21-4 ポーションの鑑定依頼
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西方 魔の森 古代遺跡
探索活動全面禁止
麦刈り後に解禁予定
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サノスとロザンナが言っていたとおりに、古代遺跡の探索は暫くは禁止か⋯
ギルマスのベンジャミンは、ウィリアム叔父さんから冒険者達への開放の確約を取っていたはずだが、ダンジョンの発見で開放条件が変わったのだろう。
それにしても、この並び方に作為を感じるのは俺だけだろうか?
そんなことを思いながら、特設掲示板へ目を移す。
特設掲示板は大きく左右に2枚で、左右の両方が3段に仕切られて枠が作られている。
左側の掲示板に3つの枠、右側の掲示板にも3つの枠で計6枠だ。
そして、そウィリアム叔父さんの公表資料が、それぞれの枠の左上に貼られていた。
自然と、左側の一番上の枠へと目が行くと⋯
●1.国王からの勅令
街道整備
西方ジェイク領への街道整備
南方ストークス領への街道整備
王都からの開拓団の受け入れ
担当 商工会ギルドと冒険者ギルド
その公表資料の下には、何枚かの紙が貼られているのが目に付いた。
俺はその何枚か貼られている紙の1枚を読んでみた。
問.リアルデイルへ開拓団が到着するのはいつですか?
答.到着時期については、開拓団へ問い合わせてください
これは質問状と、その質問への回答だな。
隣の質問状を見ると、
問.開拓団は何人で来ますか?
答.開拓団の規模については、開拓団へ問い合わせてください
なるほど、公表資料の頁(ページ)に合わせて受け付けた質問状を振り分け、その回答を貼り出しているんだな。
その質問への回答を読んでいて、笑えると言うか、冒険者ギルドとしても、そうした回答しか出来ない事が書かれているのが興味深い。
他の質問状にも目を通してみたが、明らかに冒険者ギルドへ問い合わせても、答えは得られないだろう質問が多過ぎるな。
まるでそうした質問状を『悪い質問』の例として、ここに貼り出して晒しているようにも思えてきたぞ(笑
「イチノスさん、気になる?」
突然、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
慌てて振り返れば、先程まで受付カウンターに座っていたオバサン職員が立っていた。
「いえ、気になると言うよりは『皆が知りたいことは似ている』、そんな感じですね(笑」
「そうよね、ニコラスが受付を頑張ってたけど、『同じ質問ばかりだ』って愚痴ってたわね。最後には疲れ切って溜め息が多かったわよ~」
オバサン職員の言葉から、ニコラスの苦労が伺い知れる。
質問されても、答えられない問い合わせが延々と続くと、人は多大なストレスから疲労を感じて行く。
ニコラスが受け付けていたならば、その疲れは相当な物だと言えるだろう。
何せ、ニコラスは冒険者ギルドの職員として質問状を受付て、それに回答して行く立場に立たされたのだ。
逃げたくても、逃げることが出来ない。
逃げたくても、逃げ道がどこにもないのだ。
つくづく、そんなのに巻き込まれなくて良かったと思えてきたぞ(笑
俺は心の中で精一杯に言葉を選んで、オバサン職員へ問い掛けて行く。
「お姉さんは、まだ残ってるんですか?」
彼女は、誰から見ても年配の女性だ。
俺が『お姉さん』と呼んでも、問題は無いよな?
今日この場では、このオバサン職員(お姉さん)しかギルドの受付にいないから、ポーションの鑑定を依頼するのに変にヘソを曲げられたくない。
社交辞令も交えて、この呼び方が最良だろう。
「えっ⋯ そ、そうなのよぉ~ まだ一組来てなくて、私だけが居残りになっちゃたの~ それより、イチノスさんの、今日のご用件は?」
嬉しそうな顔を見せて、オバサン職員(お姉さん)が聞いてくる。
どうやら俺の選んだ呼び方を気に入ってくれたようだ。
「ポーションの鑑定依頼で来たんですよ」
「あら? そうね。毎月来るイチノスさんが、まだ来てなかったわよね。カウンターで受け付けるわよ」
そう言って、いそいそとオバサン職員(お姉さん)が、俺を受付カウンターへ案内してくれた。
受付カウンターで、出された書類へ記入して、出来上がったばかりのポーションをオバサン職員(お姉さん)へ渡す。
始終、オバサン職員(お姉さん)は笑顔で応対してくれた。
やはり丁寧な言葉を選んで使うのは大切なことだな(笑
そうこうして、俺が冒険者ギルドを訪れた目的である、ポーションの鑑定依頼は滞りなく終わった。
ポーションの鑑定結果は明日の昼前に出ると知らされたので、サノスかロザンナに頼むことにして、俺は早々と冒険者ギルドを後にした。
当然のように俺の足は風呂屋へと向かった。
新月の夜道は深い闇が包む。
その闇を、建ち並ぶ家々から漏れる明かりが、わずかに照らす程度だ。
そんな闇を最後に払っているのは、道に立てられたガス灯だな。
このガス灯が無ければ、家々から漏れる明かりだけでは、歩くこともままならないだろう。
そんなことを思いながら、一際明るいガス灯の下で二人の街兵士に軽い敬礼で挨拶を交わし、少しだけ早足で風呂屋へと急いだ。
風呂屋の入口には、料金値上げの告知が掲示され、中の受付にも同様の掲示が貼られている。
受付のオバサンに値上がった料金を支払い、俺は数日ぶりの風呂をじっくりと楽しむことにした。
◆
脱衣所にも今いる蒸風呂にも、何故かわからないが見知った冒険者達の顔を見掛けない。
代わりと言うわけではないが、顔に覚えの無い体格の良さげな連中が目についた。
何人か見知った顔が居てもおかしくはない時間帯だと思うのだが⋯
冒険者達の動向を、俺は理解しきれていないのではなかろうか?
少しだけ、そんな気がしてきた。
蒸風呂で出来上がり、水風呂で軽く体を冷まし、広い湯船を楽しんでいると、脱衣所から店の客でもある冒険者数名と記憶の無い顔ぶれが一緒に入ってきた。
軽く挨拶を交わしたのだが、全員が口々に冒険者ギルドのオバサン職員のことを口にしていた。
きっと彼らがオバサン職員が言っていた最後の一組なのだろう。
◆
風呂屋でしっかりと出来上がった俺は、すぐに大衆食堂へと足を向けた。
風呂屋へ向かう時と同じように、通り過ぎるように、街兵士に軽く敬礼すると、大衆食堂の明かりが少しずつ近づいてきた。
向かい側の冒険者ギルドに目をやると、入り口は閉じているが、2階や受付カウンター奥の職員が執務する場所からは、明かりが漏れて見える。
先ほどポーションの鑑定を受け付けてくれたオバサン職員は帰ったのだろう。
だが、ギルマスのベンジャミンやニコラスが未だ残っているのだろう。
ふと、サブマスに昇進したキャンディスのことを思い出す。
休暇が終わってすぐに残業しているのだろうか?
そんな疑問が軽く頭をよぎる中、俺は大衆食堂へ足を踏み入れた。
「イチノスさん、いらっしゃ~い」
いつもの給仕頭の婆さんに迎え入れられた大衆食堂は、予想外に人が少なかった。
「エールと串肉でいいね?」
「あぁ、まずは一杯、頼む」
いつもの長机が空いていたので、いつもの位置に着くと、わかりきったと言わんばかりに、婆さんが注文を通してくれる。
代金と引き換えで木札を受け取り、改めて店内を見渡すと、未だ2つほど長机が空いていた。
客の着いている席は、どこもかしこも冒険者と商人が混ざっている感じだ。
どこかいつもの感じだが、全席が埋まっていないのは、麦刈りの影響だろうか?
ドンッ
そんなことを考えていると、遠慮なく婆さんがエールの入ったジョッキを机に置いてきた。
婆さんが運んできてくれたエールを、風呂屋で出来上がった体へ一気に流し込む。
ぷはぁ~
風呂上がりのエールが旨いぞ。
一仕事終えた後のエールが旨いぞ。
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