15-10 新たな石扉の調査


 ワイアット達が隠し部屋を探しに行ったので、一人残された俺は新たに見つけた石扉の調査へ取り組むことにした。


 新たに見つけた石扉の大きさは、古代遺跡入口で開けた物と同じぐらいの大きさで、やはり観音開きになっている。

 そんな石扉の中央には、古代遺跡入口と同じように石板が左右の石扉を繋ぐように、跨がって填め込まれていた。


 石扉の調査と言っても、俺がやるのはこの石板に刻むように描かれた魔法円の調査だ。


 まずは『水出しの魔法円』を使って水を出しながら、長い年月でたまった埃を洗い流して行く。


 魔法円を魔法円で洗うか⋯


 ククク 自分で言葉にしてみると少しだけ笑える表現だな(笑


 水を掛けタオルで軽く擦ると、埃が綺麗に落ちて行き、見覚えのある魔法円が姿を表した。

 やはり古代遺跡の入口で使われていた魔法円と同じで、4ヶ所の魔素注入口と内円に『石化』が描かれた複合の魔法円だ。


 そんな魔法円を眺めて、俺は少し残念な気持ちが湧いてきた。


 今回の古代遺跡の調査では、結局、新たな魔法円に出会うことは無さそうな気がしてきたのだ。

 複合の魔法円は俺自身も店の出入口に着けて、魔法鍵として使っている。


 やはりそう簡単に、新たな魔法円に出会うのは難しいことなのだろう。


 そうしたことを思いながらも、この後の作業方針を考えた。


 この魔法円にも古代遺跡入口で行ったのと同じように、切り換えの魔素注入口と砂化を描き足す流れで行くのが良いだろう。

 描き換えた魔法円を発動するには、魔素を扱える者が複数名必要になるが、それは既に入口で条件付けされている。

 この方法ならば、ワイアット達も入口の魔法円と同じ扱いで理解しやすいだろう。


 俺の知らない未知の魔法円に出会えないのは、少し残念な気持ちも残るが、これならワイアット達の希望を叶えれると気持ちを切り換えて行く。


 こうして入口に続いて再び同じ作業に取り組むのは、ワイアット達が望む金銀財宝への期待を叶えるためなのだ。

 これは魔導師としてのプライドと、冒険者達を相手に商売をしている自分自身の立場、それらのバランスを取る行為なのだと心の中で割り切って行く。


 さて、念のために入口の魔法円と、こいつが全く同じかを細かく見て行こう。


 まずは作用域だな。

 作用域も同じなら石板の固定が必要だな⋯


 そう考えて作用域を調べて気が付いた。


 あれ? 違うぞ?


 魔法円の作用域が入口の魔法円とは少し違う感じがする。


 この魔法円は石扉の接合部にしか作用していない。

 観音開きの合わさる部分だけを石化している気がする。

 入口のように、石板そのものを石扉へ貼り付ける造りにはなっていないのだ。


 だとすると、石板はどうやって石扉に固定しているんだ?


 石板の背面が、直接石扉へ固定されていると、かなり面倒なことになるぞ。

 石板の背面と石扉を繋げている部分まで作用域を調整することになる。


 古代遺跡入口の魔法円では、作用域の調整は不要だったが、この新たな石扉では作用域の調整が必要になるのか?


 それはもはや、新たに魔法円を描くのと同じだぞ⋯


 石板の固定方法を確かめるため、石板の右半分、石扉と接する部分にも水を掛けて埃を落として行く。

 すると石板が、古代コンクリートで石扉へ塗り固めるように固定されているのがわかった。


 その固定方法は、入口でブライアンが施した物よりは雑な感じだが、石板が石扉から外れないように爪まで備えているのがわかった。

 その爪も含めて、古代コンクリートで塗り固めて固定されているように思える。


 反対側、石板の左半分はどうなっているのかと水を出して洗いながら見て行く。

 左半分も古代コンクリートで固定されているが、右半分とは違って石板を固定するための爪が見当たらない。


 どういうことだ?

 もしかしてこれは、石板の左半分が石扉から外れることが前提になっているのか?


 石板の左半分は、石扉から外れることが許されていたのを、古代コンクリートで無理矢理固定している感じがする。


 この魔法円を使っていた時には、石扉の右側を開け閉めして使っていたということか?


 試しに『砂化の魔法円』を取り出して、石板の左半分を石扉へ固定している古代コンクリートを砂化して行く。

 すると、どうやら石板の左半分は石扉に固定されておらず、若干、浮いている感じが明らかになった。


 ブライアンを真似て、石板の左半分と石扉の隙間へ剣か何かを差し込み、石板の固定が外れているかを確認したいが、良さそうなものが見当たらない。


 薄刃の剣か糸のようなものがあれば⋯


 アルフレッドの天蚕糸はどうだろう?


 振り返ってアルフレッド達の行方を探すと、大広間へ入ってきた出入口の左側に皆で集まっているのが見えた。


 どうやら大広間を時計回りに回って、あそこまで行ったようだ。


 もう暫くすれば戻ってくるだろう。

 皆が戻ってきたら、アルフレッドから天蚕糸を借りるか、ブライアンに試してもらおう。


 そう考え直して石板へ向き直す。


 もう一度、石板右半分の石扉への固定具合を見直していて、あることに気が付いた。


 右側の石扉、その石板の下部に古代コンクリートで埋めたような跡が見て取れたのだ。


 これはもしかして⋯ 石扉を開ける際に引くための取っ手だったのか?


 だとすると⋯


 この石扉は、ある程度開け閉めして使われていたと言うことか?


 だとすれば⋯


 改めて内円に描かれた『石化の魔法円』へ水を掛け、タオルで擦って行く。


 よりハッキリと見えてきた『石化の魔法円』に、俺は周囲との微妙な違いがあることに強い違和感を覚えた。

 この内円に描かれた『石化の魔法円』は、元からあった何かを削り取って後から描いている気がする。


 もしかして⋯


 以前は石化と砂化の両方を行えたのではなかろうか?

 それを描き直して石化だけにしたのでは?


 俺が見ているのは、描き換えられた後の状態を見ているのか?


 まてまて


 それならば、石化と砂化の切り換えのための魔素注入口があるはずだ。


 もしかして、4つの魔素注入口のどれかが切り換えのためなのか?


 俺はタオルに水を含ませ、もう一度、魔法円を磨き直した。


 4つの魔素注入口から一つづ細く魔素を流し、魔法円の状態を確認して行く。


 ククク


 入口の魔法円と似ているがこの魔法円は別物だ。

 だとすれば、俺がやるのはこの魔法円を描き換えられた前に戻すということだな。


 よし、これが俺としての最終決定だ。


 そこまで決めた所で後から声を掛けられた。


「イチノス! どんな感じだ?」


「おぉうッ!」


 突然のブライアンの言葉に少し驚いたが、石板左半分の状況を確認してもらおう。


「ブライアン、この石板の左半分と石扉が離れてるかを確かめて貰えるか?」


「おう、任された」


 ブライアンが腰から剣を抜き石扉へと向かうと、石板の左半分と石扉の隙間に差し込んだ。


「イチノス、ちょっと相談があるんだ」


「ん?」


 ブライアンの様子を見ているとワイアットが問い掛けてきた。


「3人で話したんだが、今夜の野営はここでしないか?」


「えっ? ここって、この遺跡の中でか?」


「そうだ。皆で話したんだが、ここなら魔物への警戒を緩めれそうなんだ」


 アルフレッドが古代遺跡内で野営する理由を説明をしてきた。

 確かに古代遺跡の中ならば、魔物については、あの薄暗い通路だけを警戒すれば良さそうだ。


 それに床の具合も悪くないし、天井も高く焚き火をしても問題ないだろう。


「俺も賛成だな。そうすれば皆がゆっくりと寝れるんだよな(笑」


「ハハハ その通りだ。アルフレッドが入口に罠を張るから万が一魔物が入ってきても直ぐに気付くな」


「うんうん」


「それならそうしよう」


「「よし、決まったな」」


 そこまで話し終えた時にブライアンが声を掛けてきた。


「イチノス、終わったぞ。あの石板の左半分は浮いてるな。直ぐにでも開けるのか?」


「いやいや、まだまだだ。もう少し掛かるよ(笑」


((ククク))


 ブライアンの急かす言葉に、ワイアットとアルフレッドが笑いを堪える。


「ブライアン、さっきも話しただろ(笑」


「そうだよ、開けるのは明日の朝だ(笑」


「ハハハ そうだったな(笑」


 ワイアットとアルフレッドが軽くブライアンを諭す。

 どうやら早く石扉の中を見たい気持ちがブライアンは強いようだ(笑


「それでだ、俺達3人で暗くなる前に外へ出て野営の準備をしたいんだよ」


「外で薪を拾って来たいんだ」


「イチノスを一人にするが、どうだろう?」


 ワイアットとアルフレッドが俺を一人で残す話をしてくる。

 ブライアンは俺一人にすることに気を使ってくれた。

 だがこれは、むしろ俺にとっては都合が良いぞ。


 3人が外に出ている間に魔法円の描き換えを終わらせよう。


「全く問題ないぞ。むしろ俺が一人のあいだに描き換えを済ませて⋯ そうだ、あれをどうするかは任せてくれるよな?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る