王国歴622年5月28日(土)

16-1 調査隊 三日目の朝

王国歴622年5月28日(土)

・魔物討伐10日目 ⇒ 一時延期

・薬草採取解禁(護衛付き)

・調査隊3日目


 人の話し声で目が覚めた。


 薄暗い周囲を見渡して、ここが古代遺跡の中だと全ての記憶が繋がる。


 周囲は薄暗いが、天井の明かり取りの穴から見える空は明るい感じだ。

 陽が昇ったばかりの時間なのだろう。


 話し声はワイアットとアルフレッドだな。

 声のする方では二人が焚火の前で何かをしている。


 俺は起き上がって、まずは靴下を履きかえてから、ブーツを履いて敷物の毛布を片付けた。


 溜まった尿意を解消しようと隠し部屋へ向かう途中に、座って話をする二人へ声を掛けて行く。


「おはよう」


「おう、「おはよう」」


 ありがたいことに、既に起きている二人は、焚火の前で朝食作りをしていた。


 もう一人、ブライアンの姿が見えず⋯ 石扉の前か(笑


 そんなブライアンの姿を見て、石扉の取っ手の件を思い出したが、今は隠し部屋の方が先だ。



 隠し部屋で用を済ませて戻ったら、ワイアットに水を出してもらい手を洗う。


 再び石扉へ目をやると、未だにブライアンが石扉を調べていた。


 石扉を調べるブライアンを見て、俺は二人へ石扉を開けるために取っ手が必要なことを伝えて行く。


「そうだ。昨日言い忘れたんだが、あの石扉を開けるための取っ手を作らないといけないんだ」


「カカカ やはり必要か?」


「イチノスもそう思うんだ(笑」


 やはり必要? そう思う?

 もしかして、皆は既に石扉の状況を見て確認しているのか?


「もしかして、もう皆で見てるのか?」


「いや、ブライアンが言い出したんだよ(笑」


「うんうん」


 そこまで3人で話していると、ブライアンが小走りにやってきた。


「イチノス、おはよう。あれを貸してくれるか?」


「おう、おはよう。あれだな(笑」


 俺は自分の荷物から『砂化の魔法円』と『石化の魔法円』を取り出してブライアンへ渡した。


 2枚の魔法円を手にしたブライアンと共に石扉の前へ行き、昨日見つけた埋め跡と思われる部分を説明して行く。


「ブライアン、この部分がわかるか?」


「これだろ? さっきから気になっていたんだよ」


 どうやらブライアンは既に気付いていたようだ。


「俺が思うに、埋めた跡だと思うんだ。ブライアンはどう思う?」


「イチノスと同じだな。この感じだと石扉に凹(へこみ)を作って取っ手にしている感じだよな」


「どんな取っ手にするかは、任されてるんだろ?」


「あぁ、任されてる。そうだ、イチノス。この砂化は金属⋯ 例えば剣なんかに影響するのか?」


「いや、金属には影響しない。こうした古代コンクリートやモルタルにしか反応しないんだ」


「なら、剣をかざして砂にすれば、簡単に直線も出せるんだな?」


「まあ、そうだな(笑」


 どうやら、既にブライアンは取っ手のデザインを自分の頭の中で思い描いているようだ。


「じゃあ、借りるぞ」


 そう言って、早速、作業を始めようとするブライアンへ声を掛ける。


「ブライアン、使う時は魔石を忘れるなよ(笑」


「おう、そうだな(笑」


 そんな感じで、ブライアンへ軽く魔力切れの注意をして石扉の前から離れ、ワイアットとアルフレッドの元へと向かう。


 焚火の前で朝食の準備をするワイアットとアルフレッドの向かい側へ座ると、アルフレッドが呟いた。


「もうすぐ出来るんだが⋯ ブライアンは始めちゃったか⋯」


 ん?


「イチノス、木皿とパンを」


「おう、「そうだな」」


 そう応えたワイアットと共に立ち上がり、自分の荷物から木皿とパンを取り出す。


 すると一緒に立ち上がったワイアットは、そのまま石扉で作業をするブライアンの元へと向かった。


 二言三言、会話して二人で戻ってくるなり、ブライアンが口を開く。


「すまん、アルフレッド」


「温かいうちに食べてくれ」


 料理人らしいアルフレッドの口ぶりに、思わず笑いそうになってしまった。



 アルフレッドに取り分けてもらったスープとパンで朝食となった。


 スープは干し肉とイモのスープだ。

 若干だが、昨日のカレーを模したスープの名残を感じる。

 昨夜のスープは僅かに残っていた記憶があるから、アルフレッドは継ぎ足して作ったのだろう。


 そんなことを考えながら、朝食を摂っていると、アルフレッドがブライアンへ問い掛ける。


「ブライアン、どのくらい掛かりそうだ?」


「そんなに時間は掛からんと思うぞ」


「ワイアット、ブライアンが取っ手を作ったら直ぐに開けるのか?」


「それか⋯ イチノスもそれで良いか?」


 ん? 何で俺に聞くんだ?


「いや、俺もそれで良いと思うが⋯」


 そう曖昧に答えると、ワイアットが思わぬ話をしてきた。


「実はイチノスが寝ている時に、3人で少し話し合ったんだ」


 ん? 何の話をしたんだ?


「イチノスは、この古代遺跡の中を自分自身の目では調べてないだろ?」


 ワイアットの言葉に釣られて、ブライアンやアルフレッドが俺を見ている気がする。


 これは、皆が俺の返事を待っているのか?


 俺としては、あの石扉を開けて中を調べたら終わりでも良いのだが⋯


「イチノス。俺達3人は、隠し扉がないか、隠し部屋がないか、自分達の目で確かめている」


 まあ、確かにそうでしたね。

 その結果として、用を済ませれる暗い隠し部屋を見つけてますね。


「だが、イチノスには石扉の前で仕事をさせただけで、自由にこの中を調べる時間が無かったろ?」


 ワイアットが口にするのは正しいことだと思うのだが、俺自身に『古代遺跡の中を調べたい』そんな欲求が湧いていないのだが⋯


「まぁ、そうだな⋯」


「ブライアン、そんな訳だから急いで取っ手を作らなくても良いぞ(笑」


 ワイアットの問い掛けに答えた途端に、アルフレッドがブライアンを軽く諭す言葉で割り込んできた。


「確かに俺達ばかりが調べるのもイチノスに悪いよな⋯」


「イチノスにも、少しは古代遺跡の中を見て回る時間があっても良いと思うんだ」


 確かに俺は古代遺跡の中を詳しくは見ていない。


 新たに見つけた石扉、そこに刻まれた魔法円の描き換えも済ませているから、あの石扉を開いてその奥を皆は一時でも早く調べたいだろう。

 それでも、皆は俺に古代遺跡の内部を調べる時間を与えようとしている。


 そんな3人の言葉に抗うのは違う気がしてきた。

 ここは素直に3人の考えを受け入れよう。


「ありがとう。食べ終わったら自分なりに見て回るよ」


 俺は皆にそう答えつつ、朝食を済ませて行った。



 昼食を済ませた俺は、御茶よりも3人の言葉を優先させることにした。

 皆がやったのと同じ様に、大広間の周囲を時計回りに、隠し扉や隠し部屋、もしくは壁に何かあるだろうかと見回って行く。


 ワイアットが、俺にも見て回るように提案してきたのは、冒険者の思いを乗せてるのだろうか。

 それとも俺も調査隊の一員だと配慮した、俺への気遣いだろうか。


 ワイアットは、若い頃の古代遺跡探索で、割りを食ったような話をしていたな。

 そうした話しに、アルフレッドとブライアンは感化されたのだろうか。


 俺の事を調査隊の一員として考えてもらえているなら、喜ぶべきことだろう。


 だが、俺は魔導師で彼らは冒険者だ。

 ふっ そうした違いを俺が意識するのは失礼なことかもしれんな(笑


 そうしたことを考えながら、大広間の周りを時計回りに歩き、壁を細かく見ていった。

 かなり細かく見たのだが、結果的に、隠し扉とか隠し部屋を見つけることは出来なかった。


 それでも、壁に開けられた明かり取りの窓の並びを見ていて、ひとつの確信を得ることが出来た。


 それは、あの新たに見つけた石扉の付近には、壁に明かり取りの窓が見当たら無いことだ。


 壁に開けられた明かり取りの窓は、この古代遺跡へ入ってきた通路の上にもあり、最初に歩いた側にも、その反対側の壁にも設けられている。

 だが、新たに見つけた石扉のある壁付近には、明かり取りの窓が見当たらないのだ。


 これは、あの石扉の向こう側は、古代遺跡の『外』では無い可能性が高いと言うことだろう。


 つまりは、新たに見つかった石扉の向こう側には、何かがあると言うことだ。


 そうした事を考えながら歩いていると一周してしまったようで、石扉の前へと戻ってきた。


 そこにはワイアット達が3人で、ブライアンの作り上げた取っ手の感想を述べあっていた。

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