15-5 3つ目も開けたその後で
最後に残った下段の魔法円についても、砂化での解除に成功した。
中段や上段と同じ様に、解除の仕上げにブライアンが剣を差し込んで、石化されていた部分の全般が問題なく砂化されていることを確認した。
そして、剣を抜き取ったブライアンが、改めて石扉の隙間から中を覗き込んだのだが⋯
「ブライアン、見えるか?」
「ダメだな。やはり中が暗いんだ。この隙間から光が差してる所は見えるが、扉が厚いからか他がよく見えんな」
アルフレッドの問い掛けに、ブライアンが石扉の隙間を指差しながら、残念そうな言葉を重ねる。
「やはり開けるしかないな」
「待て待て」
「「??」」
アルフレッドが開けることを促すが、ワイアットがそれを止めると、ブライアンとアルフレッドの頭上に疑問符が浮かんだ気がする。
「まずはさっきと同じ様に、この砂を片付けようぜ」
ワイアットがそう言って足元のシーツに溜まった砂を指差す。
「そ、そうだな、まずは片付けるか」
「あぁ、片付けたら開けようぜ」
逸る気持ちを抑え、ワイアットの提案に従って俺も含めた4人で協力して、湧き出た砂を移動した。
「よし、開けるぞ!」
「まずは押してみるぞ!」
俺とワイアットが見守る形で、やる気のあるアルフレッドとブライアンが、二人掛かりで息を合わせ、石板の固定されていない左側の石扉を押すが⋯
石扉は開く気配を見せない。
むしろ観音開きの石扉が閉まって行く感じすらする。
「ブライアン、もしかして押すんじゃなくて引くんじゃないのか?」
「かもしれんな、引けるか?」
そこでアルフレッドが右側の石扉に固定された、中段の石板へ手を掛けようとした。
「アルフレッド!」
「ダメだ石板が外れるぞ!」
アルフレッドは右側の石扉に固定された石板を使って、引いて開けようとしたようだ。
そんなアルフレッドへ、ワイアットとブライアンから待ったが掛かった。
「力任せに引いたら外れるぞ!」
「その真ん中のはイチノスがやったから!」
俺がやったからなんだ?!
ブライアンがやり直しただろ!
ブライアンとワイアットから、アルフレッドへ強目の注意が飛び出した。
「そうだな、その石板が割れたり外れたら、2度と閉めれなくなるな(笑」
俺も石板が割れる可能性に加えて、再び閉めることが困難になることを伝えてみた。
するとアルフレッドが慌ててブライアンとワイアットの顔を見ている。
それにワイアットとブライアンが揃って軽く頷いていた。
「じゃあ、どうするんだ? 取っ手でも付けるのか?(笑」
アルフレッドが冗談交じりだが反論を込めて言ってくる。
さすがに3人でアルフレッド一人(ひとり)を嗜めるのは良くなかったな(笑
「どうする? ブライアン」
「う~ん⋯」
ワイアットの問い掛けにブライアンが悩み始めた。
「ブライアン、取っ手でも付けるか?(笑」
「う~ん⋯」
アルフレッドの更なる問い掛けに、ブライアンが悩みを深めた。
「付けよう!」
「「「えっ!」」」
ブライアンの口から飛び出した言葉に、俺達3人は思わず声を揃えてしまった。
「俺が取っ手を作る!」
「ブライアン本気か?!」
「⋯⋯」
あぁ~ これは長くなりそうな感じだ。
俺が話し合いに参加していても決着しない気がするぞ。
「しかしな、ブライアン⋯」
「ブライアン、落ち着いて考えようぜ」
「いや、取っ手を付けた方がいいだろ」
これは三者三様の考えがぶつかり始めている。
これでは直ぐに結論は出ないだろう。
ブライアンが言うように、石扉に取っ手をつけるかどうかは、この古代遺跡と、これからここを訪れる冒険者達のことを考えて決めるべきだろう。
そう考えると、冒険者である3人(ワイアット、アルフレッド、ブライアン)で話し合って決めた方が良い気がしてきた。
確かに魔導師である俺は、この古代遺跡から俺の知らない魔法円や魔法を得たいとは思う。
だからと言って、魔導師である俺の考えを優先するのは違う気がする。
今後、この古代遺跡との付き合いが長くなるであろう、冒険者の意向を優先するべきだろう。
それに中へ入ってダンジョンの出入口が見つかったりしたら⋯
ダンジョン探索への同行を求められたら、俺は参加しない方向で話そう。
これはダンジョンに関わる、個人的な意向だな(笑
そういえば、3人は周囲への警戒、魔物への警戒を緩めている気がするぞ。
いっそのこと俺が立番に立って、3人で思う存分に話し合ってもらうか。
「みんな、聞いてくれ」
「ん?」
「なんだ、イチノス?」
「イチノス⋯」
「俺が立番をするから、開けるためにどうするかは、皆で話し合って決めてくれ。俺は3人の決定に従うから」
それだけ告げて、俺は石扉の前、3人で議論を重ねる場から離れることにした。
◆
今まで俺は、アルフレッドは古代遺跡の探索に、もっと冷ややかな考えだと思っていた。
けれども下段の魔法円を開けた付近から、かなりの熱量を示してきたのには驚いた。
いや、よくよく考えれば上段の魔法円を開ける時に、アルフレッドの流す魔素にはそれなりの勢いがあったな。
それに魔石から魔素を取り出すのを忘れるほどに、あの石扉を開けることに気持ちが向いていたな。
彼は彼なりに古代遺跡の探索に強い思いがあるのだろう。
それにしても驚かされたのは、あれほど殊更にお宝を願っていたブライアンが、時間の掛かることを自ら言い出したことだ。
今日この場のことを考えると、取っ手を付けるのは古代遺跡探索の時間を削ることになる。
そうした事を考えると、取っ手を付けることをブライアンが言い出すとは思わなかった。
もしかして、ブライアンの左官職人魂に火でもついてしまったのだろうか?(笑
何にせよ、皆の意見がひとつの方向を向いたのは称えることだな。
それにしても良い天気だ。
魔の森の森林の上に輝く陽が雲をかき分け輝きを放っている。
周辺の空気は澄みわたり、ここが魔の森の中であることを忘れるぐらいだ。
今日も素晴らしい天気になりそうだと、俺は心から感じた。
そんな中、森を見たり周囲を見渡して、魔物が出ないかを警戒するのが立番だ。
時には立番も良いものだな。
魔の森の森林を眺めるのは、自然との目での触れ合いと言えよう。
森からそよぐ風を身に受けるのは、自然との肌での触れ合いだな。
森から聞こえる鳥たちのさえずりと時折ざわつく葉音は、耳での自然との触れ合いだな。
そんな俺の自然との触れ合いを妨げてきたのはブライアンだった。
「イチノス、昨日の固める奴を貸してくれるか?」
「固める奴? 石化の魔法円だな?」
「それと、セメントも作るから鍋も借して欲しい」
「構わないぞ。結局、取っ手を付けることになったんだな」
「あぁ、俺とイチノスで取っ手を作ることになった」
はいはい。
俺は今日も左官仕事の助手ですね(笑
「ワイアットとアルフレッドは待ちか?」
そう言いながらワイアットとアルフレッドの行方を追えば、既に二人は自分達の荷物から何かを取り出そうとしていた。
「二人は松明作りだな」
松明作り?
確かに石扉を開けたとしても、古代遺跡の中は暗そうだな。
「さあ、イチノス。始めようぜ」
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