17-14 やはり来ているそうです
この三通目の伝令って⋯
商工会ギルドのアキナヒも受け取っているんじゃないのか?!
「ギルマス、ひょっとしてですが、今朝の早い時間に、この伝令を受け取っていませんか?」
俺が三通目の伝令を指差して問い掛けると、ギルマスが快く応えてくれた。
「おう、朝一にウィリアム様の使いの者が持ってきたんだ。それがどうかしたのかい?」
この三通目の伝令が今日の朝一でギルマスへ届けられているのなら、同じ物が商工会ギルドのアキナヒへも朝一で届けられている気がするぞ。
俺は、この三通目の伝令の件も含めて、アキナヒはイルデパンと話し合っていた気がしてきた。
俺は昼前に商工会ギルドへ出向いた話をギルマスへ話して行く。
「実は昼前に商工会ギルドへ行って、アキナヒ殿と会ってきたのです」
「ん? もしかしてイチノス殿は、既にこの件でアキナヒ殿と会話されているのですか?」
「いえ、この三通目の伝令とは別で出向いたのですが、一方的に頭を下げられただけでして⋯」
そこまで告げるとギルマスが何かに気付いた顔をした。
「あぁ~ それでか?!」
そう返事をしたギルマスがやおら立ち上がり、執務机から新たな封筒を手にして戻ってきた。
「実はアキナヒ殿からこの後に会談を行いたいとの伝令が来てるんだよ」
ククク⋯ これで確定したな。
アキナヒからの謝罪には、やはりこの三通目の伝令が背景にあったんだと俺は確信した。
商工会ギルドのアキナヒから来たであろう伝令を振りながら、ギルマスが冗談交じりに聞いてくる。
「どうだろう? これからイチノス殿も一緒に商工会ギルドへ行かないか?(笑」
「ギルマス、昼前と昼過ぎに商工会ギルドへ行けと?(笑」
「いや。冗談だよ(笑」
「ですよね(笑」
「カカカ」「ククク」
互いに笑い声を交わしたところでギルマスが聞いてきた。
「イチノス殿、差し支えなければ昼前に商工会ギルドへ出向いた理由を教えてくれないか?」
「構いませんよ。むしろギルマスにも聞いて欲しい話ですね」
どうやらギルマスは、俺が昼前に商工会ギルドへ出向いたのが気になるようだ。
まあ、この後にギルマスがアキナヒと会うのであれば、事前に知りたいこともあるのだろう。
それにここでギルマスへ話しておけば、店へ突撃してくる連中への対策を両方のギルドで取ってくれそうだ。
そう考えた俺は、商人達が店を訪れて問題を起こしたことや、何人かの商人が連行された話をして行った。
また、大衆食堂で待ち伏せされた話も、ギルマスへ伝えていった。
◆
「それは災難だったね」
商人達の行動について話し終えた俺にギルマスが頷いてくれた。
ギルマスの頷きで、俺の冒険者ギルドでの用件は済んだと判断して、帰途に着くことにした。
「さて、そろそろお暇(いとま)しますね」
「うむ、時間を取らせて申し訳なかった。冒険者達の行動については、ギルドからも警告を出しておくよ」
「ありがとうございます」
「冒険者達ならイチノス殿の店へ突撃は無いとは思うが、さすがに大衆食堂での行動まで、ギルドから指導するのは難しいと思うぞ(笑」
「それは無理だと私も理解しています。一番の懸念は店の従業員が迷惑を被ることですから」
「そうだな。だが、それこそ大丈夫だろう。ギルドもリアルデイルの冒険者も、皆がサノス殿やロザンナ殿の親族には世話になっているから、早々変な行動には出ないと思うぞ」
「そうですよね。私もそう思います」
ギルマスの言葉で改めてサノスの両親であるワイアットとオリビアさん、ロザンナの祖父母であるイルデパンとローズマリー先生、皆の立ち位置へ思いが行った。
ギルマスの言うとおりに、さすがにリアルデイルの冒険者達が、サノスとロザンナへ変な行動をする可能性は低いな。
「とにかくだ、無礼な冒険者が現れたら直ぐに言ってくれ。冒険者ギルドで出来るだけの対応をすると約束しよう」
そう言ったギルマスが手を出してきた。
「ありがとうございます」
その手を強く握って俺はギルマスと握手を交わす。
ギルマスの口調からすると、店へ突撃してきた冒険者は活動停止をくらいそうだな。
まあ、そうしたお仕置きもあると理解してもらおう(笑
ギルマスは、少し執務を終わらせてから商工会ギルドへ向かうとの事で、俺だけが退散することにした。
ギルマスの執務室を出て、冒険者ギルド2階の廊下へ出ると、会議室のドアが開いていた。
中を覗いてみると、ワイアットもアルフレッドもブライアンも居らず、ニコラスが1人で書き物をしていた。
ニコラスは、俺が会議室を覗いているのに気付かないほどに集中しているようだ。
明日の報告会へ向けた資料を整えているのだろう。
少し迷ったが、俺は昨日のニコラスの言葉を確認してしておくことにした。
「ニコラスさん、ご苦労様です」
「あぁ、イチノス殿」
俺が会議室へ入り声を掛けると、書き物の手を止めてニコラスが応えてくれた。
「ちょっと、教えて欲しいんだが良いかな?」
「はい、何でしょう?」
「ジェイク様はリアルデイルへ来てるのかい?」
「⋯⋯」
「昨日の帰還報告の帰り際に、ニコラスさんが言ってたよね?」
「あの件ですね。イチノス殿、忘れてください⋯」
「えっ?」
「実は、ギルマスから注意されたのです」
何となく理解できる話だ。
貴族の動向をむやみやたらと口にするのは、時として問題の種になるし、特に公開されていない場合には尚更だ。
それでも俺は、本当にジェイク叔父さんがリアルデイルへ来ているのか聞いておきたかった。
それと、ジェイク叔父さんが来ているとして、どうしてニコラスがそれを知っているかを確かめたかった。
「ニコラスさんは知ってるとおりに、ジェイク様は俺の叔父さんだから⋯ それほど気にしなくて良いよ(笑」
「はぁ⋯」
「私が気になったのは、ジェイク様がリアルデイルへ来ていることを、ニコラスさんがどうして知っていたかなんだ」
「⋯⋯」
さすがにギルマスから注意を受けているから、ニコラスは答えづらいのだろうか?
「わかりました。絶対に秘密にしてくれますか?」
よし、話してくれそうだ。
「あぁ、もちろんだよ。その事でニコラスさんを咎める気は一切無いし、誰にも告げたりしないから」
「お願いですから、ギルマスには黙っててください」
「おぉ、ギルマスはもちろん、誰にも話さないと、イチノス・タハ・ケユールが誓おう」
「わかりました⋯ 実は友人がジェイク様に仕える者でして、ジェイク様へ同行して、昨日、リアルデイルへ来ると手紙をもらっていたのです」
おいおい
ニコラスの友人がジェイク叔父さんに仕えている?!
どうしてこう、世間は狭いんだ?
「じゃあ、昨夜は伝令で領主別邸へ行った際に、久しぶりに友人に会えたのかな?」
「いえいえ、昨夜は無理です。今夜、会う予定ですけど?」
「そうか、無理に聞いて悪かったね。じゃあ、楽しんで来てね」
「はい、ありがとうございます⋯ あの、お願いですから⋯」
「安心して、ニコラスさんもニコラスさんの大切な友人も、誰一人として罰することは無いからね」
そうした話をして、俺は会議室を後にした。
冒険者ギルドの2階からの階段を降りながら、ニコラスの言葉を辿って行く。
〉昨日、リアルデイルへ来ると
〉手紙をもらっていたのです
事前にニコラスが友人から手紙をもらっていたなら、ジェイク叔父さんがリアルデイルへ来る予定は前から決まっていたんだな。
何かがあって急に来た訳では無いと言うことだ。
そんなことを思いながら階段を降りきり、受付カウンターへ目をやると、冒険者らしき格好をした数名がタチアナと話し込んでいた。
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