16-19 商人達に襲われました


 婆さんの話から、商人達がウィリアム叔父さんの公表について、何らかの情報を俺から得たいと言うのがわかった。


 俺を捕まえるために三日も大衆食堂で張り込むとは⋯

 そういえば商人のアンドレアも、古代遺跡のことでワイアット達を捕まえたくて、この大衆食堂で張り込んでいたな。

 商人というのは話を聞き出すために、こうして張り込むのが当たり前なのか?(笑


 商人達が大衆食堂へ張り込み、俺を捕まえて聞き出したいのは、おそらくウィリアム叔父さんが俺を『相談役』に任命したからだろう。


 それに領主であるウィリアム叔父さんと、俺の関係を知っているからだろう。


 そんなことを思っていると、並んだ商人の一人が告げて来た。


「すいません。こちらの席へ移動しても良いでしょうか?」


「お、おぅ⋯」


 商人の問い掛けにワイアットが思わず答えている。


「私も、お邪魔させてもらって良いですか?」

「すいません。私も、お邪魔させてください」


「「お、おう⋯」」


 続く二人の商人が、アルフレッドとブライアンへ問い掛け、それぞれにワイアットと同じ様に頷いている。


 全部で3人か⋯

 あれ? 婆さんの後ろに並んでいたのは4人だったよな?


「面倒臭いから、あんたも一緒にさせてもらいな」


 残った一人の商人へ婆さんが声を掛けた。

 うんうん、一人だけを断るわけには行かないよね。

 婆さん、ナイスフォローだ。


 結果的に俺達4人と商人4人で、いつも座る長机が満席になってしまった。


「ワイアットさん、ありがとうございます」


 最初に同席を言い出した商人が、ワイアットの隣へ座ると、ワイアットへ名指しで声を掛けた。

 その商人の顔を見てワイアットが呟いた。


「確か⋯ 以前に会ってるよな?」


「はい、モンダラ商会のヤセルダです」


「思い出したよ、ヤセルダさんだ。久しぶりだな。どうだ、あいつらはちゃんとやってるか?」


「はい、良い方々を紹介していただき、ありがとうございます」


 どうやらヤセルダと名乗った商人とワイアットは面識があるようだ。

 その話しぶりから、ワイアットが誰かをヤセルダへ紹介したのだと伺える。


 そのヤセルダが、アルフレッドとブライアンを見て言葉を続けた。


「あの時は、アルフレッドさんにもブライアンさんにも助けられました。本当にありがとうございました」


「いやいや、こっちこそあいつらを護衛に使って貰って助かってるよ」


 そうワイアットが答えると、アルフレッドとブライアンが隣へ座った商人との話を止めて、ヤセルダの顔を見た。


 きっと自分の名を呼ばれて、思わず見てしまったのだろう。

 そして、アルフレッドとブライアンが何かを思い出したように口を開いた。


「モンダラ商会の⋯」

「ヤセルダさんか?! 随分と久しぶりだな」


 どうやらヤセルダと名乗った商人は、ワイアットだけではなくアルフレッドやブライアンとも面識があるようだ。

 更にはワイアットの口ぶりだと、冒険者の後輩か誰かを、商隊の護衛に使っている可能性が高そうだ。


 そしてワイアット達が思い出したところで、モンダラ商会のヤセルダが本領を発揮してきた。


「ワイアットさん、イチノスさんとは?」


「まぁ、ちょっとした知り合いだな」


「では、是非ともイチノスさんを紹介して貰えませんか?」


 まずいぞ、これはまずい。

 この商人はワイアット達との伝手(つて)を使って来る気だぞ。


 そう思っているとアルフレッドが話し掛けてきた。


「なあ、イチノス」


「ん?」


「ちょっと紹介したい方がいるんだ」


「えっ?」


「俺の宿屋を贔屓にしてくれてるヨエルゾさんだ」


「イチノスさん、はじめまして。ノムダケ商会のヨエルゾと申します」


 アルフレッドの言葉を受け、紹介された商人が名乗りを告げてくる。

 申し訳ないが、俺はこの商人は初対面だし、月曜の公表でも見掛けた記憶がない。


 これはアルフレッドの家業である宿屋を贔屓にしているという伝手(つて)を使って来たんだろう。

 まあ、アルフレッドの知り合いなら挨拶はしておこう。


「お二人とも初めましてですね。魔導師のイチノスです」


 俺が二人の商人へ軽く名乗りをすると、今度はブライアンが声を掛けてきた。


「イチノス、俺も良いか?」


「ん?」


「イチノスも知ってると思うが、ホッチリ商会のカライカさんだ」


 いやいや、知らないから⋯


「イチノスさん、はじめまして。ホッチリ商会のカライカと申します。ブライアンさんには随分とお世話になっております」


「カライカさんには、東町の拡大の時に世話になったんだ。すまんがちょっとだけ話を聞いてやってくれないか?」


 ブライアン、お前もか?!


 それに東町の拡大って何年前の話だよ。

 俺の知識では随分と前の話だぞ?

 俺がリアルデイルの街へ来たのは1年前だぞ。


「はじめまして、魔導師のイチノスです」


 流れで、ブライアンの紹介するカライカへも軽く挨拶をした。


 あぁ⋯

 この商人はブライアンを伝手(つて)にする気だな⋯


 すると、最後に俺の隣へ座った商人が声を上げてきた。


「イチノスさん、魔石の件ではお世話になりました」


 ん? たしかこの商人は⋯

 俺が店を開いて1週間ぐらいした頃に、魔石を買いに来た商人だよな?

 初めて店へ来てくれた商人だったから覚えているぞ。

 名前は何と言ったかな⋯


「たしか、以前に魔石を⋯」


「そうです、覚えていてくれたんですね。私、ウマイゾ商会のイワセルと申します」


 そうだ、イワセルさんだ。

 俺の記憶だと新参の商会だったと思うんだが⋯


「イチノスさん、今度は是非とも水出しの魔法円を新調させてください」


「あぁ、そうですか⋯ どうも⋯」


 これは俺の店の客だとのアピールか⋯


「お待たせ~」


 そうこうしていると、オリビアさんが両手にエールが入ったジョッキを持って俺達の座る長机へとやってきた。

 そんなオリビアさんの後ろには、残り少ないエールジョッキを手にした婆さんが、何かを言いたそうな顔で立っている。


 俺の隣へ座ったイワセルが、それに気が付いたのか声を上げた。


「みなさん、先に一杯、やってください。お姉さん、次のお代わりを全員分お願いします」


 そう言って、素早く銀貨を出してきた。

 それを見た他の商人達の動きも早かった。


「お姉さん、私からもお願いします」

「いやいや、ここは私が持ちます」

「いえいえ、私に出させてください」


 商人達の全員が素早く銀貨を出して、オリビアさんと婆さんへ迫っている。


 おいおい、そんなに飲めないぞ(笑


 するとワイアットが立ち上がった。


「みんなが飲ませてくれるなら、遠慮なく貰って良いな?」


「えぇ、是非とも一杯、出させてください」

「私からも、お願いします」

「私からも、一杯出させてください」

「皆さんで一杯飲んでください」


 商人達が揃ってエールを奢ると言ってくる。

 ワイアットはどうする気だ?(笑


 そう思っていると立ち上がったワイアットが声を上げた。


「みんな~ この商人の方々が、全員へ一杯、奢ってくれるそうだ!」


 大衆食堂へ響くワイアットの声に、周囲の長机に座っていた冒険者達が声を上げる。


「「おぉ~ ご馳走さんです!」」

「「「遠慮なくもらうぞぉ~!」」」

「「「「ごちそうさま~!」」」」


 おかげで、大衆食堂中がひときわ騒がしくなって行く。

 それでも同じ席に座った商人達は、誰一人として慌てない。


 むしろ、モンダラ商会のヤセルダなどは、すかさず立ち上がり、皆へ手を上げて演説を始めた。


「これも何かの縁です。みなさん、一杯、飲んでください。これからもモンダラ商会を宜しくお願いします」


パチパチ パチパチ

パチパチ パチパチ


 周囲に座る冒険者達から拍手が沸き起こる。

 それに応えてヤセルダが手を振ると、他の3人の商人も立ち上がった。


 これはこの後に商人達の挨拶が続くパターンだ。

 俺は手にしたお代わりのエールを早く飲みたいんだけど⋯


 結局、商人の皆さんの演説が終わって、大衆食堂の全員へエールが行き渡るまで、お代わりのエールはお預けになってしまった。


 まあ、こんなことも時にはあるよな⋯


 それにしても、大量のエールを配って走り回る婆さんとオリビアさんが大変そうだ(笑

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