17-6 商工会ギルド
商工会ギルドの造りは冒険者ギルドに似ている。
入って直ぐに掲示板のあるホールがあり、ホールに面して複数の受付カウンターが設けられている。
それにしても、月初に納税で来た時よりも商人達が少ない感じがする。
たまたま商人達が少ない時間なのか、それとも時期の関係なのか、以前に来た時よりも目に着く色鮮やかなベストが少ない気がする。
ホールに設けられた掲示板には幾多の貼り紙がなされ、それを見上げる色鮮やかなベストを着た商人が二人だけだ。
今月の初めに納税で来た時は、カウンターに並ぶ商人達が多く、待たされた記憶があるが、今は誰一人として並んでいない。
やはり、月初の納税期は混雑していたんだな。
俺が初めて商工会ギルドへ来たのは⋯
店を開ける際に、コンラッドの薦めで『案内掲示』を出しに来た時だ。
冒険者ギルドでも出した、店の開店を知らせる『案内掲示』を出しに来たのが、俺の初めての商工会ギルドだったな。
『案内掲示』とは、依頼を張り出す掲示板に1週間単位で貼り出す、いわゆるギルドを利用する方々へ向けた『お知らせ』だ。
店を開く際に、コンラッドの薦めで開店のお知らせで利用させて貰ったのだ。
そんなことを思い返しながら受付カウンターへ行こうとして、カウンター下に貼られた貼り紙へ目が行った。
─
ホール内での商談禁止
商談は貸し会議室で
─
ククク このホール内で商人同士の商談は、確かに喧騒(けんそう)の原因となるから商工会ギルドとして禁止としているんだろう。
それにしても『貸し会議室』を勧める付近は、商工会ギルドが持つ商魂の逞しさを感じさせるな(笑
改めて受付カウンターへ目をやって一人の女性職員が気になった。
以前に店を開いた時に『案内掲示』を受け付けてくれた女性職員だと思う。
この女性職員には、月初の納税でもお世話になっているよな?
女性職員は母(フェリス)に似た短目の髪型で、色合いは明らかな茶髪だが⋯
月初に会った時よりも、髪の色が明るくなっていないか?
ん?
女性職員を注視し過ぎたのか、俺に向かって手を振ってるよな?
考えてみれば、この場で受付カウンターに用がありそうなのは、俺しかいないな(笑
そう思い直して受付カウンターへ進むと、女性職員が話し掛けてきた。
「イチノスさん、遅れたんですね?」
女性職員が微妙な言い回しをして来た。
どうやら何かの会合に俺も参加すると、女性職員は勘違いしてくれたようだ。
「そうですね。少し遅れてしまったかも?(笑」
受付カウンター内の壁に掛かる時計を見れば、10時半を回っていた。
「ちょっと、お待ちください。イチノスさんがみえたことを伝えてきます」
「お手数をお掛けします」
俺との会話を終えた女性職員が、受付カウンターの後ろの衝立の向こう側へと消えて行った。
イルデパンが商工会ギルドへ来ていることから、俺としては女性職員が勘違いした会合は、ギルド長のアキナヒとイルデパンの会合だと思いたい。
そしてその会合の内容は、俺の店で問題を起こして連行された商人に関わることだと思いたい。
ククク
自分で考えたことだが、都合が良すぎる気がするな(笑
女性職員が消えた行った衝立に目をやり、これが商工会ギルドと冒険者ギルドの大きな違いだよなと改めて思う。
冒険者ギルドでは受付カウンターの後ろに衝立は無く、どちらかと言えば開けた感じだ。
実際に冒険者ギルドならば、受付カウンターの向こう側で机仕事をする職員の姿を見ることが出来る。
対して商工会ギルドでは、そうした様子は全く見れない。
まあ、商人や店舗の納税も扱うのだから、職員の机仕事の様子を晒さない配慮だろう。
そんなことを思っていると、衝立の向こうから先ほどの女性職員が姿を表した。
「イチノスさん、ご案内します」
そう言って、俺を受付カウンター脇のスイングドアへと誘導してきた。
◆
女性職員に案内されたのは、商工会ギルドの2階だった。
女性職員の後について2階へと上がってきたが、ここまで商工会ギルドの職員達による机仕事は全く見えなかった。
机仕事が見えないように立てられた衝立は、天井付近まで届く感じで、もはや壁にも思えた。
そんな壁のような衝立で作られた通路を歩き、階段を上がり女性職員に連れて行かれたのは2階の廊下の中ほどの扉の前だ。
冒険者ギルドならば、ここは応接室か会議室だな。
コンコン
女性職員が扉をノックして声を掛ける。
「ギルマス、イチノスさんをお連れしました」
よし、無事に商工会ギルドのアキナヒに会えそうだ。
部屋の中からの返事を待って女性職員がドアを開けると、応接に座る後ろ姿の男性が見えた。
その向かいの応接から立ち上がろうとしているのは、会合でも見掛けた商工会ギルド長のアキナヒだ。
女性職員が押さえてくれたドアから部屋へ入ると、応接に座していた男性が振り返る。
うん
やはり東町街兵士副長のイルデパンだ。
だが、その姿は西町幹部駐兵署で見せた制服姿ではなく、俺の店を訪れた時のような私服姿だ。
「イチノス殿、ご足労をお掛けして申し訳ありません」
アキナヒは申し訳なさそうにお辞儀をしてきた。
そんな低姿勢で挨拶をしてくるアキナヒを応接に座り直すように勧めて、俺はイルデパンの隣に座ることにした。
「これで揃いましたね(笑」
イルデパンが俺へ微妙な言葉を掛けてくる。
その言葉を深読みすれば、俺が商工会ギルドのアキナヒを訪問するのが、わかっていたようにも感じる。
「そうですね。既にお話しはされていたんですか?」
「はい。イチノスさんに、これ以上の迷惑を掛けられませんから」
商工会ギルドのアキナヒは、俺の事を『殿』で呼んできたが、イルデパンは『さん』で呼んでいる。
イルデパンが俺を『さん』付けで呼んでくるのは、何か意図がありそうだな。
そうしたことを考えていると、アキナヒが座ったままだが深く頭を下げてきた。
「イチノス殿、まずは深くお詫びします」
アキナヒが謝罪をしようとしている。
俺からの意向を伝える考えでいたが、まずは頭を下げたアキナヒの謝罪の意味合いを掘り下げるか⋯
「アキナヒさん。頭を上げてください。頭を下げられたままでは、話が出来ません」
だがアキナヒは俺の投げ掛けに頭を上げずに、朗々と語ってきた。
「そうは言いますが、商工会ギルドの対応が不十分で会員である商人達を適切に導けませんでした。その事でイルデパン殿、そしてイチノス殿へご迷惑をお掛けしたのです。まずは商工会ギルドの対応不足を深くお詫びさせてください」
ん?
アキナヒの言い分が少し引っ掛かるな。
一気呵成(いっきかせい)に商工会ギルドに落ち度があるような言葉を並べているが、何処か引っ掛かる言葉に聞こえてしまう。
思わずイルデパンへ目をやれば、半ば、呆れるような顔をしている気がした。
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