17-12 ウィリアム叔父さんへの報告


 冒険者ギルド職員のニコラスに案内されたのは、昨日、調査隊の帰還報告をした2階の会議室だった。


 2階へ上がった途端に、会議室からアルフレッドとブライアン、それにギルマスのベンジャミンの声が廊下へ漏れ聞こえていた。


コンコン


「イチノス殿をお連れしました」


「おう、入ってくれ」


 ニコラスが会議室のドアをノックし、中へ伺いを立てるとギルマスの声が応えた。


「失礼します」


 そう告げたニコラスがドアを開けると、ギルマスとワイアットの顔が見えた。


 ギルマスは朗らかな顔なのに、ワイアットは感情を圧し殺した感じの顔だ。


「ニコラス、ご苦労様。イチノス殿、座ってください」


 ギルマスの言葉に、ドアを押さえるニコラスを越えて会議室の中へ入れば、空席は出入口付近に2つ。


 出入口の方にはニコラスが座るだろうと思い、俺はもうひとつの空席へ座ることにした。


  ワイアット ベンジャミン

 ┌────────────┐

ブ│            │イ

ラ│            │チ

イ│            │ノ

ア│            │ス

ン│            │

 └────────────┘

  アルフレッド ニコラス

        │ 出入口 │


 俺が座ると共にドアを閉めたニコラスも席に着いた。


 全員が座ったのを確認して、ギルマスが立ち上がる。


「さて、全員が揃ったので始めます」


「「うむ」」「⋯⋯」


 アルフレッドとブライアンは応えるがワイアットは頷くだけだ。


「昨夜、ウィリアム様へ伝令を出しました。その返答の伝令を昼前にいただけましたので読み上げます」


「「「⋯⋯」」」


「古代遺跡の調査、誠に大義であった。大きな成果を出していただけたことに心から感謝する。ついては詳細な報告を願いたい。功労者の方々と冒険者ギルドへ報酬も出したいので、明日の30日3時に領主別邸へ来ていただきたい」


 そこまで、ギルマスが手にした伝令らしき紙を読み上げると、会議室の全員を見渡した。


 ギルマスの視線に釣られてアルフレッドとブライアンを見れば、互いに嬉しそうな顔を見せ合っている。


 二人とも、報酬が出ることに喜んでいるのだろう。


 ワイアットは⋯ 相変わらず無表情な感じだ。


 それにしても、昨日の帰り道で話していたとおりに、領主別邸への呼び出しが決まったな。

 これは魔導師服を来て行くことになるな。


 そんなことを思った時に、ギルマスが言葉を続けた。


「なお、参加者は次の方々で願いたい。冒険者ギルド ギルドマスター ⋯ あぁ、これは私だね(笑」


「「ククク」」「⋯⋯」


 アルフレッドとブライアンはギルマスの意図的な笑いの誘いに応じるが、ワイアットは変わらない。

 ここまでワイアットが表情を出さないのは少し気になるな。

 何か思うことがあるのだろうか?


「冒険者 ワイアット殿」


 おっと、ギルマスが参加者の名を呼び始めた。

 ワイアットは、いわば調査隊の隊長役だったから当然だな。


「同 アルフレッド殿」


 うんうん


「同 ブライアン殿」


 これも当然だな。

 そして俺も呼び出すんだろうな⋯


「以上、ウィリアム・ケユール」


えっ?!


「「えっ?!」」

「!!」


 俺の思いに合わせるようにアルフレッドとブライアンが声を出し、ワイアットが初めて顔に表情を出してきた。

 ワイアットは俺と同じく驚きの表情なのだが、俺の思いとは違うものだろう。


 するとギルマスが笑いの混ざった顔を俺に向けてきた。


 何だ?

 なぜ、ギルマスは笑ってるんだ?


 いや、そもそも、ウィリアム叔父さんは、なぜ俺を呼ばないんだ?


 まあ⋯ 呼ばれないなら⋯

 それはそれで良いのだが⋯


 ウィリアム叔父さんは、俺をダンジョン発見の功労者の一人とは見ていないのか?


「ギルマス、それは⋯」


 ワイアットが何かを言おうとしたが、それをギルマスが手で制して言葉を続けた。


「ここまでがダンジョン発見へのウィリアム様からの返答です。ウィリアム様から指名を受けた皆さんは行けますよね?」


「おう、報酬が貰えるんだ。俺は行くぞ。アルフレッドもワイアットも行くよな?」


「まあ、貰えるものは貰いに行こう。ワイアットも行くよな?(笑」


「領主様からの命令だから行くが⋯」


 アルフレッドとブライアンが明らかに報酬に釣られた発言をするが、ワイアットは少し不満そうに答えた。

 そんなワイアットへギルマスが再び手を出して、ワイアットの続けようとする言葉を制した。


 ギルマスが俺を見て口を開く。


「イチノス殿、この伝令とは別にもう一通来ているのがあるんだ。聞いてくれるかな?」


「ん?」


 別の伝令?

 ギルマスの続ける言葉に、声を出したワイアットと思わず顔を見合わせてしまった。


「読みますね」


 そう告げたギルマスが含み笑いのある顔で俺を見てきた。

 誰の返事も聞かずに、ギルマスが別の伝令らしき物を手にして読み始める。


「魔導師イチノス・タハ・ケユール殿には魔法技術相談役の就任式へ参加し、その際に今回の発見についての報告を願いたい」


あぁ! やられた!


「魔法技術相談役の就任式は31日3時に領主別邸にて開催する。その旨の伝達を願う。ウィリアム・ケユール」


 そこまで伝令を読み終えたギルマスが、隣に座るワイアットを見やる。


「ワイアット殿、そんな伝令が来てるんだよ。これはウィリアム様から魔導師であるイチノス殿への配慮なんだろうね(ニッコリ」


「ま、まぁ⋯ そうだな(笑」


 おい、ベンジャミン!

 ワイアットへ向けた笑顔を、振り返るように俺にも見せるな!


 ワイアットも揃って俺を見るんじゃない!


(ククク)

 ワイアット! 今、少し笑っただろ!


((ククク))


ん?


 アルフレッドにブライアンまで釣られて笑うな!


 これは絶対に、ギルマスがウィリアム叔父さんへ何かの入れ知恵をした結果だ。


 魔法技術相談役への就任は領主命令だし、俺の唱える魔導師としての立場を尊重した話だ。


 明らかにギルマスが誘導している気がする。


「ククク⋯ イチノスは別日か」

「まぁ、仕方ないな⋯ ククク」


 アルフレッドとブライアン、明らかに笑いが漏れてるぞ。


 するとワイアットが宣言するように口を開いた


「よし、俺も腹を括った。行くぞ!」


「「おぉ~」」


「まあまあ、3人とも落ち着いてくれないか(ニヤニヤ」


 ベンジャミン、そこで3人へ落ち着くように手で制しながら、口角を上げた顔で俺を見るな!


「これで全員がウィリアム様へ報告に行くことが決まったね」


「「「おう!」」」


 ワイアット達がギルマスの言葉に頷くように答える。


「それで皆には申し訳ないが、今日これからウィリアム様への報告資料を作るのに協力をお願いしたいんだ」


「資料作り?!」

「俺が?」

「う~ん⋯」


「どうだろう? 難しいなら明日のウィリアム様への報告は口頭で説明することになるんだが⋯」


「うっ!」

「いや、さすがに⋯」

「ウィリアム様へ直接説明するのは⋯」


「そうだよね。ニコラス、どんな資料が必要なのかな?」


「はい、こうした報告資料を考えています」


 そう言ったニコラスが俺以外の3人へ紙を渡して行く。

 皆がニコラスから渡された紙を食い入るように見始めた。


「なるほど、俺は古代遺跡の中の図か」

「俺は西街道からの地図だな」

「ダンジョンと判断した理由か⋯」


 ブライアンが古代遺跡内部で、アルフレッドが古代遺跡への道順、ワイアットに至ってはダンジョンの判断理由とは、皆の得意そうな分担をきちんと考えている。

 これもギルマスの考えだろうか?


 いや、ニコラスがこの3人の得意そうな所を押さえて割り振っている気がする。


「じゃあ、後はニコラスにお願いできるかな?」


「はい、お任せください」


 そこまでニコラスと話したギルマスが俺を見て席を立ち上がった。


「イチノス殿はちょっと別室で話せるかな?」


 そう言ったギルマスが出入口の方を手で示してきた。

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