20-4 『黒っぽい石』を調べる


 『何かを越える』感覚を何処(どこ)で感じたか、その時に『黒っぽい石』が、どう並んでいたか。

 この2点に注目して整理をして行けば、あの『何かを越える』感覚の正体へ近づける気がしてきた。


 確か『何かを越える』感覚は、全部で4ヶ所で感じたはずだ。


1.古代遺跡へ向かう道中

 ⇒ 不明


2.古代遺跡の通路

 ⇒ 通路に横並び


3.古代遺跡奥の部屋

 ⇒ 部屋全体を囲うように


4.古代遺跡の大広間

 ⇒ 大広間全体の縁取り


 俺は『何かを越える』感覚を得た場所と、その際の『黒っぽい石』の並びをメモに記して、共通点を探して行くことにした。


 3.と4.には共通点を感じる。

 丸い大広間の全体が『黒っぽい石』で縁取りされていたし、奥の部屋も部屋全体が『黒っぽい石』で囲われていたような気がする。


 まさかとは思うが、『黒っぽい石』で縁取りしたり囲った状態を作り、その囲われた領域へ足を踏み入れるのが『何かを越える』感覚の鍵なのか?


 確かに3.と4.は正に『黒っぽい石』で囲われた領域だ。


 だが1.と2.はどうなんだ?


 1.は⋯ わからない。

 『黒っぽい石』があったかすらもわからない。


 2.はどうなんだ?

 あの古代遺跡全体が『黒っぽい石』で囲われていたのか?

 確かに古代遺跡の入口の通路を、横切るように『黒っぽい石』が並べられていた。


 あの入口を横切るように並んでいた『黒っぽい石』が、そのまま続いて、あの巨大な古代遺跡全体を囲っていたのか?


 新たにメモを準備して、古代遺跡の全体を思い出しながら、それとなく書いてみる。


 古代遺跡の外壁は、石積で造られ緩やかな曲線を描いていたよな⋯

 古代遺跡の外側を、半分程度は歩いたが円形だった気がする。


 いや、円形だった。


 古代遺跡の内部で、俺は大広間を1周回って石積の壁を内側から眺めたのだ。

 あの古代遺跡の石積の壁は、大広間を囲うように円形だった。


 そして大広間そのものは円形だった。


 もしかして、入口を横切っていた『黒っぽい石』の並びが、そのまま続いて古代遺跡全体を囲うように円を描いていたのか?


 大広間も円形だった。

 奥の部屋も円形だった。


 やはり『黒っぽい石』で『円』を描いて囲むことが鍵なのか?


 ちょっと落ち着こう。


 今のこの場で、この『黒っぽい石』が古代遺跡の全体を囲っていたかはわからない。


 それに、最初に感じた『何かを越える』感覚は古代遺跡の外だ。

 古代遺跡へ向かう道中で『何かを越える』のを感じたのだ。


 もしもあの場所で、あの位置で『黒っぽい石』が何かを⋯ 例えば古代遺跡を囲む形で並べられていたならば、その大きさは途轍もない大きさだ。


 そもそも何を囲んでいたんだ?

 本当に古代遺跡を囲んでいたのか?


 ダメだ。

 1.と2.を考えて行くと、想定がどんどんと膨らんで行ってしまう。


 3.と4.では『黒っぽい石』が大広間と奥の部屋を囲っていたのは、明らかに判明しているのだ。

 その、わかりきっている点から考えを絞って行こう。


 そう思って目の前の6個の『黒っぽい石』を見つめて、溜め息が出そうになった。


 この手のひら大の6個の『黒っぽい石』で、囲うような円形を作れるのだろうか?


 試しに書斎机の上で『黒っぽい石』を並べて行く。

 出来上がったのは、かろうじて中央に手が入るかどうかの大きさだ。


 それでも試しに手を入れてみる。


 うん、何も感じない。


 並べてみた6個の『黒っぽい石』が、繋がっていない可能性を考えて何回か並べ直してみる。

 並べ直す都度に手を入れてみるが、何回試してみても、やはり何も感じない。


 これは無理だな。


 6個の『黒っぽい石』では、これ以上は調査も試行も進まない気がしてきた。

 確実に円形を作るには絶対的に数が足りないのだ。


 いっそのこと『黒っぽい石』を得るために、あの古代遺跡へもう一度出向いて、奥の部屋へ入って『黒っぽい石』を含んだ瓦礫を持ち帰るか?


 また魔の森の中を藪漕ぎして、古代遺跡の入口を開けて、奥の部屋へ行くのか?

 『黒っぽい石』を含んだ瓦礫を手に入れたら、奥の部屋の石扉を閉じて、古代遺跡の入口を閉じて⋯

 重い瓦礫を背負って藪漕ぎをするのか?


 う~ん、勘弁して欲しい。


 多分だが、冒険者ギルドでの古代遺跡の調査が、あの1回で終わりになるとは思えない。


 何せダンジョンが発見されたのだ。


 ワイアットやアルフレッド、そしてブライアン達の様子からすれば、近い内にダンジョン探索で再び古代遺跡へ行く調査隊が編成される気がする。


 その際に、奥の部屋から『黒っぽい石』を含んだ瓦礫を可能な限り持ち帰ってもらう依頼を出すことにしよう。


 そこまで考えて、少し後悔の念を抱いた。


 冒険者ギルドへ行ってもらったサノスとロザンナに頼めば良かった。

 ダンジョン探索に冒険者ギルドが取り組んでいるかを、それとなくでも聞いて来るように願えば良かった。


 いや、サノスならば父親であるワイアットが次の調査隊に入っているかを聞いている気がする。

 サノスとロザンナが戻ってきたら、ワイアットの様子をサノスから聞き出そう。


 そこで予定を記したメモ書きを見直した。


 今日と明日の俺はポーション作りで動けない。

 明後日の商工会ギルドで開かれる、相談役の業務内容や待遇の打ち合わせで、ギルマスのベンジャミンも来るんだよな?


 そこでベンジャミンに聞いてみるか⋯


 さて、今日この場で『黒っぽい石』について、これ以上の調査は不可能な気がしてきた。


 出来ることとは何だろうかと色々と考えて行くが、どうしても『黒っぽい石』を繋げて囲うことへ意識が行ってしまう。


 絶対的に『黒っぽい石』の数量が足りないから困難だと分かっているのに、同じことへ考えが行き着くのは思考が煮詰まっている証拠だな。


 念のために、6個の『黒っぽい石』が全て同じ物かを1個ずつ手に取って眺めて行く。

 どうやら6個は全てが同じ代物に思える。


 『黒っぽい石』は長方形の煉瓦の様な形状だから、薄く2つに割れば全部で12個になるよな。

 12個あれば並べて繋げて何かが得られる気がするんだが⋯


 ここで『黒っぽい石』の形を壊すことで、あの『何かを越える』感覚が得られなくなるのは本末転倒な気もするな。


 俺はそこまで考えて、少し『黒っぽい石』から意識を離すことにした。


 書斎の椅子に体を預けて目を閉じる。


 あの『何かを越える』感覚を、俺は他の何処かで感じた事はあるだろうか?


 今までに同じ様な感覚を得たことが有るかを、俺は目を瞑って記憶をゆっくりと辿って行った。



(カランコロン)

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