18-6 ここ数日の予定


 俺はサノスとロザンナに昨日の日当を払い、ここ数日の予定を話して行った。


「じゃあ、ポーション作りは来月の1日からやるんですね」


 ここ数日の予定を二人へ話し終えると、サノスが確認するように聞いてくる。

 そんなサノスの隣では、ロザンナがメモを取っている。


「そうだな。それで二人には、1日の昼までにギルドへ行って、薬草を受け取って来て欲しいんだ」


「わかりました。ロザンナと一緒に行ってきます。ロザンナは大丈夫だよね?」


「はい、大丈夫です」


「師匠、そうなるとポーション作りの1日と2日は、師匠は不在にした方が良さそうですね」


 サノスがポーション作りの様子を察したようなことを言ってくれる。


 サノスは、俺がポーション作りの二日間は店に出ないこと、そして俺が寝込むのを知っている。

 ポーション作りの期間は、他の用事を入れるのが難しいのが事実だ。

 だから、こうした言葉が出てくるのだろう。


「そうだな。すまんがそうしてくれるか?」


 そこまでサノスと話を詰めると、メモを書き終えたロザンナが口を開いた。


「イチノスさん、ここまでの話を整理してみました」


 そう言ったロザンナが、こんなメモ書きを見せてきた。


◆5月31日(火)

・商工会ギルド 魔石入札情報開示

・領主別邸 就任式


10時 魔石入札の件で商工会ギルドへ

 2時 馬車のお迎え


◆6月1日(水)

・ポーション作成一日目


11時 ギルドで薬草受け取り

 1時 ポーション作り


◆6月2日(木)

・ポーション作成二日目


◆6月3日(金)


◆6月4日(土)


◆6月5日(日)

・お休み


◆6月6日(月)


◆6月7日(火)

・商工会ギルド 魔石の入札



「ロザンナ、ありがとう。確かにこんな感じだね」


 ロザンナのメモ書きを眺めて、俺はポーション作りでサノスを関わらせるかを考えて行く。


 弟子であるサノスには、まだ上級や特級のポーションの作り方を教えていない。


 本来なら今度のポーション作りで、触りだけでも教えようとしていたのを思い出す。


〉私は師匠から

〉ポーション作りを教わっていません


 そんな会話をサノスとした記憶があるな。


 今回は薬草の量も少ないし、ギルドでポーションも作っている。


 まあギルドでのポーション作りは俺も関わったことだから、今更、どうこう言う気はない。


 いっそのこと店に置くポーションは本格的に方向性を切り替えるか?


 今回のポーション作りでは、これまで作ってきたポーションよりもレベルの高いものを作って、ギルド製との違いをハッキリとさせるのも良いかも知れない。


「サノス、今度のポーション作りで上級や特級ポーションの作り方の⋯ 触りだけでも教えるか?」


「えっ?! 良いんですか?!」


「あぁ、いつかはサノスに教えるものだ。但し、今回は触りだけだな」


「はい! 是非とも教えてください」


「今のサノスでは全てを教えられないから、まずは薬草の選別の段階だけを教える事になるぞ」


「ありがとうございます」


「あの⋯ イチノスさん⋯」


 そこまでポーション作りについてサノスと話すと、ロザンナが割り込んできた。


「ん?」


「私もポーション作りを教えてもらうのは無理ですか?」


「そうだ、師匠! ロザンナもポーション作りに参加できますか?」


「ロザンナもか? う~ん⋯」


 俺のポーション作りは魔素が扱える事が前提だが、ロザンナは魔素循環すら技能として持っていないから難しいかもしれない。


「う~ん 教えるのは構わないが⋯」


「イチノスさん⋯ やっぱり、難しいですか?」


 そう問い掛けてくるロザンナの言葉に、少し考えてしまう。


 俺を見ながらのロザンナの言葉は、弟子か従業員かの違いを問い掛けているような気もする。


「わかった。薬草の選別にはロザンナもサノスと一緒に参加してもらおう。但し従業員としての参加だ」


「イチノスさん、ありがとうございます」


 こうして店のために働いてくれる二人に、弟子だ従業員だの違いで、別の作業をさせるのも酷と言えば酷な話だ。


 サノスは俺に弟子入りしている以上、サノスが望むものは全て教える必要があるだろう。


 一方のロザンナは、あくまでも店の従業員だ。

 店の営業に必要なことには従事してもらうが、弟子であるサノスのように教えて欲しいと願われても教える必要はない。

 店の営業に関わらないことを、ロザンナに教える必要は無いと俺は考えている。


 まあ、今の段階では、この付近が弟子と従業員の差と考えるしか無いな。


「イチノスさん、ちょっと確認させてください」


 弟子入りしたサノスと、従業員として働くロザンナの扱いの差を頭の中で再確認していると、ロザンナが聞いてきた。


「ん? なんだ?」


「この5日の日曜日ですけど、私もお休みでいいですか? 実は教会のミサへ行きたいんです」


「あぁ、問題ないよ。店が休みだからね。サノスもたまには休んだらどうだ?」


「教会かぁ、私も久しぶりに行こうかな⋯」


「先輩も一緒に行きましょう!」


 サノスの呟きにロザンナが前のめりに誘ってきた。


「師匠も一緒に行きませんか?」


おいおい


 そこでサノスは俺にフルのか?(笑


「いや、すまんがその日はちょっと休ませてくれ。たまには、何もしない日が欲しいんだよ」


「「⋯⋯」」


 俺の返事に黙った二人の目が細くなり始めた。


「師匠、なんか⋯ 年寄り臭い感じです」

「えぇ、お祖父ちゃんも同じことを言う時があります」


「いや、まだ数日先だろ? 何が入るかわからないから、今は空けて置きたいんだよ」


「へぇ~」

「⋯⋯」


 ダメだ。

 言い訳がましい返事では、二人の連携を躱せない。

 これでは押し切られる可能性が高い。


 俺はそれ以上は応えず、知らん振りをしてロザンナの書いたメモへ目を移した。


 それにしても、このメモ書きは良くできてるな。


「ロザンナ、このメモ書きは良くできてるな。もらっても良いかな?」


「えっ? 良いですけど、すいませんが写しを作らしてください」


 まあ、そうだな。

 俺だけが持つよりも、写しを店に置いておいた方が、サノスもロザンナも便利だよな。


 俺の言葉にロザンナが目を細めていた顔を戻して、メモ用紙を新たに取り出して写しを作り始めた。

 残るサノスには、魔法円の微調整を問い掛けて行く。


「サノス、微調整はどうする?」


「はい、やり方を教えてください」


 俺の言葉にサノスも顔を戻して素直な返事をしてきた。


「じゃあ、台所にある金属製の小皿はわかるかな? 5枚あるはずだから、全て持ってきてくれ」


「はい」


 返事と共にサノスが立ち上がり、台所へと向かった。


 暫くすると、俺の指示したとおりに金属製の皿を手にしたサノスが作業場へと戻ってきた。


「師匠、もしかしてこれを上に並べてお湯を出すんですか?」


 サノスが金属製の皿を手にしたままで聞いてくる。


「なかなか、サノスにしては勘が良いな(笑」


「前からこの皿の使い方が気になってたんです。魔法円の調整に使うんですね」


「あ~ それの使い方がわかった気がします」


 サノスに続いて、写しを作っていたロザンナも気が付いたようだ。

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