17-4 商人へ詰め寄る女性街兵士
カランコロン
「ふぅ~」
3人目の商人が店を出たのを見届けて、俺は思わず息を吐いてしまった。
結局、3人の商人はそれぞれで封筒を購入して、大人しく店を後にした。
3人共に何かを言いたげな顔だったが、それに俺は一切応えなかった。
詳しく知りたいだろう商人としての気持ちを無視して、俺は冷徹な表情での接客を通したのだ。
冷徹な接客をしたことで、少しでも迷惑な思いをしていることが伝わればと願ってしまう。
ふと視線を感じて振り向けば、サノスとロザンナが作業場から顔を出して覗いていた。
どうやら二人とも、最初から最後まで見ていたようだ。
「師匠、さすがです」
「イチノスさん、お疲れ様です」
あんな接客にも関わらず、サノスとロザンナが褒めてくる。
俺は冷徹な対応だったからこそ問題なく済ませることが出来たが、サノスとロザンナの二人はかなり乱暴な商人達(酷い客)の相手をしたのだろうと想いを馳せてしまう。
そうした乱暴な連中を排除するためにも、一刻も早く商工会ギルドへ行く必要がある。
「じゃあ、俺は出掛けるから⋯ サノス、俺のカバンを取ってくれるか?」
そこまで言うと、一旦、顔を引っ込めたサノスが直ぐに顔を出すと、俺の外出用のカバンを渡してきた。
「師匠、これが売り切れたらどうすれば良いですか?」
「イチノスさん、追加して作りますか?」
サノスが問い掛けロザンナが対案を口にしてきた。
「いや、売り切れの札を出してくれ」
「「はい」」
「売り切れで騒ぐお客さんとか、封筒の中身で騒ぐお客さん、そうした迷惑な客が来たら、どちらかが裏口から出て、向かいの街兵士を遠慮無く呼んでくれ」
「はい!」「わかりました!」
俺はカバンを斜め掛けしながら、二人へ戻る時刻を告げる。
「夕方には戻るつもりだが、もしかしたら遅くなるかも知れん。俺を待たずに陽が落ちる前には帰れよ」
「「はい!」」
「じゃあ、行ってくる」
「「いってらっしゃ~い」」
コロンカラン
サノスとロザンナに見送られて俺は店を出た。
すると、店の前で色鮮やかなベストを着た一人の商人が、何かの紙を手にブツブツとつぶやいていた。
そんな商人を無視して、二人の女性街兵士が立つ簡易テントの前まで、俺は無言&早足ですり抜けた。
途中、商人をちらっと見たが、公表資料とロザンナが書いたメモを手にしているようだった。
背後から追いかけるような視線を感じる。
商人の視線を無視して簡易テントにたどり着くと、二人の女性兵士が俺に気づき、王国式の敬礼を出してきた。
「「イチノスさん、おはようございます」」
「おはよう」
俺も応えて王国式の敬礼を出して労いの言葉を掛ける。
「街の治安はお二人に守られています。いつもありがとう」
「「はっ! ありがとございます!」」
俺が敬礼を解くと、二人の女性兵士が笑顔で敬礼を解いてくれたので、俺も笑顔を作って二人へ声を掛ける。
「3人ほど連行してくれたんだって?」
「あぁ~ あの三人ですね(笑」
「はい、今も収監してます(笑」
そう答えた二人の視線が俺の背後へ向かった。
一人の女性街兵士は直ぐに視線を俺へ戻したが、もう一人の女性街兵士は俺の後ろから目線を外さない。
「来月になれば治まると思うんだけど、それまでは色々と迷惑を掛けそうだね」
「いえいえ、お任せください。しつこい商人がいたら遠慮無く連行します(笑」
そう語った女性街兵士の視線が俺の後ろへ行く。
明らかに先ほど立っていた商人、俺を追いかけてきた商人を見ているいようだ。
「じゃあいってきます」
「「いってらっしゃーい」」
軽く敬礼をして直ぐに解き、後ろを振り返ると色鮮やかなベストを着た商人が呆然とした顔で立っていた。
そんな商人を無視して歩むと、視界の端で二人の女性街兵士が商人へ詰め寄ろうとしていた。
◆
俺は冒険者ギルドと反対側、東西に走る大通りの方へ足を向ける。
商工会ギルドは中央広場を越えた先の東町の中央にある。
まずはリアルデイルの街を東西に走る大通りに出て、そこから中央広場を抜けて行くことにした。
この道順を選んだのは、東西を走る大通りへ出る途中に、洗濯屋があるからだ。
たまった洗濯物を、明日にでも洗濯屋に取りに来てもらうよう依頼することを考えたのだ。
しばらく歩くと洗濯屋が見えてきた。
既に店は開いている時間なので、俺は遠慮無く店の戸を開けた。
チリンチリン
洗濯屋の扉を開けると、何とも言えない香りが押し寄せてくる。
洗濯屋独特の香りだ。
それにしてもこの扉に着けた鐘の音は良い感じで、店のよりも上品な感じがする。
冒険者ギルドへ行く途中に、雑貨屋に置いているか見ておこう。
そんなことを思っていると、カウンターで仕事をしている女将さんが声を掛けてきた。
「あら、イチノスさん」
「おはよう」
「あれ? 手ぶらなの?」
「そうなんです。申し訳ありませんが、明日、集荷をお願いできますか?」
「随分と溜めたんでしょ?(笑」
「はい、しっかりと溜めてしまいました(笑」
すると、女将さんが棚から何かの帳簿らしきものを出してきた。
それをパラパラと捲ると、思わぬ言葉を口にした。
「前に来てから10日近いわね。台車か荷車で集荷に行った方が良さそうね(笑」
「えぇ、私もその方が良いと思います(笑」
女将さんの言葉に、先ほどの洗濯物の量を思いだし思わず同意してしまう。
「わかったわ。明日の昼過ぎになるけど?」
「えぇ、それでお願いします。それで今回は毛布が1枚あるんですが大丈夫ですか?」
「気にしないで。それよりイチノスさんは、衣替(ころもが)えの方は大丈夫なの?」
女将さんの言うとおりだ。
来月はもう6月なのだ。
そろそろ暑さも感じ始めている。
今日は長袖のシャツだが、来週には半袖に変えた方が良さそうだな。
「じゃあ、その分も出させてもらいます(笑」
「わかったわ。明日の昼過ぎに取りに行かせるわ」
「はい、それでお願いします」
女将さんとそんな会話をして、俺は洗濯屋を後にした。
◆
洗濯屋を後にして、俺は真っ直ぐに東西を走る大通りへと出た。
大通りを東町の方へと進み、程なくして中央広場へと辿り着く。
中央広場を囲む雑木林は、以前にサノスと東町の魔道具屋へ向かった時よりも、青々とした葉をつけている感じがする。
この中央広場はリアルデイルの街を横断する東西の街道と、縦断する南北の街道が交差する場所だ。
雑木が繁る広場を、馬車が通れる道でぐるりと囲んだ造りになっている。
中央広場を囲んだ道は、時計回りの一方通行で馬車が進み、それぞれの街道から来た馬車が、それぞれの街道へと抜けて行く仕組みになっている。
目の前を通る馬車が過ぎるのを待ってから道を渡り、俺は雑木が繁る中央広場へと入って行った。
中央広場に繁る雑木の中には、雑木を抜けるための小路が拵えてある。
その小路を進み雑木を抜けると、一気に視界が開けた。
辺り一面が青々と繁った広大な芝生の広場になっていて、所々に子供連れの親子が遊んでいるのが小さく見える。
まるで緑が香るような一面の芝生は、実に静かに昼前の陽射しをたたえている。
広大な芝生を囲むように作られた散歩道にはベンチが置かれ、年寄りが陽にさらされてのんびりと座っている。
こうして見ると、その完璧に整った広場の様子に感動すら覚えてしまう。
そんな広大な芝生の広場を、突き切るように歩きながら、商工会ギルドで話すべき事を考えて行く。
─
・中央広場
イチノスが以前にサノスと中央広場へ訪れた話しは
〉8-3 今日も店を休み、東町の魔道具屋へ
・リアルデイルの全体像
この物語に出てくるリアルデイルの街の全体像は
〉7-8 一年かけて街を拡げるそうです
を参照ください。
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