17-5 商工会ギルドへの道のり


 中央広場の芝生の上を歩きながら、商工会ギルドで話すべき事を考えて行く。


 まずは、商工会ギルドの誰へ話すかだが⋯

 俺はギルド長のアキナヒへ話そうと考えている。


 彼には店を開く際に一度会った記憶もあるし、ウィリアム叔父さんの公表の時にも来ていた。


 さすがにギルド長へ面談を申し込むなら、事前に先触れを出すべきだったか?


 だが、このところの商人達の突撃状況を考えると、そんな悠長なことは言っていられない。


 サノスとロザンナ、それに女性街兵士との会話からすれば、既に俺は商工会ギルドに属している商人達から迷惑行為を受けているのだ。


 そうした事実を商工会ギルドへ伝えて、商人達の行動へ早目に制限を掛けてもらう必要があるだろう。


 何よりも、店番をしながら魔法円の製作をしている、サノスとロザンナの邪魔をされないようにしたい。


 今、サノスとロザンナの二人は、自身が魔素を扱えると言う才能を自覚した上で、俺の店へ通っている。


 サノスは自身の将来として、明確に『魔導師』を選んで俺に弟子入りした。


 ロザンナは将来を模索する形で『魔導師』の仕事を体験するために、俺の店の従業員となった。


 そんな二人が、自らの学びとして『魔法円』を描く事に取り組んでいる最中なのだ。


 店に警備のために街兵士や冒険者を置く事を望まず、落ち着いた環境で『魔法円』を描き学ぼうとしているのだ。


 努力して『魔法円』を描き、その完成形を商品として販売して代価を得ようとしている。


 そんな二人を、個人的な利益の追求を優先させた商人達が邪魔をする。

 ついには俺が不在の店で問題を起こして、街兵士に連行される。


 俺はそんな状況は間違っていると思っている。


 それに商人が店を訪れて、街兵士に連行されるような行為はやめて欲しい。

 そうした行為は、店の評判を落とす事になり、営業の邪魔になる行為だ。


 俺の店を訪れるお客さんは、公表資料ついて知りたい商人だけでは無いのだ。


 先ほどは、公表資料を読み解く情報を銅貨数枚で売ることにしたが、あんなのは本来の店の営業行為では無いのだ。


 そして『相談役』としての対応は店では行わない。


『相談役へ相談に来た』


 そんな理由を付けて店を訪れ、何の配慮もなく俺の時間を割かれてしまうのは、なんとしても防ぐ必要がある。


 あくまでも、領主であるウィリアム叔父さんが決めた『相談役』は、商工会ギルドや冒険者ギルドを通じて行うと理解してもらおう。


 ギルド長のアキナヒと会えなくとも、そうした俺の考えを商工会ギルドへ伝えて、迅速に商人達への制限を掛けてもらおう。



 中央広場を突き切り、西町の反対側、東町に面する通りへと行き着いた。


 中央広場を囲む道を渡り、俺は東町の街並みへと足を踏み入れる。


 以前にサノスと来たときには、この付近で帯剣した街兵士を見かけて、西町を出たことを気にしたな。


 結果的に、その街兵士へ挨拶して、事なきを得たんだよな。


 今日はどうするか?


 まぁ、街兵士に会ったらその時に考えよう。

 とにかく今日は、商工会ギルドへ俺の意向を伝えるのを優先しよう。


 そうした事を考えながら歩いて行くと、東町の魔道具屋へ入る道が見えてきた。


 帰りに魔道具屋へ寄れるだろうか?

 あの魔法円の件が、どうなったかが少し気になるな。


 イルデパンは成果が得られたようなことを言ってたが⋯


 いや、今日、魔道具屋へ寄るのは正解じゃないな。


 今は御主人も女将さんも忙しいだろうし、あの御主人に魔法円の事で捕まると長くなりそうな気もする。


 今日はこの後に、冒険者ギルドで調査隊の詳細な報告もあるから、長くなるのは避けたい。


 それに今日は手ぶらだ。

 前回も手ぶらで、今回も手ぶらでは失礼になるだろう。


 きちんと前もって訪問を願って、魔道具屋の御主人の都合を確認して、きちんと手土産を準備して、あの魔法円の結末を聞きに行こう。



 そんなことを考えながら歩いていると、商工会ギルドが見えてきたのだが⋯


 商工会ギルドの入口に、後ろ手仁王立ちな街兵士が立っていた。


 先ほど考えていたとおりに、あの街兵士へ挨拶することで、俺が西町を出て東町へ入ったことを伝えれるな。


ん?


 なんで街兵士が、商工会ギルドの入口に立っているんだ?


 冒険者ギルドや商工会ギルドで、街兵士が入り口に立つことはそうそうない。

 まさかとは思うが、領主のウィリアム叔父さんが⋯ あり得ないな。


 立っている街兵士は一人だけだ。

 ウィリアム叔父さんの警護で街兵士が立つなら、もっと人数が多いだろう。


 以前に冒険者ギルド前に女性街兵士が立っていた時は、ローズマリー先生とロザンナの護衛が立っていたんだよな⋯


 そうだ、思い出した。

 その場でイルデパンが女性街兵士の任を解いたんだ。

 その後に、俺とイルデパンの護衛で着いてきた街兵士が交代する形で冒険者ギルドの入口に立った記憶がある。


 まさかとは思うが、イルデパンが商工会ギルドに来てたりしないよな?


 店で問題を起こした商人が連行されたことで、孫娘のロザンナを気づかったイルデパンが、商工会ギルドへ苦情を入れに来てたりするのか?


う~ん⋯


 いや、イルデパンが来ているなら都合が良いかも知れない。

 俺が東町へ来ていることも知れるし、女性街兵士が連行した商人の様子が聞けるかもしれない。


 いずれにせよ、商工会ギルドの入口に街兵士を立たせているのだ。

 街兵士上層部、副長官か長官の誰かが来ている可能性がある。


 イルデパンでなければ、東町街兵士副長のパトリシアの可能性もあるな。


 パトリシアが来ているなら東町の魔道具屋へ寄って、御主人から話を聞かずとも、魔道具屋で見たあの魔法円から得られた成果について、触りだけでも聞けるかも知れない。


 一番成果が無さそうなのは、長官のアナキンだな。


 月曜の公表に来ていたから、それなりに顔は覚えたつもりだが、俺は長官のアナキンとは具体的な接点は持っていないから、まずは挨拶からになりそうだな。


 そこまで考えた時に、後ろ手仁王立ちの街兵士と視線が合ってしまった。


 街兵士が直立不動になり、俺へ向かって王国式の敬礼を出してくる。


 挨拶がてら、それとなく誰が来ているか聞いてみよう。


 そう思って俺も王国式の敬礼で応えると、街兵士から挨拶の言葉が出てきた。


「イチノス殿、ご苦労様です」


 改めて声を出した街兵士の顔を見れば、見たことのある顔だ。


 東町の街兵士だよな?

 やっぱり、イルデパンが来ているのか?


「警戒ご苦労様です。もう先に来てるんだね」


「イチノス殿も合流される予定だったんですね。副長はつい先ほど入って行きました」


 少しカマを掛けるようにて聞いてみれば、素直に副長=イルデパンが来ていることを口にしてきた。


 これは、俺にとっては都合が良さそうな状況に思えてきたぞ。


「そうですか。ありがとう」


 俺は軽く敬礼をして礼を告げ、商工会ギルドへと足を踏み入れた。



名前の出てきた『アキナヒ』と『アナキン』は


・商工会ギルド ギルド長 アキナヒ

〉11-9 抱き合う女性同士その先は


・街兵士長官 アナキン・ストークス

〉11-8 なんと会合の場所はあそこでした


 を参照ください。

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