16-5 開ける決断
俺達調査隊は、古代遺跡の中へと入り、新たな石扉を見つけた。
新たに見つけた石扉は、古代遺跡の入口と同じで、観音開きな扉を塞ぐように石板が嵌め込まれていた。
その石板には、古代遺跡の入口と同じように魔法円が描かれている。
俺がその魔法円を描き換え、ブライアンが石扉に取っ手を作り、開ける準備を整えた。
準備を終えた魔法円へワイアット達が魔素を流し、石扉を閉じていた石化の解除に成功した。
そして石扉をアルフレッドとブライアンが引き開けて行くと、湿った土のような匂いと共に魔物のゴブリン臭が、石扉の向こう側から漂ってきたのだ。
そこでワイアット達全員が、石扉の向こう側にダンジョンの入口があると言い出した。
俺へ視線を集める皆へ問い掛ける。
「俺が意見を言っても良いのか?」
「おう、イチノスの考えを聞かせてくれ」
「「うんうん」」
「どうしてダンジョンだと思うんだ?」
皆の判断を否定するわけではない。
だが俺には、ゴブリンの匂いがしたからといって、ダンジョンの入口があるとは思えない部分もあるのだ。
「もしかしたら、この扉の向こう側が外に繋がっているとは考えないのか?」
俺は敢えて、自分でも否定している考えを口にした。
俺自身、あの石扉の向こう側が古代遺跡の外だとは思っていない。
明かり取りの窓の並び方から、石扉の向こう側は古代遺跡の中だろうとは感じている。
けれども、今の俺はダンジョンがあるとは思いたくない気持ちが、心の奥底にあるのだ。
「例えばだが、この石扉の向こう側、古代遺跡の壁に穴が空いていて、外から、魔の森からゴブリンが入り込んでいる可能性はないのか?」
「無いな」
アルフレッドが間を空けずに否定すると、ブライアンが理由を告げてくる。
「実はな、イチノス。俺達は薪を拾いに行った時に、この古代遺跡の周囲を回って調べ直したんだ」
あぁ⋯
やることやってたのね⋯
そう思っていると、ワイアットが追い討ちを掛ける。
「前に来た時にも、他に入口がないかと回っているんだ。今回も念のために見直したんだよ」
ここまで言われると追い討ちと言うよりはトドメめだな⋯
それでも俺は抗ってみた。
「もうひとつの可能性としてだが、ゴブリンの巣がここまで延びてる可能性は⋯」
「イチノス、ここの周囲を見てるよな?」
俺の言葉を遮るようにワイアットが告げてきた。
ゴブリンの巣穴が延びている可能性があるなんて、俺も本気では思っていない。
それでも皆が口にする『ダンジョン』を俺は否定してしまう。
「イチノス、古代遺跡の外の景色を思い出せるか?」
ワイアットの言葉に、荒れ地のような草原の中、丘にすら見える古代遺跡の様子を思い出す。
そんな古代遺跡の中にまで、ゴブリンが巣穴を延ばすとは、俺自身も思っていない。
例えゴブリンの巣があったとしても、古代遺跡の中へ繋がるように延びている可能性なんて、無いに等しいのはわかっている。
まずいな。
今の俺は心の中でダンジョンを拒否しているな⋯
「わかった。ダンジョンの入口と考えるよ⋯」
俺は自分の考えの恥ずかしさも手伝って、皆の意見に同意してしまった。
「それで、イチノスはどうする? このまま開けるのに同意するのか?」
「あぁ、このまま開けるのには同意するよ」
「うっし!」「よっしゃ!」
アルフレッドにブライアン、嬉しそうな顔をするな。
俺はこれから否定的な意見を口にするんだぞ(笑
「但し、俺はダンジョンの調査には参加しないぞ」
「えっ?!」「おっ?」「⋯⋯」
「皆には悪いが、俺が調査隊に参加したのは『古代遺跡』の調査だ。ダンジョンの調査隊に参加した訳じゃない」
「⋯⋯」「う~ん」(ククク)
ダンジョンの調査に否定的な俺の意見に、アルフレッドが黙り、ブライアンが唸り、ワイアットが笑いを堪える。
「まあ、そうした考えもあるな」
「「⋯⋯」」
ワイアットの呟きに、アルフレッドとブライアンが腕を組んで考え始めた。
とうとう、俺は自分の考えを口にすることが出来た。
ダンジョンに期待を抱くアルフレッドとブライアン、そしてワイアットには申し訳ないがこれは譲れ無いぞ。
正直に言うが、俺は冒険者じゃないのだ。
ダンジョンに入って魔物と戦ったり、ダンジョンにあるという宝箱を見つけたいとか、そんな思いは一切、抱いていない。
「イチノス、それは建前だろ?(笑」
「ん?」
ワイアットの問い掛けには冗談が入ってるよな?
「ゴブリンやオークと向き合うのは、お断りなんだろ?(笑」
「あぁ、お断りだな。ゴブリンやオークの魔石は店で扱ってるし、オークのトリッパは好きだぞ。特に食堂でオリビアさんが作るやつは絶品だ⋯」
俺は自分が意味不明なことを口にしているのがわかる。
とにかく、俺の本音を伝えよう。
「だが、自分でゴブリンやオークを倒したりするのはお断りだな」
「ククク そうだよな。普通、魔物と対面するのは避けたいよな(笑」
アルフレッドが俺の気持ちを代弁してくれる。
うん、ありがたいぞ(笑
「イチノス、ダンジョンの宝箱はどうだ? 興味はないか?」
ブライアンが粘ってくる。
その言葉や口調は俺をダンジョンへ誘おうとしているぞ。
やはりブライアンはお宝第一のようだ(笑
そんな粘るブライアンを軽く制するようにワイアットが口を開いた。
「じゃあ、結論を出そう」
「「「⋯⋯」」」
「このまま、あの扉を開けるのは、全員が同意したな」
「「おう!」」「うん⋯」
「但し、ダンジョンの入口があっても、ダンジョンの中には入らない。ダンジョンのお宝を探すのは仕切り直しだ」
「うんうん」
「う~ん」「ククク」
俺が頷き、ブライアンが唸り声に似たものを返すと、アルフレッドが笑いを堪える。
そしてワイアットがブライアンの説得を始めた。
「ブライアン、納得してくれ。俺もダンジョンへ入っての調査には同意しない。今回の面子では危険すぎるんだよ」
「まあ、確かにそうだな⋯」
ブライアン、ようやく折れてくれたか?(笑
「さて、イチノスに質問だ」
ワイアットが改まって聞いて来た。
「俺に質問?」
「そうだ。イチノスは魔物を攻撃する魔法は出せるか?」
えっ? 何だって?
魔物を攻撃する?
ワイアットは何が知りたいんだ?
「ワイアット。すまんが、もう一度、言ってくれ。俺の何を知りたいんだ?」
「これから石扉を開けるために二人に引いてもらうだろ?」
そう告げながら、ワイアットがアルフレッドとブライアンへ目をやれば、二人が軽く頷いた。
「二人が石扉に取り掛かると戦力にならんから、イチノスにも覚悟して欲しいんだ」
あぁ⋯
何となくだが、ワイアットが言わんとすることがわかってきた。
「ワイアットが言いたいのは⋯ 二人に引いてもらい、俺とワイアットで石扉の前で構えると言うことか?」
「そうだ。開けた途端に中からゴブリンやオークが出てくる可能性もある。俺が前で構えるが、俺一人では応じきれない可能性もあるだろ?」
「そこで俺が魔法で魔物を攻撃するわけか?」
「そうなるな。その隙間から魔物の鳴き声は聞こえんから、向こう側にいるとは思えんが、用心はするべきだろう」
ワイアットが今にも開けそうな石扉を見ながら告げて来た。
アルフレッドとブライアンも再び軽く頷いている。
確かにこの石扉の向こうにダンジョンの入口があるのなら、ワイアットの言うとおりにそうした警戒もするべきだな。
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