16-21 街道整備は誰がやるんだ


「はぁ~」


 アルフレッドが呆れるような溜め息を漏らした。


 それにブライアンが気付き、アルフレッドへ詰め寄る。


「なんだよ、アルフレッドは知ってるのか? 開拓団がいつ頃、何でリアルデイルへ来るのか知ってるのか?」


「徒歩だよ。歩いてくるんだよ」


「待て待て、王都から歩いてきたら1ヶ月は掛かるぞ。どうして馬車で来ないんだよ」


「ブライアン、それを見直してみろよ。王様からの命令は街道整備だろ?」


「これだろ? 西方⋯ これって西街道の事だろ?」


「ブライアンは街道整備の仕事も受けたことがあるよな?」


「あるぞ街中の石畳の修理とか⋯」


「その街道整備は誰がやるんだ?」


 アルフレッドがブライアンへ問い掛ける。


 その問い掛けに、当たり前のことを教えてやると言わんばかりにブライアンが答える。


「誰がやる? そんなの人夫が集まって皆でやるに決まってるだろ」


「ブライアン、その集まる人夫は一人や二人じゃないだろ?」


「10人以上は集まって⋯ そうか?!」


「その10人以上の人夫を駅馬車で王都からリアルデイルへ運べると思うか?」


「無理だな。そうなると、歩きか?!」


「そうだろ? そうなると開拓団は王都からここまで歩いてくるしかないんだよ」


 二人が言うとおりに工事に関わる人夫を大量に駅馬車で運ぶのは不可能だ。

 それに人夫の人々は基本的にはその日暮らしが多い。

 そうした給金では駅馬車には乗れるかも知れんが、馬を手に入れてリアルデイルへやってくるのは、まずあり得ない。


 それに人夫の数が一人や二人じゃないのだ。

 街道整備をするには確実に、10人単位での人夫が必要になる。

 そうなると考えれるのは、王都からリアルデイルまで徒歩での移動ぐらいしか考えられない。


 他にもうひとつ大人数の移動手段はあるが⋯

 そこまで考えるのは、今は止めておこう。


 それにしても、こうして改めて公表資料を手元に皆へ説明しながら考えると、王都が開拓団(移民)をリアルデイルへ送る粗筋と言うか思惑と言うか、意図がハッキリと見えてきた気がする。


 軽く思考に耽っていると、モンダラ商会のヤセルダが席を立ち上がった。


「いやぁ~ 今日は良い話を聞けました」


 それに気が付いたノムダケ商会のヨエルゾも、ホッチリ商会のカライカも席を立ち上がる。


「イチノスさん、それにアルフレッドさん。目から鱗が落ちた思いです」


「ブライアンさん、イチノスさん。良い気付きをありがとうございました」


 3人が言い終えるが早いか席を離れようとする。

 けれども、俺の隣に座ったイワセルは動こうとしない。


「それではこれで」

「「お邪魔しました」」


 そう告げた3人は、足早に大衆食堂から出ていってしまった。


「何かに気付いたんですかね?(笑」


 イワセルが呟くが、その顔はどこか笑っている感じだ。


「皆のジョッキが空だけど、お代わりはどうする?」


 足早に帰った3人の残した下げ物を片付けに来た婆さんが聞いてきた。


「皆さん。私が出しますんで飲んでください」


 婆さんの注文を取ろうとする声に、すかさずイワセルが銀貨を取り出して婆さんへ渡そうとする。


 だが、それをワイアットが制止してきた。


「待ってくれ! え~っと⋯ イワセルさんだっけ?」


「はい、ウマイゾ商会のイワセルです」


「すまないが、ここからは俺達だけで飲みたいんだが、良いかな?」


「おっと、気がきかなくてすいませんでした。それじゃあ、私はここでおいとまします」


 そう告げてイワセルが立ち上がると、ワイアットが急に変なことを投げ掛けた。


「ウマイゾ商会のイワセルさんは、兄弟がいるかい?」


 初対面で親族事を聞き出そうとするなんて、変な感じだ。

 ワイアットはイワセルが気になるのだろうか?

 それとも只の投げ掛けか?


「えぇ、いますが?」


「いや、変なことを聞いてすまん」


「それでは、皆さん、お先に失礼します」


 イワセルもそのまま、早足で大衆食堂から出て行ってしまった。


 その後ろ姿を見ていると、再び婆さんが聞いてきた。


「イチノスは、串肉でも焼くかい? 今日はオークが入ってるよ」


「じゃあ、串肉とエールで」


 俺の注文を切っ掛けに、皆がお代わりのエールを頼んでいった。



 それから、アルフレッドやブライアンと他愛ない話を重ねて行く中で、アルフレッドが何気に敬礼の事を口にした。


「イチノスは街兵士や騎士団に敬礼して回ってるのか?(笑」


 何とも答えにくい事を気軽に聞いてくる。


「自分から敬礼して回ってるわけじゃ無いぞ。向こうがしてくるから仕方なく返してるだけだよ」


「仕方なくか⋯」


「どうだ? アルフレッドもやってみたら?(笑」


「いやいや、勘弁してくれよ。俺には無理だよ」


「そうだよな。俺も勘弁だな(笑」


 アルフレッドだけではなく、ブライアンもお断りらしい。


「やっぱり、ワイアットもお断りだよな?(笑」


 アルフレッドがワイアットへ話を振る。

 当のワイアットは、イワセルが残していった公表資料を捲っていた。


「ん? 敬礼の話しか? 俺はお断りだ」


 そう答えながら、公表資料を閉じて俺へ返してきた。


「こんばんわ~」


 大衆食堂に似合わぬ声が聞こえてきた。


「あら、昨日は迷惑を掛けたね」


 婆さんが応える声に大衆食堂の出入口へ目を向ければ、二人の街兵士が立っていた。

 一人は若手な感じの街兵士でもう一人は⋯

 班長と呼ばれた街兵士だ。


 班長と呼ばれた街兵士と気付いて、思わず目をそらして公表資料を手に取り知らぬ顔をしてしまう。


「いえいえ、これも仕事ですから。今日は大丈夫ですか?」


 班長と呼ばれた街兵士の声が近づいている気がする。

 俺に気付いて声を出したり、敬礼したりするなよ⋯


「イチノス殿!」


 コラコラ そこで俺の名前を大声で呼ぶんじゃない!


(ツンツン) ワイアット、どうして俺をツツクんだ?!


(ククク) アルフレッド、笑い声が聞こえるぞ!!


(イチノス、呼んでるぞ) ブライアン、気が付いてるからぁ~



 適度に腹も膨れて酒も回った。

 巡回の街兵士への敬礼も済ませたので、大衆食堂を後にすることにした。


 ブライアンが南町へ誘ってきたが、大衆食堂へ巡回に来た街兵士の姿からイルデパンの言葉を思い出し、丁重に断った。


 南町を諦めれないブライアンがアルフレッドを誘っていたが、婆さんに『嫁さんに言いつけるよ』と脅されて小さくなってたから諦めたんだろう。


 店へ向かう道はガス灯の明かりだけの夜道だ。


 暗い夜道を歩きながら、自分自身へ軽く酔い醒ましの回復魔法を掛けて行く。


 今夜は少し飲みすぎたな(笑


 そんなことを思いながら、明日からの予定を頭の中で組んで行く。


 明日は昼から冒険者ギルドで調査隊の詳細な結果報告だよな。


 その後には特に予定は無いよな。


 今日はゆっくり寝て明日の朝も寝坊したいが、サノスやロザンナが起こしにくるんだろうな⋯


 明日は冒険者ギルドが終わったら、古代遺跡で手に入れた黒っぽい石を調べるのもありだな。


 そうしたことを考えながら夜道を歩いていると、街兵士が移設した簡易テントが見えてきた。


 明るいな?


 あぁ、今度はここのガス灯の明るさを調整したのか⋯


──

これで王国歴622年5月28日(土)は終わりです。

申し訳ありませんが、ここで一旦、書き溜めに入ります。

書き溜めが終わり次第投稿します。

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