20-11 二人を褒める


 突き出された二人の手首を両の手で掴んだままだが、俺は二人を褒めて行く。


「二人とも凄いぞ。これだけ短時間で自分の思ったとおりに、意図したとおりに魔素を扱ってるんだ。俺は二人の才能を強く感じるぞ」


「へへへ(ニコニコ」

「そ、そうなんですかぁ~(ニコニコ」


 二人がいつになく嬉しそうな顔を見せ、声まで喜んでいる。


 まあ、次の段階が出来るかどうかなんだが⋯

 今はしっかりと褒めるから、二人には自信を持ってもらおう。


 そこで掴んでいた二人の手を解くと、最初にサノスが口を開いた。


「師匠、それでこの先はどうするんですか? 指先に着けた魔素をどうするんですか?」


「イチノスさん、もしかして今度は肩とかに魔石をあてるんですか?」


「いや、今日はここまでだ」


「えっ?!」


「もう時間が押してるんだ」


 そう言って壁の時計を指差すと、2時を回っていた。


「あっ、ポーション?!」


 サノスが気が付いてくれた。


「そうだな、3時までに漬け込まないとな」


 一方のロザンナは、わけがわからない感じだ。


 そんなロザンナに気が付いたのか、サノスが説明をしていく。


「ロザンナ、師匠のポーション作りは丸一日漬け込むんだよ」


「えっ? 一晩じゃないんですか?」


「私のは一晩だけど、師匠のは丸一日なんだって。私も自分で作った時に迷ったんだけど、まずはあの本のとおりに一晩にしたの」


「そうか、それでギルドのは1日浸けても良かったんですね」


 そんな会話をする二人へ、俺は少し警告を含めて伝えていく。


「サノス、それにロザンナ。これは魔導師イチノスのポーション作りの秘密の一つだから外で喋るなよ」


「あっ!」

「しゃ、喋りません!」


 慌てて返事をした二人が席から立ち上がった。

 それに合わせて俺も席から立ち上がり、3人で台所へ向かった。


 3人で台所へ入ったところで、俺から二人へ指示を出す。


「サノスとロザンナは選別に使う平笊(ひらざる)を作業場へ持って行ってくれ。そうだな、今回の量なら2枚でいいな。薬草は俺が持って行くから」


「はい」

「わかりました」


 そう答えたサノスとロザンナは、水を切るために立てていた平笊(ひらざる)を二人で一緒に作業場へ持っていった。


 俺はそんな二人を視界の端に置きながら、ポーション鍋に浸けていた薬草を一本一本取り出して水を切りながら平笊(ひらざる)へ置いていく。


 どの薬草も先ほどの回復魔法が届いたのか、それなりに元気な感じになっていた。


 そうして薬草を平笊(ひらざる)に乗せていると、先ほどの魔素を指先に纏わせる件でサノスとロザンナの会話する声が聞こえてきた。


(サノス先輩はどうしてるんですか?)


(う~ん、まずは魔石が胸元にあるのを意識してるかな)


(私もしてるんだけどな⋯)


(ロザンナは左手で魔石がどこにあるかを触ってるでしょ?)


(はい、どうしても左手で魔石を触っていますね)


(それを肌で感じると違うかもよ)


(肌で感じるですか?)


(そう、私も左手を魔石の上に置くけど、その時に魔石をこうして、軽く体に押し付けるの)


(あぁ、それで魔石が胸元にあるのを感じるんですね)


(そう、ここにある魔石から魔素を取り出すと考えれば、意外と簡単にできたよ)


(それが肌で感じるか⋯ 確かに私も肘に充てた時には、肘に魔石があるのを感じたな⋯)


 どうやら自分なりの方法で、サノスは魔石がどこにあるかを感じているようだ。


 確かにサノスが魔石から魔素を取り出す時には、一旦、胸元に手をやっていたな。

 あれは魔石の位置を確めていたんだろう。


 全ての薬草の水切りを終えたところで、水を張ったままのポーション鍋を『湯沸かしの魔法円』へ乗せて蓋をする。

 俺が作るポーションでは、この段階から漬け込む水を作っていくのだ。


 水切りを終えた薬草を平笊(ひらざる)に乗せて作業場へ持って行くと、作業場の机にはサノスとロザンナが持ってきた平笊(ひらざる)が2枚並べて置かれていた。

 その2枚に追加で薬草を乗せた平笊(ひらざる)を置いて行く。


 俺も自席へ座り、3枚の平笊(ひらざる)の向こう側に座ったサノスとロザンナへ説明を始めた。


「さて、約束したとおりに今回は二人に薬草の選別を手伝ってもらう。これから二人に手順を説明するから、静かに聞くように」


 するとロザンナが椅子に掛けた自分のカバンを膝に乗せて手を入れた。

 きっと、メモを取ろうとしているのだろう。


 だが俺は、ロザンナのそんな動きを止める言葉を続けて行く。


「尚、これから話すことは魔導師イチノスのポーション作りの秘密なので、メモを取るのは禁止だ。わかったな」


「コクコク」

 バタバタ


 サノスは頷き、ロザンナは慌ててカバンを元に戻した。

 そんな二人を確認して俺は話を続けた。


「まずは選別の基本的な流れから話すぞ。これは先ほどまで台所で水に浸かっていた薬草だ。これを一本一本手にして良し悪しを観て行く」


「「うんうん」」


「良いと判断した薬草は、反対側のこの笊(ざる)に乗せて行く」


「「うんうん」」


「少しでも良くないと感じた残念な物は、この真ん中の笊(ざる)だ」


「「うんうん」」


 サノスがニコニコしながら俺を見てくるのは、先月のポーション作りで既に見ているからだろう。

 ロザンナは初めてだからか、俺が笊(ざる)を指差す都度、興味深そうに見ていた。


「さて、肝心の薬草の良し悪しを判別する方法だが⋯」


 そこまで話して、一旦、言葉を止めて二人と目を合わせて行く。


「先ほどの魔素を指に纏わせた技法を使うんだ」


「やっぱり魔素を流すんですね!」


 そこまで口にしたサノスが、俺と目を合わせ直すと慌てて両手で口を押さえた。

 思わず声を出してしまった事に慌ててしまったのだろう(笑


 すると、サノスの様子を見ていたロザンナが手を上げてきた。


「はい、ロザンナさん。何が聞きたいかな?」


「イチノスさん、さっきの技法って指先に魔素を纏わせるのですよね?」


「そうだな」


「サノス先輩の言うように、薬草に魔素を流すんじゃないんですか?」


「サノスもロザンナも良い質問だな。ロザンナに聞いて良いか?」


「はい、何ですか?」


「ローズマリー先生も、やはり薬草に魔素を流してるのかな?(笑」


「あっ?!」


 ロザンナもサノスと同じ様に、慌てて自分の口を両手で押さえた。


 サノスは俺が薬草の選別をしているのを何度か見ている。

 魔素がそれなりに見えるサノスは何となくだろうが、俺が薬草に魔素を通しているのを見ていたのだろう。


 ロザンナは、サノスと同じ様に魔素が見えているだろうか?


「ロザンナは、先生が薬草に魔素を流すのを見たことがあるのか?」


ブンブン


 ロザンナが首を振って答えてきた。


「イチノスさん、私は魔素は見えないです。けれども、祖母から魔素を流して良し悪しを判断してる話しは聞きました」


「じゃあ、ロザンナは先生の手伝いか何かで、実際に薬草に魔素を流したことがあるのか?」


「何度かありますけど、私が流す時は右手から流すけど、左手は魔石に置いてるから⋯ あっ! そうか!」


 そこで、ロザンナが気がついたようだ。


 そこで、サノスが手を上げた。


「はい、サノスさん、どうぞ」


「ロザンナに質問です」


「何ですか? 先輩?」


「ロザンナが薬草に魔素を流して、その魔素は何処へ行くの?」


「その時は、祖母が葉の部分に触れてるんです。それで、私が根っこを持って魔素を流すんです。だから、薬草を通って祖母の手へ向かって流れてると思うんです」


 なるほど、ローズマリー先生はそうやってロザンナが魔素を流せるように教えていたんだな。


「サノスなら、それを一人で出来るよな?」


「えぇ、右手で流して、左手で受けとめるんですよね?」


「そうだな、それが魔素循環の基本だな。そこでサノスに質問だが⋯ 右手で流す時に、指先には魔素を纏わせてるのか?」


「えっ?」


 サノスが驚きの声で応えてきた。

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