰だろうかと、考えを切り替えた。
ローズマリー先生、イルデパン?
先生は魔法学校で教壇に立っていたし、イルデパンは騎士学校で教えていたと聞く。
他には⋯
ワイアットやブライアンのような、冒険者達はどうなんだろう?
ローズマリー先生やイルデパンのように、教師と生徒のような関係よりは、俺とサノスのような師弟関係に近いのは、ベテラン冒険者と新人冒険者の関係な気がする。
新人冒険者への接し方や、面倒をみている様子を見聞きする限り、冒険者たちはどちらかと言うと実践で教えているよな?
ワイアットやブライアンは、どんな気持ちや考え方で新人冒険者を教えているのだろう?
俺自身が教育者としての適性を有しているかも気にはなるが、そうした教育指導する側は、どんな想いを抱いて指導しているのだろう。
ワイアットに少し話を聞いてみるかとも考えたが、ワイアットの娘であるサノスの教育指導について話すのは、話し辛いな。
同じように、ロザンナの教育指導だと、イルデパンやローズマリー先生には話し辛い。
他に思い付くのは、コンラッドとアイザックだろうか?
コンラッドが、どんな想いを抱いてアイザックを教育指導しているかは、気になるところだ。
そういえば、魔法学校時代に三者面談というのがあったな。
親と教師と生徒の3者で行われる面談だった。
それに、保護者面談もあったな⋯
どちらの面談でも、母(フェリス)が面談へ参加することに、男教師と校長が鼻の下を伸ばしていた記憶がある。
笑えたのは、母(フェリス)の代役でコンラッドやエルミアが来た際、男教師も校長も残念そうな顔をしていたな(笑
まあ何れにせよ、そんな感じで、ロザンナの保護者であるローズマリー先生とイルデパン、それにサノスの保護者であるオリビアさんやワイアットと、少し話す機会を作った方が良いかもしれない。
そこで話し合う事で、俺に求められること、教育者としての俺に期待されている事を聞き出せる気もしてきた。
そうして聞き出せた事で、俺の教育者としての適性を考え直そう。
それに何より、サノスとロザンナが回復魔法を独学で学ぼうとしている件も、保護者である4人には伝える必要があると思える。
教本を読み返し、少し気持ちを切り替えたところで、自身の回復魔法との関わりを思い返した。
俺の回復魔法との関わりは、魔法学校へ放り込まれる以前の幼少期まで遡る。
俺は幼い頃に、母(フェリス)の巧みな褒め言葉に動かされて、多数の空に近い魔石から魔素を集め、一つの魔石へ魔素を充填する作業をこなした。
そして俺は、この作業で魔素の扱いを身に付け、その代償のように軽度の魔力切れを幾度となく経験した。
幼い俺は、母の褒め言葉が欲しくて、何度も魔素充填に挑戦して、軽い魔力切れを何度も経験したのだ。
そして、軽い魔力切れを起こす都度、母(フェリス)は俺に『回復のおまじない』を施してくれた。
あの時の母(フェリス)は『回復のおまじない』と言っていたし、俺はそれが母(フェリス)からの愛情だと思っていた。
そんな俺が魔法学校へ放り込まれ、この教本で学んだことで母からの『回復のおまじない』の正体を知った。
『回復のおまじない』が回復魔法だったことを理解したのだ。
いかんな回復魔法の思い出を振り返ると、どうしてもそうした事を思い出してしまう。
そんな回復魔法だが、今の俺の目的である自分の持っている回復魔法の認識に誤りが無いことは、教本を読み直して確認が出来た。
そのまま来月のポーション作りを見据えて、『魔法円』の作成まで実行する事を考えたが、その大きさで少し悩んでしまう。
俺が使うポーション鍋を意識すると、この書斎に置いている魔法円を描くための石板では、明らかに小さいのだ。
古代遺跡への調査で持って行った『湯沸かしの魔法円』は、携帯用で小さいが為に、小鍋を乗せるだけで魔素注入口が塞がってしまった事を思い出したのだ。
さて、どうするか?
携帯用の魔法円の大きさで『回復魔法の魔法円』を描いて使えるのだろうか?
実際にサノスとロザンナも使うことを想定するならば、携帯用とは違って、ポーション鍋を乗せて使うのが適切だろう。
やはり、作業場に置いてある大きめの石板か木板に『回復魔法の魔法円』を描くべきだろうか?
待てよ。
『回復魔法の魔法円』を描いたとして、来月のポーション作りでサノスとロザンナに使わせて良いのだろうか?
回復魔法を独学で学んで、ポーション作りに挑もうとしているサノスとロザンナに、『回復魔法の魔法円』を使わせるのか?
う~ん⋯
それなら、俺が『回復魔法の魔法円』を使って、3時間毎にポーション作りで使うのか?
う~ん⋯
止めよう。
サノスとロザンナがきちんと回復魔法を学び終えるまで、『回復魔法の魔法円』を描くのは止めよう。
そして、二人が回復魔法を学び終えるまで、ポーション作りに参加してもらうのは諦めよう。
その方が、二人の回復魔法への学びには良い気がしてきた。
来月のポーション作りは、またしても俺が3時間毎に回復魔法を施すしかないな。
ここで、俺が『魔法円』で回復魔法を施せる事をサノスとロザンナに知らせてしまうと、二人の回復魔法を学ぶ意欲に影響を与える気がしたのだ。
そこまで考えて、俺は気分転換を兼ねて書斎の窓を開けて空気の入れ換えをすることにした。
チュンチュン
開けた途端に、外で鳴く鳥のざわめきが良く聞こえ、窓から入る風は実に心地好い。
何だろう、物凄く静かで聞こえるのは鳥の鳴き声だけだ。
こんなにも静かで穏やかな午前中もあるんだな。
階下からの足音も聞こえないのは、ロザンナが魔法円を描くのに集中しているからだろう。
そもそもロザンナは、サノスと違って騒がしくないからというのもあるんだろうな。
この後、サノスが戻ってきたら、また賑やかになるのだろう(笑
それにしても、こうまで静かだと少し眠くなるな。
ポーション作りで崩れた睡眠時間、その余波でもあるのだろうか?
椅子に体を預けて、目を瞑ると、このまま寝てしまいそうだ。
まあ、今日は昼からしか俺の用事は無いから、軽く寝るのもありかな?
ガラガラ ガラガラ
椅子の背凭れに身体を預けて目を瞑って少し微睡んでいると、馬車の音で目が覚めた。
ガラガラ⋯
ん?
店の前で馬車が止まったような感じがする。
(********ました)
(******に*ろし**)
何やら人の話し声も聞こえる。
俺は来客の可能性を考え、急ぎ書斎の窓を閉めカーテンを掛けた。
馬車で来るような客だと考えると、幾分、鬱陶しい気もするが、先触れが来ていないから大丈夫だろう。
そう思いながら直ぐに書斎を出て、忘れずに扉の魔法鍵へ魔素を流す。
ガチン
書斎の扉が閉まったのを確認して、階下へ降りようとすると、来客を知らせる鐘が鳴った。
(カランコロン)
「は~い、いらっしゃいませ~」
ロザンナの条件反射な声が聞こえ、俺の勘が当たったことを知らせてきた。
さて、どんな来客だろうかと思いながら、俺はたまった尿意を済ませて作業場へと向かった。
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