15-8 古代遺跡の内部


 古代遺跡の奥へと続く通路そのものは、全てが古代コンクリート製のブロックで造られていた。


 床から壁から天井まで、その全てが古代コンクリート製のブロックで組み上げられている感じだ。


 通路はそれなりの大きさだ。

 天井は気にせず歩ける高さで、幅もそれなりにあるのだが、とにかく薄暗い。

 前を行くアルフレッドの肩越しに、薄暗さが通路の奥まで続いているのがわかる。


 そんな薄暗さを照らす松明の灯りを眺めて、ワイアットが石扉の左側も開けると言い出さなかった理由がよくわかった。

 この薄暗さでは、例え反対側を開けても大差はなく、松明で凌げるとワイアットは判断したのだろう。


 そんなワイアットの手に持つ松明が、その歩みと共に闇と明かりを生み出して行く。

 まるで松明の灯りが、通路に行き渡る薄暗さと陣取りをしているようだ。


 それにしても、こうした通路の造りは何処かで見た記憶がある。

 入口で見えたアーチ状の造りが延々と奥まで続くその様子は、何処かで見たことのある景色だ。


カラカラ


 どこで見たのだろう?


ザシュッザシュッ


 王都にいた頃に見たのだろうか?


カラカラ

ザシュッザシュッ


 俺の前を歩くアルフレッドの糸車から天蚕糸が出される音と、皆の足音だけが通路に響いて行く。


 この通路はどこまで続くのだろう?


 そう思った時に、ワイアットの声が聞こえた。


「もうすぐだぞ」


 その声に釣られてワイアットの先へ目をやるが、松明の灯りの方が強くてよく見えない。


 むしろ、通路の先が壁になっているようにすら見える。

 その壁の左右に幽かな光が差し込んでいるようにも思えるのだが⋯


 ん? 光が差し込んでいる?


 この通路の奥、古代遺跡の奥には、外から光が差し込むような何かがあるということか?


 そう思っていると前方に向けた視界から、ワイアットとアルフレッドが消えた。


 えっ?


 慌てて先ほど見えた壁の記憶を頼りに一歩前へ進むが、やはり突き当たりのような壁があるだけだ。

 いや、よく見れば左右に隙間があるのか、僅かに光が漏れている。


 するとブライアンが追い付いたらしく、松明の灯りで周囲が急に明るくなった。


 通路の中央を塞ぐような古代コンクリート製のブロックで造られた壁が松明の灯りで照らし出されて行く。

 その壁の横を見れば、左右が通れそうになっていた。


「イチノス! ブライアン! 左側だ!」


 壁の向こう側から、アルフレッドの声が通路へ響いて行く。


 アルフレッドの言葉に従い壁の左側を見れば、何か動くものが見えた気がする。


 アルフレッドの出した天蚕糸か?


 その天蚕糸とアルフレッドの声を頼りに、壁の左側へと回り込む。


 壁の向こうはまたしても壁だった。


 だが、そこには光があった。


 先ほど抜けてきた壁は通路の中央を塞ぐように立っていたが、今度の壁は通路の幅を狭めるように通路の左右に立てられている。


 左右に立てられた壁の間には光が溢れていてやけに明るく、その明るさに目が追い付かない。


 これは明らかに、この奥、古代遺跡の奥には、光を取り入れる窓か穴があるのだとハッキリとわかる。


「イチノス、こっちだ」


 再び聞こえるアルフレッドの声。

 その声と共に光の中にアルフレッドが現れた。


 俺は天蚕糸から手を離し、その声に従ってアルフレッドを追うように光の中へと足を進めた。



 なんだこれは?


 そこに見えたのは、想像しがたい広さの空間だった。


 何と表現すればよいのだろう。


 エントランス?

 ホール?

 大広間?


 俺の乏しい語彙(ごい)では、この広い空間を表す言葉が出てこない。


 淡い光の中に大きな柱が見え、その大きく太い柱が丸みをおびた高い屋根を支えている。


 明るさに追い付いた目で見渡して行けば、王城にある大広間にも似ている気がする。


 王城の大広間には⋯ 

 幾多の思い出があるな⋯


 初めて王城の大広間へ足を踏み入れたのは、父に連れられてだったよな?


「これは⋯」


 ブライアンの呟きで、俺は嵌まりそうになった記憶の海から慌てて足を引き抜いた。


 振り返れば、ブライアンがアルフレッドに話し掛けていた。

 当のアルフレッドは、糸車から天蚕糸を引き延ばし、先ほど越えてきた石壁の何かに天蚕糸の端を縛り付けている。


「アルフレッド、こんなの見たことあるか?」


「無いな⋯」


「古代遺跡の中って、こんなに凄いのか?」


「いやいや、俺もこんな古代遺跡は初めてだ。ブライアンは⋯」


「俺もこんな古代遺跡は初めてだ。ここは誰も入ったことが無いんだろ?(笑」


 そんな会話の後に、二人は説明を求めるようにワイアットへ視線を向けた。

 それに習って俺もワイアットへ目をやるが、当のワイアットは柱やら天井を眺めている。


 ワイアットの視線に釣られて俺も天井へ目を向ければ、大きな穴がドーム型の天井の中心に空いている気がする。


 ドーム型の天井の中心に大きな穴⋯


 この造りも王城の大広間に似ている。

 王城の大広間との違いを見つけるとすれば、その穴がここからでもわかるが雑草で半分隠されている事だろう。

 王城の大広間で見た天井の大きな穴は、外からの明かりを取り入れる明り窓だと教えられた。

 この古代遺跡の穴も同じ明り窓だろう。


 そんな穴の見える天井までの高さは、王城の大広間よりは低いが、それでも俺の店よりも遥かに高い。

 外から見えた2階建てぐらいの石積の壁に加えて、ドーム型の丸みの分だけ高い感じだ。

 そんな天井を先ほど見えた大きな柱が支えている。


 柱の数は⋯ 1、2、⋯ 全部で3本。

 その3本が床から天井へとそびえ立ち、3本の柱の中央に大きな穴が空いているのだ。


 そんな天井から壁沿いに目線を下げて行き、大広間の様子を眺めて行く。


 俺達が立っている場所より一段高いところにある大広間は、白い大理石が敷き詰められた円形をしている。


 大きさ的には、この古代遺跡全体よりは三回りほど小さいのだが、そもそも建物自体が大きいのと、3本の柱しか見当たらないことから広く感じるのだ。


 面白いのは、これだけの大きさで一段高い位置にある円形の大広間の縁というか角が、通ってきた通路にも見られた黒っぽい石が縁取りのように填められていることだ。


 この黒っぽい石での縁取りがなされていることで、自分達が立っている場所と大広間の区別が、よりハッキリとしている感じなのだ。


 それにしても、この古代遺跡の中、この大広間は何なのだろうか?


 この広過ぎると思える大広間が設けられた目的は、いったい何なのだろう?


 やはり王城の大広間のように何かのお披露目の場なのだろうか?


 王城の大広間は、国王が主催する集まりで、多くの貴族がダンスを踊ったりしていた。


 また、国王から褒賞を与えられた騎士や貴族が集まり、親睦会のようなものが開かれた記憶もある。


 そういえば、ワリサダのような東国使節団だとか、他国からの訪問団のもてなしで、王城の大広間が使われていたな。


 そうしたことを考えると、これだけの大広間を備えるのは人を集めるのが目的なのか?


 この古代遺跡は多数の人が集まった場所だったのか?


 かつてこの古代遺跡が使われていたとき、人を集めるためにこれほど大きな建物や大広間が必要だったのは、何か理由があったのだろうか?


 この古代遺跡は変な感じだ。


 俺には、この古代遺跡が建てられた目的が全く想像できない。


 俺が知る限り、古代遺跡は誰かの墓だと聞いたことがある。


 王国が成立する以前、王国の各地方は、その地の豪族やら小国家が治めていたと学んだ記憶がある。


 それらの豪族や小国家を今の王国が纏めていった歴史を学んだ記憶がある。


 お宝に出会えるような古代遺跡は、そうした地方を治めていた豪族の墓だとか、小国家の王の墓だと聞いたことがある。


 いわば、古代遺跡の探索とは墓荒らしと同じなのだ。


 大広間の全体を見渡しながらそうした思いに耽っていると、アルフレッドとブライアンが、ワイアットを促す会話が聞こえてきた


「どうした、ワイアット?」


「ワイアット、どこから調べるんだ?」


「向こう側にあるのは入口と同じ様な扉だよな?」


 ワイアットの言葉に皆の視線が集まる先へ目をやれば、今は見たくないものが見えた気がする。


 大広間を挟んだ向かい側に、古代遺跡の入口と同じ様な白い石扉らしきものが見えたのだ。

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