15-9 新たな石扉


「ハハハ ワイアット、見えてたんだな?(笑」


「カカカ 気付いてないかと思ったぞ(笑」


 どうやらアルフレッドとブライアン、そしてワイアットも含めた全員が、大広間の反対側にある石扉に既に気付いていたようだ。


「じゃあ、まずはあそこまで行ってみようぜ」


「おう、まずはあそこだな」


 アルフレッドの掛け声で全員が荷物を背負ったままで歩きだした。

 先頭がアルフレッドで続いてワイアット、そして俺が3番目でブライアンが殿(しんがり)のあの隊列だ。


 先頭を行くアルフレッドが真っ直ぐに大広間を抜けて行くだろうと思ったのだが、何故か大広間を避けて時計回りに歩き始めた。

 その事を特に指摘する必要は無いだろうと思いながら、俺は二人の後を着いて行く。


 右側に見える円形の大広間の様子を見ながら歩いていたが、大広間を縁取る黒っぽい石と、そびえ立つ大きな3本の柱以外に際立ったものは感じない。


 そんな大広間を見るのも飽きたので、左側の壁へ目をやれば、所々に明かり取りと思わしき穴のような物があるのに気が付いた。


 その穴は一つだけでは無く、同じ高さで等間隔に並んでいる気がする。

 だがどの穴も外の明かりを取れていない感じだ。

 どうやら外壁に張り付いた蔦に覆われているらしく、一つ二つが僅かに明るい程度だ。


 大広間を挟んだ反対側の壁へ目をやると、同じ様な高さで同じ様な間隔で、明かり取りらしきものが見える。


 だが、そのどれにも光を感じない。

 もしかしたら北側であることから、日が射していないのかもしれない。


 そんなことを考えながら石扉を目指して歩いて行くと、アルフレッドとワイアットが並んで歩きながら話していた。


「なあ、あの扉は期待できるよな?」


「どうかな? 何にせよ扉らしきものは開けるしかないな(笑」


 二人とも隊列が崩れているのに気が付いていない感じだ。

 それに会話の様子からして、二人とも、お宝と出会えるだろうという期待が混ざった口ぶりだ。


「なあ、イチノス」


「ん? 何だ?」


 気が付けば後を歩いている筈のブライアンが俺の隣を歩いている。


「お宝が出ても俺達を燃やさないよな(笑」


「ククク ブライアンはもう一度、俺の火魔法を見たいのか?(笑」


「おいおい、イチノス。それだけは勘弁してくれよ(笑」


「ククク まあ、お宝が出るとは限らんからな(笑」


 気が付けばブライアンの手にした松明からは既に火が消えていたし、前を歩くワイアットの松明も消えていた。

 二人の松明が消えているのを見て、俺が予備として持っている松明も、それ程に長くは持たないのだろうと感じた。


 ワイアット、アルフレッド、そしてブライアンの3人とも、古代遺跡の中へ入ってから気が抜けていると言うか、緊張がとれている感じがする。


 格別に俺は緩んでいることが悪いとか、何か文句を言うつもりもないし、言いたいとも思っていない。


 3つの魔法円で閉ざされた古代遺跡の入口を開くと、お目当ての金銀財宝ではなく、薄暗い通路が現れた。

 そこで3人はどんな気持ちになったのだろう。


『薄暗い通路の奥に金銀財宝があるのではなかろうか?』


 そうした考えを持つのは、至極当然の事だと俺は思う。


 しかし、その通路の先、古代遺跡の奥へ進めば、金銀財宝が見つかるという保証が有るわけではない。


 それでもこうして古代遺跡の奥へと入ってきたのは、強い好奇心と財宝発見への意欲がもたらした賜物だろう。


 結果として、薄暗い通路を抜けると、俺達は大広間を備えた古代遺跡の中を見ることになった。

 その大広間は広く明るく、何とも言えない不思議な空間だ。


 この古代遺跡の外は魔物がいつ現れても不思議じゃない魔の森だ。

 そこでは、野営する時は勿論、普通に過ごす時でさえ、魔物が出現しないかと立番を立てる程に緊張を強いられる場所だ。


 それが古代遺跡の奥へと進むと、常に魔物の出現を意識する魔の森から切り離され、通ってきた薄暗い通路以外は魔物の出現を考えなくて済む、そんな落ち着いた空間になっているのだ。

 緊張を解くなとか、気を緩めるなと言うのも難しいだろう。


 そして3人の気の緩みに拍車を掛けているのは、今、足を向けている石扉だ。


『あの石扉を開ければ金銀財宝があるに違いない』


 何かの確証が有るわけではないが、そうした大きな期待を抱いてしまうのは、至極当然のことだろう。

 そうした期待が大き過ぎて、緊張が忘れられるのも仕方がないことだろう。


 しばらくすると、目的の石扉の様子がハッキリと見えてきた。

 それは白い二本の柱の間に渡る石扉だ。


「ワイアット⋯ あれって⋯」


「うーん⋯⋯」


 アルフレッドとワイアットの言葉に戸惑いが混じる。


「イチノス⋯」


 隣を歩くブライアンも戸惑いを伴った声を出してきた。


 皆へ戸惑いをもたらしたその石扉は、俺には古代遺跡の入口と同じに思えた。

 違いがあるとすれば、魔法円が刻まれた石板が中央に一枚あるだけだ。

 その特徴以外、大きさも観音開きに感じる造りも、全てがこの古代遺跡の入口と同じ物に見えてしまう。


「はぁ⋯」


 ブライアンが軽く溜め息をつき


「そう来たか⋯」


 ワイアットがそれを追う


「またかよ⋯」


 アルフレッドに至っては苛立ちが勝っているようだ。


 程なくして、俺達は4人で並んで石扉を眺めている。


 その石扉は明らかに古代遺跡入口と同じ造りで、観音開きな石扉だ。

 違いがあるとすれば、遠目に見えたとおりに、魔法円が刻まれた石板が中央に一枚あるだけだ。


「見た感じ、俺には表のと同じに見えるんだが⋯」


 皆の扉への感想はアルフレッドから始まった。

 アルフレッドの言う『同じ』は、石扉のことを言ってるのだろうか?

 それとも石扉に填められた石板に刻まれた魔法円のことだろうか?


 そんな感じで皆が石扉の前に立ち、幾多の感情を混ぜて話をしている。

 俺としてはこれも開けるのならば今すぐにでも取り掛かって終わらせたいのだが、まずは皆の考えに耳を傾けることにした。


「イチノス、これも頼めるかな?」


 アルフレッドは俺に頼むしかないとわかっているが、少し遠慮がちだ。


「イチノス、何が必要だ? 遠慮なく言ってくれ」


 遠慮なく言えとブライアンはいうが、ここで俺が我儘を言うと思うのか?(笑


「イチノス、まずはこれを調べるんだよな?」


 ワイアットは微妙な言い回しだが、既に開ける前提で話しているな(笑



「ククク」


「「「???」」」


 皆の意見に俺は思わず笑いが漏れてしまった。


 もう、皆の頭の中では、俺がこの魔法円を開ける前提でいる事が無性に笑えてしまったのだ。

 そんな皆へ、俺は一言、添えることにした。


「みんな、落ち着いて聞いてくれ」


「「「うんうん」」」


「ワイアットの言うとおりに調べないと開けれるかはわからないぞ(笑」


(ククク)


「ま、まあ⋯ そうだな」


「う、うん⋯ そうだよな」


 俺に釣られたように笑いを堪えたワイアットの声に、アルフレッドとブライアンは自分の言葉や気持ちに気付いたようだ。


「それにもしかしたら、この石扉の向こうは遺跡の外かもしれないぞ?(笑」


(ククク)


「いやいや」


「それは無いだろ~」


「とにかく調べるよ(笑」


「おぉ! 頼むぞイチノス!」


「イチノス、助かるぞ!」


「よし、決まったな。ここはイチノスに任せようぜ」


 そう告げたワイアットが言葉を続けた。


「それとだ、俺達は他も調べようぜ」


「隠し部屋か?! アルフレッド、一緒に探そうぜ!」


「そうだな、ここ以外も調べないとな」


 ワイアットの言葉にブライアンが殊更に反応した。

 ブライアンはワイアットが魔剣を得た『隠し部屋』を強く連想したのだろう。

 そしてアルフレッドもワイアットの魔剣を得た経験を思い出したのか、ブライアンに負けない程に同意している。


 皆の意見が揃ったので、俺はここまで手にしていた予備の松明を石扉の脇へ置いて、新たな石扉の魔法円へ取り組むことにした。

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